11羽 とりこぼし
「夕陽、ヒバリと羽地さんの様子どうだ?」
「楽しそうにやってるよ。子ども達もよく懐いてるし」
そうか、それならよかった。結局玄雄の思惑通りになった、ってわけだ。
「隼人もありがとな。お前の熱い思い伝わってきたぜ!」
当然だ、今回のことは俺のおかげ………………
「お前……全部聞いてたのか……?」
「ああ、手紙の入った封筒に鏡を仕込ませてもらった」
なんてこった……玄雄ならどうするって考えて発した言葉が、よりにもよって玄雄本人にすべて聞かれていたと?
「~~~~~~っ!」
「ははは、照れるな照れるな!」
この野郎、謀りやがった! ニヤついてんじゃねえよ! ……夕陽まで笑ってやがる!
「でもどうして羽地さんだったの?」
「羽地さんが『才能のある人間にはしかるべき活躍の場が与えられるべきだ』って言ってたの思い出してさ。羽地さんには父親の才能があると思ったから」
父親の才能とは? ……まあ子育ての経験もある人だし、納得できるって言やあ納得できるか? でもなあ、引退したとはいえ、この間鳳雛の家を襲った連中のリーダーだった奴だ。そいつにガキどもの世話させるなんて普通じゃないぜ。俺も手貸した以上は偉そうなこと言えねえけど。
「ま、いざとなったら俺がすぐ狩りに行くから大丈夫だよ」
「…………」
「どうした隼人? 黙り込んで」
お前が言うと冗談に聞こえねえんだよ!
「さってと、隼人、夜のお散歩行こうぜ!」
「は? 散歩?」
「行ってらっしゃい」
「え、ちょ……俺はまだ行くとは……」
「夜風が気持ちいいなー」
「何なんだよ急に」
流れで何となくついてきてしまった。夜の森は危険だからなるべく外には出ない方がいいんだけどな。……外で寝てる俺が言うのもなんだけど。
「やっぱり星は見えねーよな」
「当たり前だろ、あの天井があんだから」
玄雄は星一つない空を寂しそうに睨んでいた。
「なあ隼人、明日オオトリまで行ってみようか」
「え。お前それって……」
「このままじゃだめだよ。前に進まないと」
それはそうだ、でもあそこに行くってことは……
2年前、玄雄は鳳空飼をあと一歩のところまで追い詰めた。でも、あいつが現れた。それで、玄雄は殺されて、世界はあの天井に覆われた。……俺は何もできなかった。
「ダメだ」
「隼人……何で? このままでもいいと思ってんのか?」
「いいわけないだろ! でも……」
「心配してくれるのか?」
「心配……するに決まってんだろ! お前一回殺されてんだぞ?」
「……嬉しいなぁ。でもそれじゃ俺がここに来た意味がない。これ以上誰にも悲しんだり苦しんだりしてほしくない。 危険なんか覚悟の上さ。もし誰かが俺のこと殺そうとするなら、逆に殺し返してやる」
「そんなの……だけどよ……」
「お前が止めても俺は行くからな。ま、ちょっと調べに行くだけだからそんなに無理はしねえよ」
悔しいけど、俺じゃこいつは止められない。ついて行ったとして、こいつが勝てないような相手には俺は絶対勝てない。俺は……
「お前も一緒に来てくれよ。一人じゃ心細いんだ」
「……俺が行って何ができるって言うんだよ」
「隼人。お前は知らないかもしれないけどな、俺とお前が力合わせたら無敵なんだよ」
「……何だそれ」
流石に正面突破は無理があるので空から攻めることにした。玄雄の鳥獣化した姿は久しぶりに見たが、以前と少し姿が違う気がする。カラスはカラスなんだけど、足が三本生えている。どうしちまったんだろうか……
「お、見えてきたな」
「……ああ」
ビルの屋上から真っすぐに白い柱が伸びて空を隠す天井とつながっている。あの建物がオオトリ航空開発の本社ビル。俺と玄雄はひとまず屋上に着陸した。
「さて、ここからどうするかな……」
「考えてなかったのかよ……」
「ここから攻撃したらあの天井壊れないかな?」
「無理だろ。ミサイル撃ち込まれても傷一つつかなかったんだからよ」
「マジ? ヤバくね? これそんなに頑丈なのかぁ……」
「クエェ……」
クエェ、か。そうだよな、やっぱりお前もそう思うか。……あ?
「クエェ~ピヨ!」
「隼人! 避けろ!」
くちばしを突きおろしてくるのを右に転がって回避する。何だこの化け物!?
「お前の相手にはこいつがいいかと思って地下室から引っ張り出してきたんだが。早間隼人の方に襲い掛かってしまったか」
「……お前……何でこんなところに……」
玄雄が珍しく動揺の表情を見せた。……あいつまた出やがった『白牢の使者』……
「鏡界で会って以来か? ……この世界に逃れていたとはな」
「……なぜ俺の邪魔をする。お前ひょっとしてオオトリの社畜か?」
「それが運命だからだ。運命からの乖離は大罪だ、自分の世界に帰った方が身のためだぞ?」
「却下だ。俺はまだ何も救えてない」
「……愚かな。ならばそのまま彷徨うがいい』
さっきから何の話してんのか分かんねえけど……俺が立ち入れそうな雰囲気じゃねえな。
『チック。お前の相手は八田玄雄だ、間違えるな』
「クエェエエ!」
命令を出しながら、白牢の使者は姿を消した。あいつ、また……
あの怪物、チックは焦点の定まらない目で玄雄の姿を確認すると首をグラつかせながら飛び込んだ。あれが何なのかはわからんが、あんな知性の欠片も感じない化け物に玄雄が倒せるとは……
「グエェ~ピヨァ!」
チックが玄雄の右の翼に噛みついた。玄雄は無抵抗で苦悶の表情を浮かべている。……何で反撃しねえんだよ? しょうがねえ、助けてやるか!
「やめろ隼人! こいつは倒すな!」
「えっ……はぁ!?」
突っ込んで中翼ぶち抜いてやろうと思ったんだが……。玄雄にものすごい剣幕で静止されてずっこけてしまう。
「倒すなってどういうことだよ!」
「もう誰も諦めない……絶対見捨てない……俺が全部救うんだ……」
血涙を流しながらブツブツつぶやく。翼の肉を食いちぎられて骨が露出している。何でそこまでして……
「お前に効かないなら……世界の方に……頼む、映してくれ……真実を……!!」
信じられないことが起こった。チックの羽毛がボロボロ崩れ落ちると、中からは幼い子どもが現れた。
「玄雄……これって……」
「あぁ……良かった……やった、やった! やったぜぇええええええ!!」
戸惑う俺をよそに涙ぐみながら大喜びしていた。チックの正体が人間ってことは、もしあのまま倒してたらどうなってた?
「隼人、取りあえずこの子はヒバリのところに連れていってくれ」
「え? おう……でも調査はもういいのかよ?」
「こいつは、改造に失敗した俺達の仲間だ」
「……は? マジで言ってんのかよ?」
知らなかった。改造に失敗した奴は死んだと思っていた。それがこんな姿になって生き延びていたなんて……これは喜ぶべきなのか……
「そんな顔するなよ、こいつを助けられただけでも大収穫だ!」
……かもな。




