8羽 虚勢と虚像
「まあ、いいです。さっさと子ども達を渡してください!」
何かフライングトルーパー? とかいう連中が鳳雛の家にやってきた。そして、ガキどもをよこせと言うのだ。しかもそのリーダー格らしき人物というのが、冴島涼音。鳳雛の家出身の奴だ。
「何でお前がそんなことしてるんだよ?」
玄雄の疑問はもっともだ。お花畑で冠を作ってそうな大人しい女の子だったのだ、その涼音がなぜ人さらいのような真似を……
「決まってるじゃないですか! 私がフライングトルーパーの隊長だからです!」
えぇ……隊長って……ガチでリーダーなのかよ……
「お前がリーダー? 羽地さんはどうした?」
「ふふん、羽地さんが引退するとき私を直々にリーダーに指名したんですよ!」
「えっ、羽地さん引退したの? 何で?」
「家族を失って失意のままにふら~っと、ですよ! ……あれ?何で羽地さんのこと……」
「……そうか、大体分かった」
こいつら何の話してんだよ。羽地さんって誰だよ。
「で? お前らの目的は何だ?」
「ここの子どもを全員さらって来いって言われてます!」
そう言うことかよ。……ていうか随分素直にしゃべってくれるな。
「ふざけんなよ! そんなこと許すわけ……」
「だったらお前が相手でも倒すしかないな」
俺のセリフを遮って放たれた玄雄の言葉は、思わず震え上がりそうになるほど冷たかった。……あの時の冷徹な表情だ。
「ひぇっ……ぜ、全然怖くないです! 皆さん行っちゃってください!」
言い方ユルいな! それでも統制のとれたV字編隊でガキどものいる方へ向かっていく。あいつらに手出させるか!
「隼人、あいつらは頼んだ」
「ああ!」
武装してるとは言え相手はただの人間。ちょっと痛いけど我慢しろよ!
「……大丈夫か?」
「はやとー! ありがとー!」
フライングトルーパーがドサドサと墜落する。ファルコブースターの勢いを乗せて羽根を撃ち込んでおいた。まあ死んではいないはずだ。
「隼人! すぐに鳥獣化を解け!」
何? でもまだ涼音が……!? 何だ……? 急に腹から血が……
「無策で突っ込むわけないじゃないですか。何人か“小さく”して忍ばせました!」
小さく? 鳥獣化を解くと、体に小さくなったフライングトルーパーが張り付いていた。こいつらずっと羽毛の中に潜んでいやがったのか!
ハエみたいに周りを飛び回りながら次々に銃弾を撃ち込んでくる。ああ、うっとうしい!
「はやと?」
「離れてろクソガキども! ぐ……」
人間を小さくって……こんな芸当ができるのはハバタキしかねえ、涼音の奴まさか……
「……思い出してるんだな」
「当然ですとも!」
「だったら手加減要らねえな?」
玄雄から異様な気配が放たれる。何だこの感じ? よく分かんねえけど、あいつ涼音を殺すつもりじゃ……
「おい、玄雄! ……く……やめろ!」
「真実を映せ……」
「それはやらせませんよ! へぶぁ!」
涼音の間抜けな叫び声とともに張り詰めた空気がはじけ飛ぶ。あいつ、自分の舌噛み千切りやがった……。あっけに取られていると自分の羽根に口から流れる血を染み込ませた。
「玄雄ひゃんはあにが怖ひんれふかね?」
回らない舌で器用にしゃべりながら、羽根が変化してできた大きなつづらの蓋を開けた。
つづらの中からは、「玄雄」が出てきた。
「どういう……ことだよ……?」
それを見た玄雄は珍しく焦った様子で箱から出てきた玄雄に掴みかかった。
「お前は、お前は誰だ!! なぜ俺の姿をしている!!」
「俺はお前自身の“最も恐怖するもの”が具現化した存在。お前に最大の苦痛を与えるためにここにいる」
玄雄が最も恐怖するものが、玄雄自身? 一体どうして……
「べっ……玄雄さんの一番怖いものが玄雄さん? まあ、何でもいいです。……え?」
本当に恐怖の対象なのだろうか、玄雄は箱から出てきた偽物にアイアンクローをかましていた。
「俺の恐怖の具現化って言うならよ、教えてくれよ。どうすればこの恐怖は止むんだよ? 俺の呪いは解けるんだよ? 兄貴を救えるんだよ? 答えてみろよ?」
「が……お前……なぜ……恐怖しない……」
「お前は所詮俺であって俺じゃない。いや、俺ですらない。お前みたいな、偽物に、ただの虚像に俺が恐怖するわけがない」
そう言うと何のためらいもなく、自分と同じ顔を、そのまま握り潰した。頭を潰された偽物は砂のようにサラサラと崩れ落ちた。
「嘘……何でですか……退散! たいさーん!」
「逃がすか」
飛び去ろうとした涼音を、大ジャンプで先回りして思いっ切り叩き落した。冷徹通り越して悪魔だぜあれ。
「逃がせばお前らはまたこいつらをさらいに来る。だからここで潰す」
「私たちは……この子たちのためを思って……」
叩きつけられてぐったりしていた涼音の頭を掴んだ。確かな殺気を感じる、あいつ何考えてんだ!
「玄雄! この子らになんてもん見せてんのよ!」
ヒバリの金切り声が響くと、冷え切っていた玄雄の目に光が戻った。
「あ……今日のところは見逃してやる。次来たらこんなんじゃ済まねえぞ」
涼音は情けない声を上げながら部下を連れて逃げ帰っていった。一応の危機は去ったようだが、ガキどもはまだ怯えている。あんな光景を見ればそうなって当然だ。……玄雄の奴。
「おい、玄雄……」
「あんた何考えてんのよ! このバカ!」
またしても俺の言葉は遮られ、そして玄雄の鼻柱にはヒバリの右ストレートが命中した。




