7羽 鳳雛の家
どうして、私は捨てられたのだろう? 私は要らない子だったの? 生まれてこない方が、お父さんとお母さんは幸せだった?
「君も今日から私の家族だよ。私のことをお父さんと思ってくれていい」
握ったその手はとても温かかった。家族ってなんだろう? また捨てられたらどうしよう、もう二度と、あんな思いしたくない。もう独りぼっちは嫌だ、ここの仲間だけは絶対失いたくない。
「ヒバリちゃん、私にもしものことがあったら任せてもいいかしら?」
「何カリンさん? 縁起でもないこと言わないでよ」
そんなこといちいち頼まなくてもいいのに。私はずっとここに……
「なあ隼人、この部屋だっけ?」
「俺は知らねえよ」
お前が知ってると思ってついて来てんだろうが。ていうか誰の家かも知らねえし。……にしてもボロボロだな、このアパート。相当苦労してんだろうな。
「出ない、留守かな?」
「部屋合ってんだよな?」
「多分」
多分て。でも今日雨降るって言ってたし、そんな遠出はしてないと思うけどなあ。
「ちょっと待つか」
「おう、そうだな」
二人してドアの前で呆けていると、白髪頭の腰が曲がった老婦人が近づいてきた。
「あなた達、ヒバリちゃんのお友達かい?」
「はい!」
玄雄が元気よく肯定する。てことは、ここヒバリの家だったのか。聞くところによるとこの老婦人はここの大家さんらしい。
「ヒバリは出掛けてるんですか?」
「ああ、ヒバリちゃんなら越してったよ」
「え、そうなんですか……どこに引っ越したかとか分かります?」
「……友達なら自分で聞けばいいんじゃないのかえ?」
大家さんがいぶかしそうに見つめてくる。あ、これ怪しまれてる。玄雄はこういう時気にせず突っ走るから俺がブレーキに……
「あ! そういう心配なら大丈夫ですよ! 俺心に決めた女性がいるので!」
手遅れだったか。よし! 今から俺とお前は他人だ! ……何ですかその目は、年季の入った睨みって怖いからやめて下さいよ。
「……帰りな」
「く、玄雄、大家さんもこう言ってることだし」
「そう言わずに、お願いします! 綺麗な御婦人!」
えぇ……おだててる……流石にそんな見え透いたヨイショには乗らないだろ……
「……鳳雛の家ってとこだよ」
「えぇっ!?」
あっさり乗ったよ!セキュリティー意識どうなってんだよ! ……てか鳳雛の家? 何でヒバリがあそこに……
「よし、早速行くぞ! ありがとうございます!」
「あ、おい! ありがとうございます! 失礼します!」
「また来なよ~」
ここに来るのも久しぶりだな。カリンさんやガキどもは元気にしているだろうか。まあ、まずはヒバリだな。
「ねえねえ、『ひばり』って人いる?」
玄雄は地面に膝をついてガキどもに尋ねて回ってる。ここはあいつに任せるか。俺、子どもの相手とか苦手だし。ベチャ。
「ん?」
ベチャ? 見下ろすと足元には利発そうなガキ。そして泥に濡れた俺のズボン。
「……………………」
「やーい!」
「待てやクソガキィ!」
「わー! 鬼ごっこだー!」
逃がしてなるものかあのクソガキめ。何故かほかのガキどもまで逃げ始めているが……そんなことはどうでもいい。逃げきれると思うなよ、中学時代短距離で全国出場した男のスピードを見せてやるぜ!
「お、隼人も楽しそうだな」
「……何やってんのあいつ」
……ふぅ、いい汗かいたぜ。あれ、何でこうなったんだっけ? ……あ、そうだ、それよりヒバリだ。
「なあ玄雄……えぇ……」
少し離れた所で玄雄が黒混じりの金髪の少女と話し込んでいた。面影あるし多分あいつがヒバリだろ。
「おお、隼人。いつまで遊んでんだよ?」
「ああ、いや、その……」
言い返す言葉もない。確かに、うん、遊んでただけだな。
「……悪い」
「もー、ちゃんとしてくれよー」
おどけながら脇腹を小突いてくる。クッソムカつく!
「みんなと遊んでくれてたんだ? ありがと」
ヒバリも笑っているが、なんか、疲れた顔? してるよな……切れ長の瞳が力なく垂れさがっている。
「ていうかよ、ヒバリはなんでここにいるんだ?」
「ここの子達の面倒見てるの」
そっか、そりゃ疲れるよな。俺もさっき遊んでて思ったが、あいつらめっちゃパワフルだもんな。
「すげえな、お前」
「別にどうってことないわよ」
少しうつむきながら恥ずかしそうに答える。……昔はもうちょい素直だったんだけどな。
「あははははは! やっぱりお前素直じゃねえな!」
玄雄が思いっ切りヒバリを指さしながら噴き出した。何てデリカシーのない奴!
「な、何よ!? あんただって昔は……」
「まあまあ。それより、カリンさんは?」
「カリンさんは……」
明るかった空気が一気に沈んだ。おいおい、まさか……
「……死んだわ、白蝋守天にやられて」
……そうか……カリンさんが。それでこいつがカリンさんの代わりに……玄雄も、沈痛な、というよりは残念そうな顔をしている。ショックだよな、俺もだよ……
「それじゃあ、皆の記憶は……」
「ん? どした、玄雄?」
「いや、なんでもない!」
小声で何か言ってた気がしたけど……。……何だ? 外でガキどもが騒いでるな。
「みんなどーしたの?」
「ひばりちゃん! ひとがそらとんでる!」
ああ、フライングスーツか、珍しいな。最近のガキは知らねえのか。まあ、白い雨が降るようになってからは全く見なくなったからな……いや、多すぎねえ? 20人ぐらいいるぞ。
「フライングトルーパー……!」
玄雄が急にピリッとした雰囲気をまとう。フライングトル……何だって? ていうかあいつらこっちに向かってきてる気が……
「ヒバリ、子どもたちと中で隠れてろ」
「えっ? うん、分かったわよ……」
玄雄がヒバリに指示を飛ばす。何だよ、じゃああいつら敵ってことか?
「ここに何しに来た?」
「ふぅ、邪魔しないでほしいです!」
連中のリーダーらしき奴がヘルメットを外しながらぼやいた。……あいつ俺らよりちょっと年下ぐらいじゃねえのか? ていうかあいつは……
「そうか、この世界ではそうなんだな。……涼音」
玄雄が苦しそうに吐き出した。……涼音だって? あの玄雄の後ろをトコトコついて回ってたあいつが?
「この世界? まあ、いいです。さっさと子ども達を渡してください!」




