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6羽 ギリギリ舞い

 「あなたどういうつもり!? やっぱり信用できない……」

 「まあまあ、そこで見ててくださいって!」


 後ろで玄雄と波里さんが何やら言い争っているが、そんなことはどうでもいい、よくはないけど、気をとられてる場合じゃない。左右から2体の白蝋守天がゆっくりにじり寄ってくる。不気味な連中だぜ。彫刻みてえに無表情なのに動きはしっかり生物だもんな。


 「……来るならさっさと来やがれ! まとめてぶっ潰してやる!」


俺の言葉に反応したわけではないだろうが同時に鉤爪を向けて飛びかかってくる。翼を広げて受け止める、が……強い……そのまま地面に抑え込まれた。後ろから「あちゃー」と聞こえてくる。


 「何よあいつ全然ダメじゃない」

 「いや、本当はもっとやる奴なんですよ。隼人―、動ける?」


動けねえよ……。白蝋守天のくちばしが槍のように鋭く長く伸びる。このままじゃ……


 「しょうがない。ちょっと助けてやるか」


へ? 玄雄によって俺を抑えつけていた白蝋守天は簡単に引きはがされてしまった。もうこいつ一人でいいんじゃないか?


 「隼人お前のへなちょこパワーじゃそいつらには勝てないぜ」

 「何だと……? じゃあどうやって……」

 「持ち味を生かせ、お前の強みは何だ?」


俺の強み? 俺の強みなんか、そんなの……ハバタキだってちょっとすばしっこくなるだけのチンケな能力だ。

 ……そういうことか、相変わらずムカつくやつだぜ。


 「言われなくても分かってる。……下がって見てろ」

 「おう! 見る、見る!」

 「……さっきはやってくれたな」


ファルコブースター全開だ! まずは距離をとる!


 「……あいつ飛んでっちゃったわよ?」

 「いいぞ、隼人!」


正面からやり合っても勝ち目はない、なら俺のこのスピードで翻弄してやるよ! 上空から白蝋守天の位置を確認、いびつな螺旋を描きながら一気に降下する……思ったより難しいな!


 「ぐおはぁあ!!」

 「ちょっとちょっと、地面に突っ込んでるじゃない」

 「隼人、間違ってないぞ!」


ちょっとミスっちまったな。この人形どももビックリしてやがるぜ、顔ねえけど。ここからが本番だぜ!


 「何あれ、速っ!」

 「それだ隼人……! それだよ……!」


二体の人形を囲むように円軌道を描く。どこから来るか分かんねえだろ? そうなったら、背中合わせになるよな? その瞬間、待ってたぜ!


 「おらああああああ! ぶちぬけええええええええ!!」


高速回転するハヤブサの弾丸が二体の蝋人形を撃ち抜いた。うええ、ちょっとベタベタする……。でもこれでいいんだよな? 玄雄の方を振り返ると黙って両の親指を上に向けていた。


 「どうです、波里さん! これがうちの隼人の実力ですよ!」

 「あのねぇ……その前にこれどうにかして?」


玄雄の奴ずっとこの人拘束してたのか? ていうかその能力なんだよ。解放された波里さんは、軽やかに着地するとけだるげにため息をついた。


 「あんたらが強いのは分かったわよ。でもねえ……」

 「銀子さんを傷つけたら許さない、ですよね?」

 「ちっ……そうよ。あんたが裏切らない保証はあるわけ?」

 「鳳雛の家で一緒に育った仲間です。裏切るはずがありません」


玄雄は真っすぐな目できっぱり言い切ると、鏡を一枚差し出した。


 「受け取ってもらえますよね?」

 「そう言われても……」

 「あ、こいつ、ちょっと胡散臭いけど仲間思いなのは本当なんです」

 「隼人……」

 「あー、もう、いちいち感動すんな!」

 「分かってるわよ」

 「……え?」


予想外の答えに困惑してしまうが、波里さんいわく俺達のことを試していたらしい。何でも、玄雄が俺を見る時の目が、自分が銀子さんを見る時の目と同じだった、と。


 ……あれと同じって、ヤバくないか?




 「ただいま、夕陽。……何この臭い?」

 「ごめん、ちょっと火加減間違えちゃって」

 「大丈夫か!? 火傷してないか!?」


 飯作ってくれてたのか、ありがたい。それにしても玄雄は過保護なんだか、そうじゃないんだか。まあ、火事になってないなら問題ない。この小屋のコンロちょっと使いづらいしな。


 「夕陽が作ったものなら消し炭でも食えると思うけどなぁ……」


玄雄がまたふざけたことを言って……うわ、真面目な顔してる! それは流石にごめんこうむる。


 「ごめんね隼人、貴重な食料なのに……」

 「ああ、多めにとってきてるから大丈夫だよ。気にすんな」

 「……人間以外は蝋化しないのか?」


玄雄が不思議そうにつぶやいた。……そういえば人間が蝋化してるのしか見たことないな。


 「ま、どうでもいいけどね!」

 「いいのかよ!」



 「こんな幸せあっていいのか……」


 玄雄は天井を見上げながらとろけそうになっている。確かにありがたいけど、ちょっと大げさだろ。


 「大袈裟だよ、ちゃちゃっと炒めただけだし……」

 「女子の手料理が男にとってどれほど大きな意味を持つか……お前は何も分かっていない」

 「だって私女だし」

 「当たり前だ!」


楽しそうだなぁこいつら、よそでやってくれ。と、まあ冗談はさておき


 「なあ、明日はどうするんだ?」

 「ん、それならもう決めてある」


言いながら紙の地図を広げた。分厚い紙が俺の皿を覆い隠す……邪魔だよ!


 「明日はここのアパートに行ってみよう」

 「おう、ここは誰が居るんだよ?」

 「それは行ってみてのお楽しみだよ」


玄雄は人差し指を立てながら悪戯っぽく微笑んだ。…………いや、教えろよ!


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