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4羽 白い夜に蝋燭の兵隊

 「隼人、ちょっといいか?」


 玄雄が真剣な表情で話しかけて来る。めずらしく正義感に満ちた表情だ。


 「……何だよ?」

 「夕陽が恐れてるものって一体何なんだ?あいつあんまり話したくないみたいだし……」

 「ああ、それなら多分、白蝋守天《ナイトキャンドル》のことだろ」

 「ナイトキャンドル? 何だそれ」


知らないのか? あいつらは世界中に出現していたはずだ……旅をしていたにしても知らないのはおかしい……


 「隼人?」

 「ん? ああ、白蝋守天ってのは……ちっ、噂をすればだ」



彫像のように真っ白な鳥が目の前に優雅に降り立った。この世界で生きる命にとって、こいつらは死神のようなものだ。ただ無感情に目の前の命を焼き尽くし、あの白い天井に運んでいく。親鳥が雛にエサを与えるように……


 「こいつらが?」

 「ああ、そうだ。こいつらは手強い、ぞ……」


玄雄が左手を前に突き出すと白蝋守天は無残にも焼き尽くされてしまった。一瞬のことで何が起こったのか分からない。何が、起こった……?


 「お前、何をした……?」

 「え、倒しちゃマズかったか?」


そういうわけじゃねえけど……こいつは一体何なんだ。そういえば最初会った時も生身で俺の突進受け止めやがったな。それにあのパワーは人間のものじゃない。


 「お前、何で鳥獣化しないでそこまでの力が出せるんだ?」

 「え? あー……もうかなり混ざってるんだろうな、多分」

 「……混ざってる? どういうことだ?」

 「うん」


うん、じゃ分からねえだろ。こいつ何を隠してる? こともなげに言っているが、何か重大なことのような気がする。


 「隼人よ。あいつらはああして人を襲ってるのか?」

 「あ? おう、そうだよ」

 「……そうか。怖いよな、やっぱり守らないとな」


こいつは俺の疑問に答えていないのだが。しかし何やら瞳の奥に闘志のようなものが燃えているように見える、とても水は差していいような感じじゃない。



 「隼人。お前がみんなを守るんだ」

 「は?」


唐突に大任を任されて思わず顔をしかめてしまうしかし玄雄は真面目な顔をしている、どうやら本気で言っているみたいだ。しかし、俺はみんなを守れるほど強くない……


 「何で俺にそんなこと言うんだ? お前だけでも十分だろ?」

 「俺はお前が強いこと知ってるから。お前はもっと強く、速くなれる。お前にしかできないことだよ」

 「……買い被りすぎだ」


なぜこいつがこんなことを言う。二年前のあの日だって、俺がもっと強ければ玄雄は死なずに済んだのに。


 「ははぁ、さてはお前……俺に手も足も出なかったから自信失くしてるな? 確かに、昨日のお前はメチャクチャ弱かった」

 「おい」

 「でもそれはお前が一人だったからだ。誰かのためならどこまでも強くなれる、お前はそういうやつだ」


自信満々な顔で俺を見つめて力強く言った。何でそんなこと言いきれるんだよ。


 「大丈夫だよ。俺はずっとお前を見てた。仲間のために強くなれ、隼人」


……でもなんか、心の底から信頼されてる、って感じがする。仲間のためか、こういうのも悪くねえな。


 「ずっと見てた、じゃねえよ。気持ち悪い。ああ、分かったよ。やってやるよ!」


それでこそ隼人だ、と満足げにほほ笑んだ。全部分かってるみたいな顔しやがって、ムカつくぜ。だが今のところは、お前の思い通りになっておいてやる。




 「えっ!? この小屋移動できるのか!?」


 玄雄が素っ頓狂な声を上げた。あいつらに嗅ぎつけられないようにそうしてあるんだけど、そういえば言ってなかったか。


 「改造したんだよ。ま、キャンピングカーみたいなもんだ。その方が色々便利だしな」

 「おぉお……すっげぇ……!」

 「でも、どうして?」


夕陽が不思議そうに尋ねてくる。何て言って誤魔化そうか……あいつらが怖くて怯えてるんだから言うべきじゃないよな……


 「あれだろ? 白蝋守天? ってやつに襲われたからだよな?」


何で言っちゃうんだよ。案の定夕陽は青ざめた顔をしている。お前夕陽が大事なんじゃなかったのか?


 「その反応は……やっぱりあいつらが原因で間違いないみたいだな」

 「お前、それを確かめるために……」

 「うん。あいつらが原因ってのもお前の推測だろ?」

 「そうだけどよ……」


そんなことするならなんで俺に聞いた? 怒りと戸惑いがしみ出してくるがここはぐっとこらえる。今の俺じゃ白蝋守天を倒せないのも事実だ。気に入らなくてもこいつの力は借りなければならない。


 「ねえ、隼人……」


夕陽が不安そうに話しかけて来る。お前のせいだぞ、こいつを守りたいってのはどうなったんだよ。


 「免許、持ってるの?」

 「そうだよ、お前まだ17じゃん!」

 「……………………」


俺のせいであったか。細かいこと気にしやがって、こいつらよく憶えてたな。


 「警察だってまともに機能してねえんだから大丈夫だよ。……二年前のあの日、この白い天井が青空を覆ってからな。あの天井が太陽を隠して以来、多くの人が命を……」

 「こいつ勢いで乗り切ろうとしてる!」

 「無免許はダメだよ……」

 「あー、もう! 細かいこと気にすんなよ! 今非常事態って分かってんのか!? この世界異常だぞ!? 二年もこの状態だからってマヒしてんじゃねえの!?」

 「観測されてないからって許されるってことにはならないんだぞ! そもそも交通ルールとはすべての人の安全のために……」

 「そんなこと心配しなくても外出してる奴なんか誰もいねえよ!」

 「無茶苦茶だな! だがそれでこそ隼人だ!」

 「お前何が言いたいんだよ!?」

 「……安全運転でお願いね?」


こいつらがごちゃごちゃ言ってきて運転に集中できないので適当なところに小屋を止めることにする。まあ、このぐらい離れりゃ大丈夫だろ。


 「この辺なら……あの人のところかな」


玄雄がまた意味ありげにつぶやいている。どうするつもりなんだ?


 「隼人、行こう」

 「おい、夕陽は?」

 「ああ、大丈夫」


そう言いながら夕陽に羽根のような形をした鏡を手渡した。どこから出したんだ?


 「その鏡を持ってれば、あいつらが来ても俺がすぐ知覚できる。だから安心して待ってていいからな」

 「分かった、玄雄がそういうなら……」


不安そうに鏡をぎゅっと握りしめる。なあ、玄雄、本当にそれでいいのか? しかし玄雄は気に留める様子もなくニッコリ笑った。


 「この鏡を皆に渡して回る」

 「皆を守るってそういう……」

 「おう。じゃあ行ってくるから留守番よろしく!」

 「……気を付けてね」



その気持ちだけは嘘じゃねえんだろ? もし嘘だったら……俺は軽蔑するぜ、お前のこと。

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