3羽 たった一つの本音
「ここが隼人の家かぁ~。一人で住んでるのか?」
玄雄が小屋の中をきょろきょろ見渡しながら楽しそうに話しかけて来る。……ガキのお泊り会じゃねえんだからよ。
「一人に決まってんだろ。俺以外に誰が居るってんだよ?」
「そっかぁ……」
なぜ寂しそうなのか分からないが……なんかこいつ性格が幼くなってないか?
「ていうかお前……随分大荷物だな……」
密林でサバイバルでもするのかというような大荷物を抱えている。指摘すると、キョトンと首を傾げた。
「テントと寝袋入ってるから。外で寝ろって言われたら困るし……」
「お前、俺を何だと思ってんだよ……」
「え!? ここで寝ていいのか!?」
「泊まっていいって言ったろ」
やったー、と嬉しそうに跳び回る。大荷物を抱えたまま跳ねるので小屋がドスドスと揺れる。
「おい、やめろ! はしゃぐな! 床が抜ける!」
まったくこいつは……あ。でも、あの時の、目の前の無邪気な少年にはそぐわない冷徹な表情は一体……玄雄はそんな俺の思案をよそにいそいそと布団の用意をしている。
「よし! 今日はもう寝ようぜ!」
「……何故布団が一枚しか用意されていない」
「え? 一緒に寝るんだろ?」
「布団は別々に決まってんだろうがぁ!!」
もう朝か……玄雄はちゃんと眠れただろうか。いやいや、何で俺があいつの心配しなきゃいけねえんだよ。あいつだってガキじゃねえんだから……
「え?」
ふと隣に目をやると玄雄の使っていた布団はもぬけの殻になっていた。荷物は残ってるが……
「あいつ……どこ行きやがった?」
スマホのアラームがけたたましく鳴り響く。視界を黒く覆う前髪を払いのけて液晶画面に表示された時刻を確認……もう朝か。カーテンを閉め切った部屋で明かりもつけずに過ごしていると日長の感覚が抜け落ちていくので、せめて生活リズムだけでも乱さないようにしなければ。まあ、あの天井が空を覆っているのだ、陽が昇っていようがいまいが同じか。空に太陽は昇っているのだろうか。いつまでこの生活が続くのだろう、許されることならば明るい光の中で暮らしたい。でもあいつらが来るかもしれない……そう思うと……
その瞬間、強烈な振動とともに部屋の窓がパリーンと砕け散る。部屋に黒い影が垂れ込んでくる。あいつらだ、あいつらが来たんだ……私の命を焼きに……
「夕陽! 迎えに来たぜ」
窓枠に三本足でカラスが立っていた。ていうか、このカラス喋ってなかった? あの声には聞き覚えがある気がする……
夕陽! 無事だったか!
ああ、そうだ、あの声だ。久しく感じていなかった人肌の温かさとともに聞こえた湧き上がるような喜びの声。
「……玄雄、なの? ていうか、迎えに来たって……ていうかその恰好は……」
「カッコいいだろ?」
混乱する私をよそに部屋に入ってきて、そのまま半ば強制的に背中に乗せられた。
「え……ダメ、外は……」
「どこ行く? 宇宙でも行く?」
私を無視してふざけたことを言いながら部屋の外に飛び立っていく。何のつもりなの?
「戻ってよ! 外に出たら……」
「何でそんなに怯えてるんだ?」
「いや、だってこの状況……普通じゃないよ! 誰だって怯えるよ!」
「そうじゃなくて。お前昨日からずっとそんな顔してただろ? 外に何かあるのか?」
玄雄は昨日会った時からずっと、私の怯えを見透かしていたんだ。でもだからってこんなこと……
「お前が何に怯えてるのか知らないけどさ、お前にそんな顔させる奴は俺が許さない。相手が何であろうと、絶ッッッッッッッッッ対、俺が守る!!」
白い天井に向かって挑発するように叫んだ。それを伝えるためにわざわざこんなこと……? 空から街を見下ろしてみる。……こんなに小さかったんだ。
「玄雄……ありがと」
深い黒色の背中に体を預けると羽毛の温かみが伝わってくる。こんなに温かいの、久しぶり。
「なあ、夕陽」
「……何?」
「胸当たってる」
「……バカ」
玄雄の奴どこ行ったんだ。そこら中探しまわったが結局見つからなかった。そろそろ雨が降ってくる時間だ、小屋に戻らなければ……
「お帰り、隼人!」
「……お邪魔してます」
は? 何だよ、玄雄帰ってたのか。入れ違いになってだけか。は? 待って、なんで夕陽までいるんだ?
「え? 連れてきちゃったの?」
「ダメ、だったか?」
「いや、ダメじゃないけど……」
そんな子犬を拾ってきた子どもみたいな顔されてもな。夕陽は夕陽でずっと気まずそうにしてるし。
「本当か!? じゃあ夕陽もここで……」
ああ、そういうことか。まあ、そうだな、仲間は多いほうが楽しいもんな……
「いやいや、ダメに決まってんだろ!? 年頃の男女がこんな狭い小屋で一つ屋根の下とか……絶対ダメだ!」
「隼人は、そういうの気にしないもんだと……」
「するわボケェ! お前マジで俺を何だと思ってんだ!?」
玄雄と夕陽の二人が親に叱られた子どもみたいに体を小さくした。ああ、頭が痛い……
「隼人。私ね、ずっと一人で怯えて真っ暗な部屋で縮こまってたの。でも、玄雄が連れ出してくれた。一緒なら、光を見られる気がするの」
「夕陽……!」
夕陽が希望に満ちた顔で言った。うわ、居心地悪……何こいつら……俺の家なのに……
「……分かった。いいよ、お前もここに住んで」
「隼人……!」
「いいの?」
「ああ、だからそう言ってんだろ」
二人は顔を見合わせて喜んでいる。あー、もう……
「あれ? 隼人、それ俺の……」
玄雄の荷物からテントと寝袋を拝借し、微笑みあう二人に俺も飛び切りの笑顔を返す。
「俺が外で寝る」
やってられるかぁ!




