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合わせ鏡の旅烏ー別世界の俺は「ちょうじん」だった。  作者: ハイマン
第1章「青空の飼配者」ー涙色の空
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今ここにいるあなたが

 「あ~、寝過ごした! 母さん、おはよ!」

 「おはよう。はい、朝ごはん」

 「いただきます! ……ごちそうさま!」

 「ちゃんと噛めよー」

 「いや、遅刻しちゃうから。行ってきます!」

 「はーい、いってらっしゃーい」

 「あ! ……兄貴、行ってきます。じゃ、今度こそ行ってき!」


 「うぃー、玄雄」

 「おう、厚田。お前……夏休み明けなのに焼けてないじゃないか!」

 「お前は随分黒くなったな」

 「夏休み明けのリア充は日焼けしてるものなのだよ、厚田くん」

 「お前が?」

 「嘲笑するんじゃねえ!」

 「まあ、元気そうでよかったわ」

 「厚田……兄貴のことならもう大丈夫だよ。ありがとな」

 「そうか。話聞くぐらいならいつでも付き合うぜ」

 「やっぱりお前は俺の親友だ!」

 「抱き着くな、暑苦しい!」

 「なー、厚田はこんないい奴なのにどうして……」

 「皆まで言うな。虚しい気持ちで二学期を迎えたいのか?」

 「どうして彼女がいないんだろう!」

 「こいつ言いやがった!」

 「ま、お前は女子と話すと緊張しちゃうもんな」

 「お前もだろうが」

 「フッ、悪いな、俺はもう慣れた」

 「何だよその顔、腹立つわー」

 「お前も来いよ、高みへ」

 「何の高みだ。……あ、烏丸さん」

 「ああ、そうだな」

 「いいのか?」

 「あのなあ、いくら見た目がタイプだからって一回見かけただけの人だよ?」

 「あるぇえ? 女子には慣れてんだろぉ?」

 「いやいや、知らない奴が急に話しかけてきたらキモイだろ」

 「大丈夫、お前は元からキモイ」

 「なんだぁ? てめえ……」

 「玄雄、キレた!」

 「ま、幸せならOKです!」

 「わあ、カッコいい!」






 心に決して小さくないしこりは残ったが、これで一応の決着はついた。これからもいろいろ大変なことはあると思うけど、こっちの俺と仲間達ならうまいことやっていけるだろう。辛いこともたくさんあったけど、こいつらと出会えた思い出は俺にとって宝物だ。これからの彼らには輝かしい平凡ライフが待っている、俺みたいな異物はさっさと立ち去るのみだ。


 「じゃあ、俺そろそろ帰るわ」


俺と二度と出会うことはないなどとは知らない、明日もまた会えると思っている仲間たちが無邪気に手を振る。まあ、こいつらからしたら鏡の世界なんて知る由もない話だからな。それにそんなのは知らなくてもいい話だ。お前らと出会えてよかったよ、そんなこと言わないし言えないけどな。



 「もしもし、俺か? 終わったよ」

 『そうか、本当にありがとう。なんてお礼を言えばいいのか……』

 「気にすんなよ。俺がお前でお前が俺だろ?」

 『ははっ、そういえば最初そんなこと言ったっけな……』

 「あの時は正直滅茶苦茶な話だと思ったよ」

 『ああ、本当に申し訳ない』

 「でもそのおかげであいつらと出会えた。お前にも。結構楽しかったよ」

 『……君は本当に強いな。君を選んだのは正解だった』

 「よせよ、俺はフツーの高校生だ」

 『そうだったな。……本当にもう帰っていいのか?』

 「ちょっと寂しいけどな。でもやっぱり俺の居場所はあの世界だよ」

 『そうか、でも君が望むなら……』

 「おいおい、大変なのはこれからだぞ? 面倒事押し付けんなよ。……あいつらのそばにいてやれよ」

 『……分かった。俺も、これからはちゃんと仲間を頼るよ』

 「それでいい。じゃあ早速……あ、待って。いったん切るわ」



一人の少女が息を切らしながらあたりを見渡している。俺の姿を認めると慌てて走り寄ってきた。


 「……夕陽、どうかしたか?」

 「玄雄……なんていうか……もう、帰るの?」

 「うん、帰る前にちょっと一休みしてたとこだ。じゃあな」

 「待って!」


背を向けて立ち去ろうとすると必死な声で呼び止められる。


 「本当にどうしたんだよ? なんか変だぞ?」

 「その……玄雄に、二度と会えなくなる気がして……」


そういうことか。……こいつには敵わないな。


 「何言ってんだよ。いつでも会えるよ」

 「……嘘ついてるでしょ。」

 「嘘なんかついてないよ。“俺”はちゃんと皆のそばにいるから。」

 「ならその涙は何?」

 「あ……はは、何なんだろうな? 俺にもよく分からな……」



夕焼けに照らされて真っすぐに伸びた影。俺の言い訳を遮るようにして二人の頭の影が重なった。



 「……私は、玄雄が好きだよ。()()()()()()()()が」


 「お前……ひょっとして気づいて……」

 「何の話? …………玄雄は、玄雄でしょ?」

 「そうか……そうだな。……ありがとう。ごめん。……さよならだ」

 「うん、会えてよかった」




 そうして俺は鏡の中へ消えていった。もったいないことしたなって?俺もそう思う。自分の兄貴一人救えなかった情けない男には、もったいなすぎる。だから、これで良かったんだ。


近くて遠い、長くて短い俺の旅路はひとまずこれでお終いだ。……と、言いたいところだけど、この旅には忘れ物が多すぎた。今度はそれを取りに行く旅をしなきゃいけない。まあ、気長にやるさ、旅烏だからな。


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