42話 好敵手の記憶
祭りが終わった翌日の町は静かなものだった。昨晩の賑わいなどみんな忘れてしまったかのようだ。しかし一見忘れたように見えてもそれぞれの胸にはちゃんと思い出が刻まれている、きっとそういうものなのだろう。大切な人の浴衣姿、そんなに美味しくない屋台の料理、夜空に咲いた大輪の花火……
「祭りの後の静けさデスネ。これもまた風流なものデス」
「そうそう。……ってジョナサン!? なんでここに……」
「Hi、クロオくん。君に会いに来たデスよ」
俺に会いに? 何の用だろう……近くの喫茶店に入って話を聞くことになった。(奢ってもらった)
「君には話しておこうと思いまシテね。シャチョウの目的を」
「空飼の? ……死んだ友人を蘇らせることじゃないのか?」
「友人ネ……まあ、そうデス。しかしその手段にツイテ、君は具体的なことを知らないデショウ?」
「言われてみれば……あいつが人体実験してるってことぐらいしか……」
「Yes、彼の目的は“不死鳥の遺伝子”の完成デス」
「その不死鳥の遺伝子、って何なんだ?」
「それをこれから説明しマス」
身を乗り出した俺を手で制すると、コーヒーに大量の砂糖を入れてから口に含んだ。いよいよ空飼の目的の全貌が分かるのか……
「君の方から来るとは珍しいね、何の用かな?」
社長室にやってきたのは隼人だった。空飼を見つめるその目には決意の焔が燃えていた。
「ああ、そういえば昨日玄雄と決闘したんだっけ? ひょっとして勝ったの!? 君が無事ってことはそういうことだよね! それで玄雄の羽根は……」
「お前を倒しに来た」
隼人の言葉を聞いてしばらく考え込んだあともう一度考え込んだ。
「えーと……頭おかしくなった?大丈夫?」
「俺は正常だ」
「分かってる? アヤを普通の人間に戻す方法知ってるのは僕だけなんだよ?」
「分かったうえで言ってるんだ」
「へぇー。で? 勝算はあるわけ?」
「知るか」
「なるほど、ただのバカだったか」
「ああ、俺はただのバカだ。バカだったから目先のことにとらわれてお前の最低な計画に協力しちまった。だからお前を倒して償わないといけないんだ」
「最低な計画? 全く身に覚えがないんだけど……」
「不死鳥の遺伝子のことだ。」
「ええ!? なんでそうなるのさ。僕はあの子を生き返らせたいだけだよ?」
「……そのために他の命を焼き尽くすんだろ」
「それってどういうことだ!?」
ジョナサンの口から語られた空飼の計画は、にわかには信じがたいものだった。
「不死鳥の遺伝子とは詰まるトコロ、大規模な生命吸収装置なのデスヨ。完成すれば、その瞬間この世界は不死鳥の炎に包まれ、ほとんどの命は焼き尽くされマス。そうやって集めたEnergyをノボセさんの復活に使うのデス。そのために必要になるのが4種類の幻獣の翼と火種となる幻獣デス。火種にはおそらく自分がなるつもりでショウ。カラステング、エンジェル、グリフォン……あと一つで揃うのデスよ。そう、ヤタガラスつまり君デス」
「……よく分かんねえけど俺がやられたらこの世界の人たちがたくさん死ぬ、ってことか?」
「Exactly。だから君には負けてもらうわけには……」
「待てよ。あんたもそれを知っててあいつに協力してたのか?」
「……その通りデス。言い逃れするつもりはありマセン。しかし彼を倒してそれで解決という問題ではないのデス。彼の心を救わなければ根本的な解決にはナラナイ。それだけは分かってほしいのデス」
「それは分かってるよ。ああ、分かったよ。俺が丸ごと救ってやる!」
「……君ナラそう言ってくれると思いマシタ。全部救ってクダサイね」
「あ? 誰が誰を救うって?」
「お前は俺が救う。そう言ったんだ」
隼人の言葉に空飼は苛立ちをあらわにした。頭を掻きむしりながら、唸り声のようなため息を吐いた。
「だからさぁ……どいつもこいつも軽々しく救う救うって……僕の心を救えるのは! ……えーと……とにかく! 気安くそんな言葉口にするんじゃない!」
「軽々しくなんかねえよ。俺だって救われたんだ。お前もきっと」
殺意のこもった眼を隼人に向け、大きく舌打ちした。そして逆に落ち着いた様子で口を開いた。
「君は僕に少し似てると思ってたんだ。だから同情もしたし、君の要求も聞き入れるつもりだった。でも結局つまらない凡人の一匹に過ぎなかった、ってことか」
空飼が鳥獣化して鳳凰の姿を現した。
「ほら、来なよ。君の無力さを思い知らせてあげよう」
「望むところだ! 行くぞ!」
グリフォンになった隼人が分身して襲い掛かる。しかし空飼は翼を折りたたんだまま、かわそうとする素振りすら見せない。
「所詮は高速移動による残像、幻影だ。……下らない」
左の翼を真横に広げ1枚だけ羽根を発射する。その羽根は隼人の本体を的確に撃ち抜いた。
「がぁっ……どうやって見破った……」
「君が選び取れる“可能性”など一つもないということだよ」
「まだまだぁ!」
混乱しつつも再び翼を広げるが、突進する隼人の背中に飛び乗りそのまま叩き落した。
「大口叩いた割にはその程度かい?まあ仕方ないよね。自分を押し殺してまで嫌いな奴の非人道的な計画に協力したのに? 目的を果たすどころか真逆の結果招いちゃうような三流品だものね」
「ぐ…はぁ……真逆の……? お前まさか……!」
「アヤはもう普通の人間には戻れないよ。君のせいだよ。君がアヤの再改造を頼んだりしなきゃこんなことにはならなかったんだよ。ホント情けない奴だね。自分じゃどうすることもできずに僕を頼った結果がこれだよ。もう一回聞くよ? 誰のことを救うって?」
「てめええええええええええええ!」
隼人が至近距離から羽根を撃つが、空飼は身動き一つ取らずにかわしていく。
「簡単に怒ったね! 鏡見てみなよ、その殺意に満ちた顔。ほら落ち着いて! 僕のこと救ってくれるんだろ?」
「……ああ、そうだ! 俺とお前は同じだからな!」
「は? 同じ? 君なんかと?」
「好きな女助けるつもりで自分も周りも全部投げ出したんだろ! 同じじゃねえか!」
「……何の話か分からないけど、調べたのか? 僕の過去を」
「でも今の俺はお前とは違う。仲間が救ってくれた今ならわかる、彩さんはこんなこと望んでなかった。天道昇瀬とかいう人だってお前が……」
隼人を踏みつけていた足をどかすと、隼人の言葉を遮るように叫び始めた。
「僕も思い出せないその名前を! なぜ君が口にする!? なぜ僕の思い出に土足で踏み入る!? それは彼女に直接聞いたのか!? 勝手な妄想を押し付けるな! 彼女だってもっと生きたかったに決まってる! もっと……生きて……よし決めた。君は始末する、僕の思い出を汚した罪は重い」
倒れ込んだ隼人を見下ろしながら死刑宣告をつきつけた。隼人も最後の力を振り絞って立ち上がった。
「はぁ…はぁ…まだ飛べる…まだ俺は負けてねえ!」
「でも“可能性”はもうない」
ファントムブースターの出力を最大にして数百体もの分身を生み出した。空飼は感情のない目で一点を見つめていた。
「僕には全部見えてるよ、君の可能性が。……でも選択するのは君じゃない」
再び本体を的確に狙撃する。隼人も全速でかわそうとする、かわせない。彼が回避できる可能性はもはやどこにも存在していないのだ。空飼の撃ち込んだ羽根が隼人の心臓を貫いた。
「さよなら、ハヤト。……よし、ちゃんと死んでる」




