41話 まとわりつく幻影
「すべてを置き去れ、グリフォンの翼!」
「真実を映せ、ヤタカガミ!」
隼人が加速しながら突っ込んでくる。翼を交差させて受け止めそのままはじき返す。
「今だ! 焼き尽くせ、ヤタカガミ!」
「ちっ……“ファントムブースター”!」
何をしても無駄だぜ、ヤタカガミはお前の姿を映している!隼人の体から赤黒い焔が立ち上る。しかし全く怯む様子がない。効いてないのか? いや、そんなはずは……
「……誰を狙ってる!?」
「ぐおっ……! 後ろから……?」
背後からのタックルをもろに食らう。じゃああそこで燃えていた隼人は……消えてる? いや、いくら光の速さで動こうがヤタカガミは映すだけでいい。焔を振り切れるはずがないんだ。
「何をボーっとしている! まだまだ行くぞ!」
「あれは……! 何……だと……」
目の前に信じられない光景が広がっていた。辺り一面に隼人隼人隼人……こいつ、分身でもしてるのか? こうなったら全部焼き払うしかない!
「焼き尽くせ!」
結局焼き払いきれずに体当たりを食らってしまう。ダメだ! ヤタカガミに映る範囲だけじゃ限界がある。
「無駄だ! 今の俺は誰にも捉えられない! 風も! 音も! 光でさえも! これが俺の新たな力……“ファントムブースター・幻影”だ!」
隼人が連続攻撃を食らわせながら啖呵を切る。光でさえも……? つまりあの大量の隼人は、超光速移動が生み出した残像ってことか。まさか光まで超えて来るとはな、これは厄介だ。こいつはヤタカガミに映る前に、ヤタカガミの映る範囲から逃れられるってことだ。
「く……やってみるか!」
その場で高速旋回する。どこかで映ればそれでいい! しかしさっきから映るのは隼人の幻影ばかりだ。
「無駄だと言ってるだろうが!」
隼人のくちばしに右の翼を貫かれる。よく考えたら超光速で動けるんだ、体の正面に入らないように近付くのぐらい訳ないか。
「……お前が俺に勝てるわけがない! 今の俺は、すべてを削ぎ落とし限界を超えたスピードを手に入れた!仲間などと言う枷に縋りつくお前が、俺に追いつけるはずがない!」
隼人は、圧倒的優勢にもかかわらず必死な声で叫ぶ。隼人、お前……しょうがない奴だな。そういうことか。
「……俺は仲間を枷とは思わないよ。そうまでして限界を超えようとは思わない」
「ならばお前は決して俺には勝てない! お前はそこまでの奴だったってことだ!」
「ああ、俺だけの力なんて限界がある。だから助けてもらうんだよ。借りていい力なら、いくらでも借りればいい。たとえ借り物でも、それは俺の強さだから」
「戯言を……! お前はここで終わりだ!」
悪いけどそういうわけにはいかないんだよ。さあ、力貸してくれよ。
「……真実を導け、ヤタカガミ」
全身の羽の黒色が溶け、真夏の日差しを受けて白銀色に輝く。すかさず一帯に羽根を撒き散らす。
「これは……」
「お前が鏡の映る範囲から逃げられるんなら、どこに行っても鏡に映るようにすればいいだけの話だ。」
「まさか……この羽根全てヤタカガミか!? く……マズい!」
「無駄だ! 焼き尽くせ、ヤタカガミ!」
隼人の幻影がかき消されていく。そして、最後に残ったお前が本物だ! 今度こそ隼人の体から焔が立ち上る。
「がぁっ……! な……めるなぁあああああ!!」
体を燃やしながらも突っ込んでくる。そうだよな、お前はそういうやつだ!
「へへ……やっと捕まえたぜ!」
突っ込んできた隼人の体に爪を食いこませる。ここからは小細工なしの殴り合いだ。
「なぜ焔を消す!」
「お前が突っ込んでくるからだろ!」
隼人と取っ組み合う形になる。お前が戦う理由、なんとなく分かったよ。こいつって意外と仲間思いなんだよ。今度は俺が北風だ。
「なあ隼人、仲間が枷って言ったの、あれ嘘だよな」
「はぁ? 何を訳の分からんことを……」
「だってお前が戦ってるの、彩さんのためだろ?」
隼人があからさまに動揺を見せる。
「大方、協力すれば彩さんをもとに戻してやるとか言われたんだろ?」
「適当抜かすな! 俺は……俺は……!」
「お前は誰かを裏切れるような奴じゃない。巌さんは今でもお前のこと信じてる!」
「巌さんが……黙れ! 俺は自分のために戦っているだけだ!」
「そうか?お前の後ろに二人の仲間の幻影が見えるのは、俺の気のせいか?」
「そんなものはとっくに振り切った! 俺に仲間など必要ない!」
「じゃあなんでそんなに辛そうなんだよ。本当はあの二人のところに戻りたいんじゃないのか?」
「今更戻れるか! 俺が傷ついたりしなければ彩さんは言葉を失わずに済んだんだぞ!? 俺が……俺がなんとかしなくちゃいけないんだよ!」
「……そういうことか。でもよ、あいつが、鳳空飼がお前の思い通りになるような奴だと思うか?本気でお前の望み叶えてくれると思ってんのか?」
「そうするしかないんだよ! バードロイドを改造できるのは、あいつだけだろうが!」
「確かにそうだ。でもお前は間違ってる!」
「何だと!? ならそれ以外にどうすればいい!? どうすれば彩さんを元に戻せる!? 他の方法なんかないだろうが!!」
「彩さんに必要なのは元に戻すための方法じゃない! ……ただ傍にいてあげることだ! 巌さんがそうしてるみたいに! お前は逃げたんだよ! 彩さんの姿を見るのが辛かったんだ!」
「知った風な口を聞くな!! 俺は彩さんの言葉に救われた!! 生きてていいんだって思えた!! だから……だから……」
人間の姿に戻った隼人が膝から崩れ落ちた。うつむいた隼人の顔の影が濡れた。
「俺は……間違ってたのか?」
「ああ、間違いだよ、お前のしたことは」
「……そうか。全部、無駄だったんだな」
「行動は間違ってても、お前の彩さんを思う気持ちは、絶対間違いなんかじゃない。だから無駄なんて言うな」
「……気休めにもならねえ、そんなキレイごと……ははははは! 畜生、俺の負けだ!」
「……お前はもっと悔しがると思った」
「こんな温けえ北風あるかよ。……これがお前の強さか、そりゃ敵わねえわ。俺もお前みたいに強かったらな……」
「……今からでも遅くないよ。……なあ、一緒に行こうぜ、夏祭り」
「バカかお前? せっかく女子に囲まれて遊びに行くってのに男誘うとか」
「俺は慣れてるから」
「ふっ、ムカつく。お前らだけで楽しんで来いよ」
ゆっくり立ち上がると飛び去っていってしまった。隼人の姿はすぐに見えなくなった。一匹狼め。……でも通じ合えたよな。お前はもう、俺の仲間だよ。
祭りの日の夜空。薄暗い部屋の窓から眺めていた。真っ黒なキャンパスに鮮やかな花が咲いた。彼らも今頃同じ花を見ているのだろうか。
「Oh! やっぱりJapanese fireworkは素晴ラシイデスネ!」
「……だからドアから入れって」
「オマツリ、行かなくてよかったのデスカ?」
「うん、いいんだ」
「ハヤトくん、なんだか優しい顔になりまシタね」
「……花火睨み付ける奴はいねえだろ。キレイなもん見てるとな、優しい顔になんだよ」
隼人について
”幻獣の翼・グリフォン”の力を手に入れた。ハバタキは「ファントムブースター・幻影」光を超える速さで移動できる。分身はその結果生まれる残像なので実体はない。




