40話 約束したから
一週間はあっという間だった。幸い一度もオオトリの刺客に襲われることもなく、心身ともに万全の状態で迎えることができた。いざ隼人との決戦の地へと赴く。
「おはよう、玄雄」
「おう、夕陽。早いな」
「行くんだね。」
「ああ。きっちり勝って、戻ってくるから。お前は祭り行く準備でもしてろよ」
「うん……えっと……あっ! 私、浴衣着ていくから」
「……そうか、それじゃあ余計に負けらんないな!」
隼人の到着から少し遅れて、玄雄も決戦の場所に到着した。荒波の唸る断崖絶壁、波の音が俺と隼人の決戦を待ちわびるオーディエンスの声のようである。
「逃げずに来たか」
「友達との約束すっぽかすのはよくないだろ?」
「……まあいい。すぐにその減らず口も収まる」
隼人が鳥獣化する。その姿を見て驚いた。頭と翼はハヤブサのままだが、体は獅子のようになっている。
「お前、それ……まさか……それが何なのか分かってんのか!?」
「分かってるさ……とっととかかって来い!」
隼人は自らを奮い立たせるように叫んだ。玄雄もすぐに彼の覚悟を汲み取った。
「どうした? 怖気づいたか?」
「まっさか! 相手にとって不足なしだぜ」
隼人の挑発に対して玄雄は不敵に笑った。しかしそんな二人を陰から観察する者がいた。
「よしよし。玄雄は隼人に気をとられてるな……」
神立容子、空飼から命令を受けたバードロイドが横槍を入れようと機会を窺っていた。
「ここで私が背後からこっそり近づいてーのぉ……いきなりガブリ! 玄雄戦闘不能! 隼人大勝利! 完璧だ!」
容子が飛び出そうとする!
「死ねぇ玄雄ぉぉおぉぉおやっだばぁあああ!!?」
容子は飛び出す直前に黒い影に叩きつぶされた。
「二人の邪魔はさせない」
「そうよ! あいつは私たちが守るんだから!」
「なぜ貴様らがここに!」
――――――――――――
夕陽とヒバリは遠くからこっそり戦況を見つめていた。
「ねえ夕陽、私たち来てよかったの?あいつ1対1で、って……」
「違うよ。二人の戦いに邪魔が入らないようにするんだよ」
そうは言っているが二人の戦いが始まった時からずっとそわそわしている。やっぱり気になるのだろう。
「あんたも気になるんでしょ」
「……そりゃあね。でもここは任せるって決めたから」
「あっ、待って。あれって……」
「うん、行こう」
――――――――――――
「……というわけよ!」
「嘘をつけ! あいつらの決闘に横槍を入れるつもりだったんだろう!この卑怯者め!」
「それあんたでしょ?」
「ななななな何のことだ? と、ともかく、そこをどいてもらおうか!」
容子が鳥獣化して突っ込んでいく。ダチョウだ。ダチョウなら空は飛べないだろうと踏んで二人は上空へ回避する。
「なっはははぁ! ダチョウが飛べないと思ったか!?」
突進を助走にしてそのまま空中を駆け上がる。
「嘘!? あいつ空中走ってる!?」
「丸呑みにしてやるよ!」
「くっ……羊雲!」
「くっははは! マトンは好物だ!」
羊の大群が容子に押し寄せる。しかしそれらをすべて、丸呑みにしてしまった。
「おいおい、まさか食事をもてなすために来たのかぁ!? こんなもんじゃ私の腹は膨れないぞ!」
「何なのあいつ!」
「ヒバリ、下がって!」
今度は夕陽が、焔を噴き上げる羽根を飛ばす。
「ははぁ! きっちり火を通せってか!? お優しいことだよ!」
大きく口を開けて焔を待ち構える。しかし夕陽の焔は一度燃えれば焼き尽くすまで決して消えない。容子の行動は自殺行為に等しい。……はずだった。
「何で無事なの……その焔を飲み込んで……」
「えっへぇ……消化しちまったからね。良い火加減だったよ!」
突っ込んできた容子が夕陽をけり落とす。その勢いで再ジャンプしてヒバリも蹴り落とす。
「地上戦なら負ける気がしないねえ!」
そのまま急降下して夕陽とヒバリを踏みつぶす。首を曲げて顔を近づける。
「さてと……どっちから呑み込んであげようかな」
「う……させるか……雲入道!」
現れた雲の巨人が容子を跳ね飛ばす。そのまま容子を掴んで握りつぶそうとする。
「これは流石にデカすぎ……ちょっと呑み込めないわ……ねっ!」
容子が撒き散らした羽根が雲入道にぶつかる。雲入道が、羽根の中に吸収されていく。
「嘘……一瞬で……」
「ダメだよ、ちゃんと一口サイズにカットしてくれないと。出来の悪い給仕だね。決めた、あんたから呑み込んであげる!」
大口を開けて猛スピードでヒバリの方に突進してくる。
「マズ……あのスピードじゃ……」
「いっただきまーすっ!」
ヒバリは死を覚悟した。しかし自分は呑み込まれていない。前を向くと右の翼を失った夕陽が立っていた。
「え……夕陽……?」
「何? そんなに呑み込んでほしかったの? だったらあんたから!」
容子が再び口を開けて、首を突き出す。しかし夕陽は凛として言った。
「呑み込まれるのは……あなたの方」
「何を言っている? 大人しく私に呑まれ……がぁっ!?」
容子の口から黒い煙のようなものが這い出してくる。その煙はたちまちに容子の全身を覆った。
「“焦げつく黄昏”……あなたの体内で発動させた。自分の体を燃やすのはちょっときついからね。でも切り離された翼なら」
「そのためにあえて呑ませたというのか……? 意味が分からない……」
「……ていうのは建前。私も必死だったから」
「だが……こんなもの呑み込んで……ぐふぅ!?うええええ……」
容子が煙を消化しようとするが、消えるどころか暗闇はどんどん深く広がっていく。
「なぜ……私に呑み込めないものなど……」
「暗闇の実像は誰にもつかめない。そんなものを食べちゃおうなんて、到底無理な話よ。食い意地を張りすぎたわね」
中翼を暗黒に呑み込まれた容子はそのままその場に倒れ込んだ。
「はぁ……守れたね」
夕陽が笑顔でヒバリの方を振り返った。ヒバリは夕陽の右腕を見つめながら複雑そうな表情を浮かべた。
「いや、でもあんたその右腕……」
「大丈夫、腕の一本ぐらいなら再生するから」
「だからって……もう、信じらんない……あんた玄雄に毒されてない?」
「そうかも。じゃあこれ玄雄のせいだ。出店で何か奢らせようか」
「ふふっ、もうあんたは……あ、でも玄雄は……」
「勝つよ。だから今は見守ろう」
「……うん」
ゆっくりと空を見上げた。上空では八咫烏とグリフォンが激しくぶつかり合っていた。
「やっぱり心配?」
「あれ見たら邪魔なんかできないよ」
両者表情は真剣そのものだが、同時にこの上なく高揚した表情をしていた。好敵手とのぶつかり合いを心の底から楽しんでいる表情を。見つめる彼女たちにできることは、ただ心中で玄雄の無事を祈ることだけだった。
神立容子
ダチョウの遺伝子を持つバードロイド。ハバタキは「呑駝喰」何でも消化しちゃう。




