37話 製造元が同じなので
「ぎんこ! ぎんこ!」
「あっ、あやちゃん。なに?」
「なに? じゃないわよ。きょうのくさぬきとうばん、ぎんこじゃないでしょ!」
「でもきみえちゃんかぜっていってたし……」
「ひとがよすぎ! そういうこどもはほんとうにわるいおとなにだまされるんだよ!」
「そうなの?」
「そうだよ! もう、どんくさいんだから!」
「そこまでいわなくても……」
銀子は正直その女の子が苦手だった。いつも周りのことを気にかけてあれこれ世話を焼いてくれる優しい女の子だった、でもちょっとだけ口が悪かったのだ。それがちょっぴり怖かった。それさえ直ればもっと仲良くなれるのに、とずっと思っていた。
「彩……」
何とか言ってよ。そこまでは望んでない、そんな風になってほしいとは少しも思ってない。自分があの時、解毒方法を見つけられていればあんなことにはならなかった。マイペースな銀子も流石に責任を感じずにはいられなかった。
「あそこに行けば何か……」
海で撮った写真を見ていたが一つ気になることがあった。銀子さんが元気なさそうに見える。まああんなことがあったらな…皆で楽しめば少しは元気出るかと思ったけどな。その時スマホの着信音が鳴り響いた。
「はい、八田です……」
「八田くん!? 大変なの!」
「え? 波里さん!? 何で俺の番号……」
「そんなことより! 銀子が……」
「銀子さんがどうかしたんですか?」
「例の実験場に一人で行ったみたいなの! 先に行ってるから、あなたもすぐ来なさい!」
「え!? 分かりました!」
一人であそこに……やっぱり責任感じてるんだ。早く行かないと!
実験場を探索してみるが、中には誰もおらず内装もやたらとこざっぱりしている。先日の一件があって移転でもしたのかもしれない。しかし何か手掛かりを見つけられなければ銀子の気が済まない。
「まだ探してないのは……この部屋……」
ドアノブに手を掛けるが次の瞬間地下室の入り口に引き戻される。
「……なんで?」
絶対に怪しい。急いでさっきのドアの前に戻るが、ドアノブに手を掛けるとやはり入り口に引き戻されてしまう。
「氷溶けてる……でも水も残ってない。なんで?」
さっきドアノブに触れる時、念のため氷を出しながら触っていたがドアノブは濡れてすらいなかった。ドアノブに触れた所までは確実なはずなのだが。
「あれ……思ったより時間たってない。ひょっとして……」
触れないように注意しながらドアノブを観察する。思った通りドアノブに羽根が引っ付いている。多分これのせいだ。冷気で凍らせて羽根を粉砕する。
「お邪魔しまーす……え……」
ドアを開けると、灰色の透明な液で満たされたポットの中に肉塊のようなものがプカプカ浮かんでいた。
「何これ……ひっ!?」
肉塊と目があった。よく見るとこの肉塊には顔がある。あまり発達していないが手足のようなものも確認できる。
「あーあ、見ちゃったんだ」
入口の方を振り向くと妖しい雰囲気の少女が扉に寄りかかっていた。
「誰!?」
「そこにいる子達のお姉ちゃん?になるのかな」
「…………? どういうこと……」
「あんまり人のプライベートに踏み込むの良くないよ。とりあえず消えてもらうから」
少女が銀子を見据えたまま鳥獣化する。銀子もすぐに鳥獣化して氷の壁を張っ
「ゲホッ!ゴフッ……はぁ、バードロイドだったの」
少女が血を吐きながら銀子に近づいていく。しかし銀子は微動だにしない、というか彼女が近づいてきていることにすら気づいていない。
「驚いた?これが私のハバタキ。領域内のすべての生物の時間は停止する。……こんなこと言っても聞こえないか」
液体に浮かんだ肉塊にチラリと目をやってため息をついた。
「……動いてる。やっぱり私たち作り物なのかな。……ゲホッ! はぁ、早く倒そ……」
中翼を分厚い氷が覆っている。少し叩いてみるが壊すのは大変そうだ。
「思ったより慎重だね……殺すのは辛いし……溶けるまで安静にしとこう……」
停止している銀子の足元に寝そべった。顔に勢いよく冷や水をぶっかけられる。
「……しまった。仲間が来るなんて……」
波里翠がやってきた。銀子を助けにやってきた。
「銀子の隣で寝るなんていい御身分ね?」
「うわぁ、変な人だ……グフッ! はぁ、もう限界」
銀子の静止が解除された。気付いたら目の前の光景が急変しているのでビックリ。
「何で目の前に……あ、翠ちゃん……」
「おはよう、銀子。あいつ時間止めるみたい」
少女が口の周りの血を拭いながら大きなため息をついた。
「バレた……しんどい……部屋の外に出さなきゃ何とかなるかな……」
「つまり効力はこの室内限定ってことね」
「口滑った……もう無理……ゲホッ!」
また吐血した。銀子が心配そうな顔をする。
「あの子血吐いてる……」
「弱ってるなら好都合じゃない」
翠が羽根から水を発射した。銀子も冷気を放って攻撃する。
「あぁ、もうキツイのに……」
再び銀子と翠の時間が制止した。
「こっちの水凍らせちゃってんじゃん。連携ダメダメだね……えひっ!?」
つらら状になった氷が頭の上に落ちてくる。後ろに跳んで回避するが思わず時間停止を解除してしまう。
「……おっと、どうやら上手くいったみたいね!」
「うん。流石翠ちゃん」
「ゲホッ、ゴホッ……もう何なのよ……」
能力をあっさり攻略された少女が悔しそうに歯噛みする。
「だから真っ当に歳重ねてるやつは嫌いなの……ずる賢い! 小賢しい! 私はまだ生まれたばっかなのに! 羨ましくなんか……」
「……何なの急にキレだして。銀子、今の内に……」
「待って」
止めを刺しに行こうとする翠の腕を掴んで制止する。
「ちょっ……銀子?」
「ねえ、あなたは何者なの?」
「私のこと、気にかけてくれるの?私は……私は……」
少女がためらいながら口を開こうとするが、部屋の外で何やら騒がしい音が聞こえてくる。
「やめとけ、トギちゃん! 無理するな」
「コン兄……」
「二人とも大丈夫ですか!?」
「遅いわよ八田くん」
コンドルお兄さんと玄雄が取っ組み合いながら室内にやってきた。
「あぁ……八咫烏まで来ちゃった……もう絶対勝てない……それしか存在意義ないのに……うぅ……ゲホッ!」
少女の名はトギと言うらしい。玄雄の姿を見て頭を抱えた。
「大丈夫トギちゃん!ここはコンドルお兄さんに任せなさい!」
コン兄が玄雄を蹴り飛ばす。
「はぁう……うん!」
「待って! まだ話が……」
トギが怯えながら逃げ去って行く。銀子が追いすがるがコンドルお兄さんが立ちふさがる。
「妹が随分世話になったようだね! しっかりお礼をしてあげよう!」
「あなたあの子のお兄さんなの?」
「“製造元”が同じって意味ではね!」
銀子が氷剣を作って切り付けるが、コン兄はくちばしで噛み砕く。
「君はダメだ、ちっとも腐ってない!」
「……! 銀子!」
翠が水流でコン兄を押し流す。銀子はその隙にトギを追おうとするが、コン兄が羽根を飛ばして牽制した。
「まあ、待ちなよ。ゆっくり話してこうよ。例えば、俺達が何者か、とか」
トギちゃん
ホトトギスの遺伝子を持つバードロイド(純製)。ハバタキは「時鳥」少しだけ時間を止めたり巻き戻したりできるが体への負担が大きいらしく使うたびに血を吐いている。コンドルお兄さんは彼女のことを妹と言っていたが……?




