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合わせ鏡の旅烏ー別世界の俺は「ちょうじん」だった。  作者: ハイマン
第1章「青空の飼配者」ー玄雄の思い出
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36話 一秒たりとも

 季節はもうすっかり夏になった。朝だというのに刺すような日差しが照りつけている。


 「暑いなぁ……」

 「暑いねぇ……」


登校中偶然会った夕陽と途中まで一緒に歩く。夕陽が制服の襟元をパタパタとはためかせる。


 「暑いし髪切ろっかなぁ……」

 「ええ……」

 「何で嫌そうなの……」

 「だって今の髪型が……いや、お前の人生だ。惜しいことだが俺が口出しすることじゃ……」

 「大袈裟だよ……。……それなら切るのやめとこうかな」

 「本当か!?」

 「もう、喜びすぎ。ねえ、そっちいつから夏休み?」

 「ん、来週から。そっちは?」

 「こっちも同じ。夏休み入ったらみんなでどっか行きたいね。海とか、お祭りとか」

 「いいなそれ。……いい思い出になるよ」


 「ねえ、玄雄…………」

 「ん?」

 「やっぱり何でもない。私こっちだから。また後でね!」


何だったんだ? 走り去っていく夕陽の後姿を眺めていた。肩まで伸びた黒い髪が、陽をはじきながら軽やかに揺れている。元の世界に戻ったら、あいつらと俺は知り合いでも何でもない赤の他人なんだよな。寂しくないといえば嘘になるけど。この世界にいる内にみんなとの思い出を作っておきたいと考えるのは、許されることだろうか。


 「おーっす、玄雄ー」

 「厚田か……お前は別にいいや」

 「朝っぱらから失礼な奴だな」


で、夏休みに入り皆と海に行くことになったわけだ。シーズン真っただ中だけあって混んでるな。


 「まあ、こうなるわな……」


俺は荷物番だ。遊んでいる夕陽たちを少し離れた所から眺めている。じっと見つめている。まあ、これはこれで……


 「お隣よろしいかしら?」

 「……波里さんも来てたんですか」

 「こういうとこには飢えたシャチが沢山いるからね。可愛いペンギンさんを守らないと」

 「要するに銀子さんが心配で来たんですね……」

 「そゆことー。最近ちょっと元気ないみたいだし」


この人も初めて会ったころと比べたらとっつきやすくなったよな……。


 「濡れた髪が首筋に張り付いてるの、良くないですか?」

 「何言ってんの?」

 「ちょっとトイレ行ってきます」

 「あんたねぇ……」

 「あ。別に変な意味じゃないですよ?」

 「話の運びがおかしいでしょ」



皆楽しそうだったな。あの顔見てるだけでも来てよかったって思う。

……さて、こいつのことはどうするかな。


 「楽しそうだなあ、八田玄雄くん」


 「すみません、どこかでお会いしたことありました?」

 「お前が私のことを知らずとも、私はお前のことを知っている……お前たちのせいで私の人生は滅茶苦茶だ」


明らかに海水浴にはそぐわないスーツ姿のおじさんが怒りに満ちた声で言った。ずっと見られてる気配がしてたけど、こいつだったか。


 「事情は知りませんけど、多分逆恨みですよね?」


 「黙れ! お前たちが大人しく捕獲されていればよかったんだ! 私の人生は完璧だった! オオトリという大企業の常務にまで上り詰め、部下からの信頼も厚かった! それなのに…お前たちのせいだ! お前たちさえいなければ、私の人生は安泰だった! 閑職に追いやられることも! こんな化け物に改造されることもなかったぁあああああ!」


叫びながら鳥獣化した。このおじさんもバードロイド。鷹か。


 「やっぱ逆恨みかよ。真実を映せ、ヤタカガミ!」




 「あれ。あなた確か銀子さんの友達の……」

 「波里翠でーす。夕陽ちゃんだっけ? 八田くんならお手洗いよ」

 「そうですか……あ、荷物番代わります」

 「あら、ありがと。……にしてもあの子遅いわね」

 「迷ってんのかな……」

 「ま、男の子だし?色々あるんでしょ」

 「い、いろいろって……」




 「うおおわああああああ!!」


 鉤爪を食いこませて力任せに抑えつけてくる。凄えパワーだ!いやそれよりも、体を燃やされながらそのまま突っ込んでくる。隼人も似たようなもんだけど、このおっさんからはそれとは違う種類の執念を感じる。何にせよ、このままじゃ自分にも燃え移ってしまう。焔を消さざるを得ない。


 「っはぁ……私はお前を倒す……そして返り咲くのだ……!」

 「へぇ、てことはやっぱりあんたらの狙いは俺なんだな!」

 「きぇえええええ!」


甲高い声を上げながら翼を手刀のように振り下ろしてくる。


 「……あんたも鳳空飼の被害者、なんだよな……」


振り下ろされた翼をくちばしで噛んで受け止める。正直ちょっと可哀想だよ。でもなあ、

 「でも、逆恨みでやられる義理はねえんだよ! 離しやがれ!」

 「ぬぅおおお!」


そのまま蹴り飛ばして脱出する。


 「いやだ……私は勝つぞ……功を立てて正しいレールの上に戻るのだ……力を、権力取り戻すのだ……そのためにお前をぉ!」


 「あんたのやりたいことは分かったよ。でもな、今はあいつらとの時間が大事なんだよ。一秒も邪魔されたくないんだ。……さっさと消えてくれ」


 「私は鷹岡匠一だぞ! 図に乗るなクソガキぃいいいいうおわあああああああああああ!!」


鷹岡の体から火柱が上がる。今度は特大火力だ、さっきみたいにはいかねえよ。


 「いやだ……いやだぁああああ!!」

 「……命まで取らねえから。じゃあな」





 思ったより時間かかっちゃったな。波里さん一人にしちゃったけど大丈夫…あの人は大丈夫か。


 「すみません、遅くなって。あ、夕陽も戻ってたんだ」

 「い、いいよ。色々、あるんだよね……」


色々? ……気づかれてたか。流石だな。


 「あっ、アザ出来てる……何かあったの?」

 「ああ、トイレ帰りに襲われてさ。でもちゃんと倒してきたから」


あれ、今気づいたのか? じゃあさっきの色々ってのは一体……


 「波里さん……変なこと吹きこんでないですよね?」


無言で微笑んでいる。……やられた。


 「最初に言い出したのは君だからね?」

 「いや、あれは冗談で……」

 「はいはい。ここ見ててあげるから遊んできなさい」

 「いや、私代わります」

 「私は遠くから銀子を見てる時が一番幸せなの。あんたらがいたら落ち着いて観察できないでしょ。はぁ……ちょっとしおらしい表情も可愛い……」


いかつい双眼鏡を取り出しながら言った。うわぁ、この人歪みねえな。この間 (25話) 浄化されたと思ってたんだけど。


 「でも翠さんさっきからずっと……」

 「八田くんもあなたと一緒の方が嬉しいわよ」


波里さんが夕陽に何か耳打ちしている。何話してんだろ。


 「じゃあ……お願いします」


夕陽が砂浜に走り出す、そして振り向いて

 「玄雄、行こ?」

と笑顔を向けた。……良い笑顔だな、しっかり焼き付けておかないとな。


 「……どうかした?」

 「何でもない。よっし! 遊ぶぞー!」






 「んー? あれー? 鷹岡さんじゃん。海水浴ってわけじゃなさそうだね」

 「お、お前は……純製バードロイドの……」


 「コンドルお兄さん、それ以上でもそれ以下でもない。この炎天下で火浴び? タフですね」

 「た、助けてくれ! このままでは、焼け死んでしまう!」

 「うーん、どうしよっかなぁ……空飼もあんたはどうなってもいいって感じだったし……」

 「頼むぅ! 金か!? 金なら出す! 私は……私はこんなところで死んでいい人間ではないんだぁ!」

 「へぇ…あんたいいね。腐ってる。気に入った、助けてあげる!」


コン兄が手を当てると鷹岡を灼く焔が消え去っていく。


 「あ……あぁ……助かった。助かったぁ……まだ生きられるんだ……はは……あはははは! やったぞ! やったぞおおおお!」

 「お礼も言わないとかますますポイント高いなぁ。これからも見せてよ、生き物の腐ってる部分!」


鷹岡匠一

タカの遺伝子を持つバードロイド。ハバタキは「タカノツメ」身体能力を底上げする。力を求める彼にふさわしい能力と言える。

オオトリの常務だったが空飼の気まぐれで閑職に追いやられ、バードロイドに改造された。しばらく息を潜めていたが、玄雄たちへの復讐心を原動力にして活動を再開した。どう考えても恨む相手を間違えている。空飼が悪いよ、空飼が~

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