35話 誰が背負うのか
「さあ、果し合いと行きまショウか」
「ああ、行くぞジョナサン」
ジョナサンが鳥獣化して突っ込んでくる。こっちの俺の望みは、自分がどうなってでも空飼いを止めることだ。どうなってでもってことは、何ともなくてもオッケーってことだよな?
悪いけど俺の方の望みも捨てちゃいないからな。……最初からこうすればよかったんだ。
「どうしまシタ? 変身しないのデスカ?」
「ちょっと待ってろよ。準備するから」
なあ、ヤタカガミ。俺はもう十分普通の暮らしを堪能したよ。だから呑み込むなら、俺じゃなくて、俺にしろ。あいつはもういいじゃねえか、あいつは十分頑張っただろ? だからせめて、全部終わった後は、普通の暮らしってやつを満喫してほしいんだよ。もしこの願いが、“真実”として認められるなら……
「真実を映せ! ヤタカガミ!」
この感覚……認めてくれたんだな。これなら、心おきなく力を使える。
「進化を受け入れたのデスネ! あなたではない、あなた自身ガ!」
「ザッツライト! これでもう迷うことはねえ!」
正面から突っ込んでくるジョナサンをヤタカガミに映そうとするが姿を消す。後ろか!
「何度も同じ手は食わねえぜ! 焼き尽くせ!」
背後から熱が吹き上がる。胸のヤタカガミには、焔に呑まれるジョナサンの姿が、海面を通じて映し出されていた。
「Oh,No! 海面に反射した姿を鏡に映シタ!」
ジョナサンが一瞬姿を消した後無傷になって戻ってくる。別の空間に焔だけ置いてきやがったのか、やるな!
「合わせ鏡トハ考えましタネ! ですが私が背後に来るとはどうして分かったのデス?」
「勘だ!」
「OK、デハ今日はこの辺にしまショウか!」
「へっ? おい、まだ勝負は……」
しかし俺の言葉は聞き入れられることなく、景色は変化する。
「玄雄? どうしたのボーっとして」
夕陽が俺の顔を覗き込んでいる。ここは……巌さんの小屋に戻ってきたんだ。時間もそれほど経っていないようだ。……ジョナサンの能力か。
「それよりあんた、自分もそうなるってどういうことよ!」
ヒバリに問い詰められる。ここに戻されたのか。厄介なタイミングに戻してくれちゃって……
「それなら大丈夫になった。この力を使っても、“俺”は呑まれない」
「ついさっきと言ってることが違います……」
「夕陽、こいつ嘘ついてない?」
「いや、なんか……まあ、嘘吐いてるようには見えないけど……」
嘘じゃないよ。俺は、お前たちのよく知ってる“俺”は、全部終わったら普通に暮らせるから。よその世界から来た俺のことは忘れて、お前たちも一緒に、普通に暮らすんだ。
……だから、それまでは協力してくれよ。
「みんな、頼りにしてるぜ」
「な、何よ急に……」
皆が困惑した表情を浮かべた。そもそも彩さんの話してたんだ、ちょっと唐突だったな。
「あの、巌さん。彩さんのことは……」
「大丈夫。最初からそばにいるつもりだったから。思いっ切りやれよ。見ててやるから」
「はい、見ててください」
頼れる仲間がこんなにたくさんいる。きっとなんだってできるよ。
「さあハヤトくん! 特訓を始めまショウ! Let’s go!」
「……いつにもまして上機嫌だなジョン」
「そうデスカ? 少しイイコトありましタヨ」
「ふーん……」
「……ハヤトくん、寂しくはないデスカ?」
「はあ?」
「クロオ君には仲間がたくさんいマス。でも君は一人ダ」
「あんたまで玄雄の話すんのかよ。俺には仲間なんか必要ない。全部振り切って前に進む」
「……分かりまシタ。君は鍵ですカラね、頑張ってクダサイよ」
「ああ、玄雄は俺が倒す」
「玄雄君にこだわるのは、やはりフミツキアヤさんのためデスカ?」
「……彩さんの話はするな。俺は俺自身のために戦ってる、それだけだ」
「そうデスカ。君の肉体も完成に近づきつつありマス。もうひと踏ん張りデス!」
「ああ、“グリフォン”の力必ずものにしてみせる」
八田玄雄は、この物語の主人公ではない方の八田玄雄は、自分のアルバムを眺めていた。家族に見つめられながらすやすや眠る赤ん坊。別世界の自分の出生を見て、正直少し羨ましかった。
「君は幸せ者だよ。……でも俺も負けてないと思う」
空飼に、初めて家族になってくれた人に最悪の形で裏切られた。それでも心が壊れずに済んだのは、鳳雛の家で出会った仲間たちがいてくれたからだと思う。だから余計に羨ましかったんだ、仲間を頼ることのできる君の強さが。でももう心配ない。君の過去を見て、俺がこっちの世界でやるべきことが分かった。
「あら玄雄。アルバム見てたの?懐かしいわねえ」
「あ、母さん。…俺、赤ちゃんの頃こんな顔だったんだな」
「そうそう、このころは小さくて可愛かったのに……」
「ちょっと!」
「今は大きくてかわいい!」
「はは、何だよそれ」
浸ってる場合じゃない、聞かなきゃいけないことがあるんだ。
「兄貴のアルバムは、無いの?」
「え? ここに写ってるじゃない。この写真にも、この写真にも……」
「…………母さん、俺知っちゃったんだ」
「……そうなのね」
「兄貴がこの家に来た時のこと、全部話してほしい」
羽地が大量のアルバムを持って空飼の部屋にやってきた。彼がなぜこんなものを頼んだのか分からなかった。
「あの、持ってきましたが……」
「ありがとー、その辺置いといて」
「なぜ突然このような……」
「忘れてることが多すぎる気がしてさ。目的意識がはっきりしてる方が実験も捗るかと思ってね。今は何となくやらないと気が済まないからやってるって感じだからさ」
それだけの理由であんなことができるのかとドン引きしたが今の羽地には従う以外の選択肢はない。
「あ、それよりよろしいのですか? 鷹岡が独断で動いているようですが……」
「彼は最初から頭数に入れてないし別にいいんじゃない? 万が一それで玄雄倒してくれたりしたら儲けものじゃない」
空飼がアルバムをめくりながら楽しそうに微笑んだ。
「こんなことあったんだなぁ。このころならまだ後戻りできたのかな……」
幻獣の翼の副作用が、異世界の玄雄の体ではなく、現実世界の玄雄の方の体に来るようになりました。これで異世界の方の玄雄は、いくら力を使っても人外化するリスクはありませんぜ!良かったね!いや、良くないだろ!




