26話 凡人だから振り切りたい
「玄雄、これを見てくれ」
巌さん達のアジトに呼び出されて行ってみたら一枚の紙を渡された。
「聖徳太子……これ昔の一万円札じゃないですか。これがどうかしたんですか?」
「そっちじゃない裏面だ」
「裏面? ……これは……!」
裏面には二羽の鳥が向かい合わせになっている。俺は、ついこの前この鳥を見たことがある。鳳空飼の鳥獣の姿だ。
「巌さん、これって……」
「鳳凰だぜ。いろいろ用意してたんだけど一発とは……」
よく見ると床にいろんな鳥の写真が散らばっている。これ手当たり次第に見せるつもりだったのか。
「鳳空飼は“鳳凰”のバードロイドってことか。これで何とか能力を予想できないかと思ってな。鳳凰って何するんだ?」
「いや、普通のカラスは焔出さないしライチョウも電撃放たないでしょ。それだけ分かってもあんまり意味ないですよ」
「だよなぁ。藁にも縋る思いだったんだけど」
巌さんが情けない声でうなだれる。空飼の能力か……
「あ、そうだ。玄雄、体の方は大丈夫か?」
「なんとなくまだ大丈夫なのは肌感覚でわかるんですけど、でもあとどれぐらいこの力を使えるのか……」
「そっか…ん?うん…そうだな……無理しないで、私みたいになってほしくないから。だってさ」
「ありがとうございます。彩さんも」
山のふもとまで巌さんが送ってくれることになった。
「彩さん、やっぱりまだ……」
「そうだな。今の彩もそれはそれで可愛いけどな」
「はぁ……」
「でもやっぱり昔みたいに楽しく話してほしいよ。それまでは傍にいるつもり」
「……すごいですね巌さん」
「よせよ、照れるだろ。あいつああ見えて結構口悪かったんだぜ」
「嘘だぁ」
「マジマジ。隼人なんかしょっちゅう怒られてたぜ」
「それ面白いっすね」
「隼人! 何してるのバカ! ってな感じで。隼人とは連絡とってんのか?」
「えー、いや、あんまり……」
「ふーん、そうか。あいつ何してるのかな……」
隼人は俺達の敵なんだよ。でも巌さん達の顔見たらそんなこと言えるはずがなかった。
「普通じゃないって……隼人、何バカなこと言ってるの?」
その女性は少年の苦悩をたった一言でぶった切って見せた。隣にいる男性が痛快そうに笑った。少年は、ある日突然蘇った幼い日の記憶によりずっと苦しんでいた。自分は普通とは違う、何をしていてもその事実がのしかかってきた。普通とは違う、周りとは条件が違うから、自分は卑怯だ。いくら努力を重ねてもその思いだけは振り切れなかった。それなのに自分についてこられるものは誰もいない。あいつさえいれば…少年は孤独だった。
「その割にはずいぶん普通なことで悩んでない? ダッサ……」
「彩、言い過ぎだぞ」
「自分と周りの違いで悩むのなんか思春期にはよくあることじゃない。そんなのでウジウジして、完全なる平凡じゃん。パーフェクトスタンダード、ミスターアベレージじゃん」
「ナイスミドル的な?」
「は?」
彩と巌の小気味良いやり取りに自分の悩みが平凡だと突き付けられて思わず笑顔になってしまう。自分も普通に生きていていいんだと思えた。でも今はまだ駄目だ。目の前にいる二人から、今も人体実験で苦しむ子ども達がいることを知らされていた。
「彩さん、巌さん。俺も一緒に戦わせてください」
そんなこともあったな、と隼人は思い出していた。振り切ったつもりだったのに、あの場所に行ったせいでまた取りつかれてしまったのかもしれない。あの時も迷いが邪魔して止めを刺し損ねた。迷いが邪魔するなら、迷いが追い付けないほど速くなるしかない。
「まだだ……もっと速く……」
「ハヤト、頑張ってるねえ」
「……何しに来た?」
隼人が鍛えているところに空飼がやってきた。隼人は邪魔そうに睨み付けた。
「もっと強くなりたいんだろ?いい方法があるよ」
「断る」
「話ぐらい聞いてくれてもいいだろ?」
「どうせ碌なことじゃないんだろ」
「“幻獣の翼”これを受け入れれば能力の飛躍的な向上が期待できる」
「そんなものに頼るつもりはない。俺は自分の力で限界を超える」
「使いこなす自信がないのかな……」
「挑発のつもりか?」
「クロオは使いこなしてるみたいなんだけどな……」
「……ふぅー、だからどうした」
「頼むよ、不死鳥の遺伝子を完成させるために幻獣の翼の適合者が必要なんだよ」
「それが本音か」
「いつも最初は渋るけど最後にはちゃんと協力してくれるじゃない」
「……お前本当ムカつくな」
「いいの?」
「……分かった。もう俺はどうせ普通じゃないんだ」
「流石ハヤトだ」
離れるほどに思慕の上は募っていく。その感情が平凡だというのなら、異常を持ってねじ伏せよう。彼は何と言われようが自分の目的を成し遂げたかった。利用されていることに気づいていても、それに縋るしか方法はなかった。
「玄雄、今日はいきなり呼びつけて悪かったな」
「いや、全然」
「彩もたまには俺以外の奴と話した方がいいと思うんだよ。話すっていうか一緒にいる?」
「そうですね、今度皆も連れてきますよ」
「おお、それはありがてえ。なあ、玄雄」
「はい?」
「隼人のこと、信じてやってくれな」
「え?」
「あいつがなんであんなことしたのか分からないけど、きっと何か理由があるはずなんだ。だから、あいつのこと、嫌いにならないでやってくれ」
「巌さん……ひょっとして気づいて……」
「……あいつともそれなりに長い付き合いだったしな。彩もずっと気にしてたんだ、私のこと嫌になって出ていったんじゃないかって。あいつはそんな小さい男じゃない。多分何か目的があるんだよ。きっと。……じゃあな、気を付けて帰れよ!」
そう言って笑顔で手を振り立ち去っていった。背筋はいつものようにピンと伸びてはいなくて、心なしか少し丸くなっていた。隼人が俺達と敵対する理由……考えてもちっともわからなかった。でも俺ならきっと理解してやれると、そう思ったから巌さんもあんなことを言ったのだろう。応えなくちゃな。




