25話 友達以上ストーカー未満
家に帰ろうとしてセンター街を通り抜けていると厄介な人に出くわした。気付かれないようにと……
「八田くん、何こそこそしてるの?」
あちゃー、気づかれたー。俺この人苦手なんだよなぁ。
「……どうも、波里さん」
この人こそ俺の高校の生徒会長にして銀子さんの親友・波里翠さんである。……一応味方、と思っていいのかな? この人は銀子さんの味方ではあるけど俺の味方がどうかは微妙な気がする……
「一人で何やってんですか?」
「あなたも一人でしょうよ。銀子ちゃんを見守っていただけよ」
「ぅゎ……」
立派なストーカーじゃないですか。ていうか銀子さんも気づけよ、そして声を掛けてあげろよ。この人悪化する一方じゃないか。
「何引いてるのよ。友人の安全を守るのは義務でしょ?」
「……生徒会長って案外暇なんですね」
「暇なわけないでしょ私がこのためにどれだけ頑張って業務を終わらせてきてると……」
めっちゃ早口。ていうか友達ならむしろ声かける方が普通なんじゃないんだろうか…
「声掛ければいいじゃないですか」
「そ……それは……でも、もし迷惑だったら……」
「案外乙女なんですね」
「茶化さないで」
顔を赤らめてうつむいたかと思ったら一瞬で凍り付きそうな瞳を向けてくる。……やっぱり苦手だなぁ。銀子さんは幸せそうな顔をしてアイスクリームをなめている。
「銀子さん、多分迷惑に思ったりしないですよ」
「あなたに言われなくても分かってるわよ」
「じゃあ声掛ければ……」
「この前銀子ちゃんが私のこと友達だって言ってくれたの」
「へー。よかったですね」
「それ以来、なんか意識しちゃって……」
それでストーカーをこじらせてしまったと。しょうがないなぁ…
「銀子さーん!」
「ちょ……」
「あ、玄雄。翠ちゃんも。一緒にお出かけ?」
「いえ、そこで偶然。あ、俺急ぐんで!」
「八田くん!?」
急いでその場から立ち去っていく。荒療治になるけど、二人で遊べば少しは症状も和らぐだろう、和らぐといいな。……少し様子見ていくか。……これじゃ俺がストーカーだよ。
「せっかくだし二人で遊ぶ?」
「えっ!? い、いいの?もちろん!」
幸せそうな顔してるなあ、あの調子だと余計にこじらせそうな気がするが……いや、ここはまだ様子見だ。
ずっと黙ってるように見えるけど……緊張してんのかなあ。
「ねえ、ひょっとして迷惑だった?」
「えっ!? 全然そんなことないよ!?」
銀子さんが不安そうに口を開いた。ほらー、黙り込むからそうなるんですよ。
「最近の翠ちゃん、なんかよそよそしいっていうか…私と友達なの、嫌だった?」
「嫌なわけないじゃない! むしろ友達以上に……」
後半の方はよく聞き取れなかったけど……なんかあんまり雰囲気良くないみたいだぞ? あれ以上こじらされても困るんだけどなあ、やっぱり俺も一緒にいた方がマシだったかな……
「あら、ひょっとして銀子?」
何者かが二人に話しかけている。誰だ?
「公恵ちゃん?」
あれはひょっとして郭公恵さんか? 鳳雛の家で一緒だった……
「やっぱり銀子だー! 久しぶりー! ……へぶっ!?」
公恵さんが銀子さんに抱き着こうとするが波里さんに突き飛ばされる。おいおい、過激派かよ。スキンシップぐらい許してあげても……
「ちょっと、銀子ちゃんに何するつもり?」
「ちぇ……別にあなたでもいいんだけど」
どういうことだ? 次の瞬間信じられない光景が目に飛び込んできた。波里さんの頭上にまん丸い球体が乗っかっていた。……ちょっとシュールだな。
「……何これ?」
「あたしの卵。あなたが今からその子の親よ」
「はあ? あなた一体何を……うぅっ!?」
波里さんが膝から崩れ落ちる。何が起きたんだ?ともかく助けに行かないと。
「おっと。行かせないよ、僕ちゃん」
「何ですか! 今急いで……が……」
突然目の前に現れた青年にみぞおちを殴られる。こいつも敵か……
「あの子精神が腐ってるからさ。お兄さん、ああいう子は応援したいんだよね」
「……だったら倒すしかない」
「おぉ怖。君のような活きの良い奴は好みじゃない」
さっさと倒して二人を助けに入らないと。
「あなた……私に何を……」
「別にぃ? あなたにその子を育ててもらってるだけよ」
頭に生えた卵が成長していく程に翠もどんどん弱っていく。
「あなたから栄養をもらって成長してるのよ。頑張って育ててね」
「ふっざけ……うぅ……えくっ……」
翠が完全に倒れ込んで地面に這いつくばる。
「翠ちゃん……やめて、公恵ちゃん!何でこんなひどいことするの!」
「銀子、酷いのはあなたの方じゃない。その子はあなたをかばってそんなことになってるのよ?責任感じないの? 感じないよね? え、ひょっとして感じてる? あなた本当お人好しね。感じる必要ないわよ。“友達”なんて所詮利用するためのものだもん」
公恵が早口でまくしたてる。銀子は倒れ込んだ翠をじっと見つめている。
「……今助けるからね」
足元に氷を展開して螺旋を描きながら高速滑走する。その目は公恵の中翼をまっすぐ見つめている。
「えいっ!」
「ん~、ふふん?」
銀子が突き立てた氷の刃を片手で受け止める。
「何このパワー……」
「あなたのお友達からもらったの」
公恵のハバタキ「寄生親子」により卵を植え付けられた緑の力が公恵に吸収されているのだ。
「ぎん……こちゃ……」
「“育児”で疲れてるんだから無理しないの。指一本動かすのだってつらいはずよ?」
「は……翠ちゃん……」
「お友達が自分の力でやられちゃう気分はどうかしら?」
公恵が銀子を氷の刃ごと投げ飛ばす。銀子が地面に叩きつけられ水しぶきが上がる。
「友情なんてこんなものよね。へへっ」
「なに……勘……違いして……」
「そう思うのは、公恵ちゃんに本当の友達がいないからだよ」
翠が息を切らしながら声を絞り出す。銀子もよろめきながら立ち上がる。
「昔は私に頼りっぱなしだったくせに、生意気言うじゃん」
「もう守ってもらうばっかりの私じゃないもん。私の友達は私が守るんだもん!」
「銀子、ちゃん……」
「大丈夫、分かってるから」
銀子の作った氷の道がピキピキ音を立ててひび割れ始める。ひび割れの隙間から高圧で水が噴射される。
「何!? どういうことなの!?これじゃ逃げ場が……」
水が公恵を突き刺し、銀子がすかさず凍らせる。
「翠ちゃんが私の氷の中にあらかじめ自分の羽根を閉じ込めておいてくれたの」
「合図もなしにこんな事……どうして……」
「友達だもん、ねっ?」
「ありゃりゃ。あの腐れ女朽ち果てちゃったか。今日は撤退だな」
「くっ……待ちやがれてめえ!」
「俺はコンドルお兄さんだ、憶えておくといいカラスくん」
くっそ、逃げられたか。……いや、それよりあの二人は大丈夫か?
「銀子さん、波里さん!」
「あれ、玄雄帰ったんじゃ……」
「あー、それは……あっ、それより大丈夫ですか?」
「このぐらい……なんてこと……ないわ」
「いやいや、フラフラじゃないですか」
「……銀子ちゃん、私のこと友達って言ってくれたよね?」
俺を無視して波里さんが喋り始める。
「うん、そうだよ?」
「私友達じゃイヤ」
「えっ、そんな……」
何この空気。俺立ち去った方がいい? いや、むしろ俺が空気か?
「友達以上の、関係になりたい」
「友達以上……うん! もちろんいいよ!」
なんかすれ違いが発生している気がする。でも口挟める様な感じじゃないしな……まあ、いいか! 仲直りできたみたいだし! うん!
「良かったですね!」
「……八田くんも、ありがとう」
「いえ、俺は……えっ!? ええっ!? 今……ありがとうって……」
「君、私を何だと思ってるわけ?」
「……すみませんでした。」
郭公恵
カッコウの遺伝子を持つバードロイド。ハバタキは「寄生親子」卵を植え付けた相手の力を吸収する。




