22話 童心に帰って
人間じゃなくなる、か……そうなったらあいつはこうして普通に学校に通うこともできなくなっちまうのか。本人がいいって言ってるけど、でもなぁ……
「じゃあ、遠足の班決めするぞー。4人一組で適当に組んでくれ」
遠足かぁ…まあ、厚田辺りと組んで適当に……ダメじゃん! こっちの俺は友達いないんだった! どうする!? やっぱり厚田に声かけるか? ……なんて話しかければいいんだよ、今更距離感分かんねえよ!やばい、着々と決まっていってる。どうすれば……
「八田くん、俺らの班入る?」
「厚田ぁ……やっぱり、どこにいてもお前は親友なんだな……」
「えっ? 何の話?」
「いや、こっちの話だ。気にしないでくれ」
結局厚田と行動することになるのか、他の二人、中牟田と久島もあっちの世界にいた頃はそれなりに仲良かったし。……あれ?どういう距離感で接すればいいんだ?普段の感じで行ったら変だよな……まあ、何とかなるだろ。
そして迎えた遠足当日、よりによって行き先がここである。スカイパーク・オオトリ。名前からお察しの通りオオトリが経営するテーマパークである。
「俺帰っていいか?」
「何でだよ。せっかくだし楽しもうぜ」
まあ、あいつらもさすがにこんなところでは襲ってこないだろ。平日とはいえ大盛況だ、人目につかない場所がないし。
「八田くんもリア充死ねとか言っちゃうタイプの人?」
「え? ま、まあ、そんな感じだな。こんなところリア充用施設だよな!」
「でもこの間他校の女子と一緒に歩いてるところ見かけたような……」
「……ヒトチガイジャナイ?」
「怪しいな……中牟田、吐かせるぞ」
「OK!」
「落ち着け、お前ら!あれは彼女とかじゃないから!」
「ふっ、ボロを出しやがったな」
「誘導尋問だぁ!」
「バカやってないで行こうぜ。回れなくなるぞ」
「助かったぜ、厚田……」
「中牟田、久島。行くぞ」
「そんなぁ! お前まで!」
「冗談だよ」
「ビックリさせんなよ……」
「見ろよ、あの二人組めっちゃ不審者スタイル!」
「中牟田辞めろ、指さすな! 目付けられたらどうすんだ」
あの二人組は……メチャクチャ見覚えがある。何でこんなところに……
夕陽が平日なのに普段着でヒバリの部屋の玄関に立っていた。
「ねえ、ヒバリ。本当に行くの?」
「当たり前じゃない! 何があるか分からないんだから!」
ヒバリがいそいそ準備しながら答える。
「……私今日普通に学校なのに」
「涼音と銀子さんは受験生なんだからサボらせるわけにいかないでしょ? 私とあんたしかいないの! はい、これ」
夕陽が手渡されたものをじっと見つめる。マスクに帽子、サングラス。
「……これ付けるの?」
「そうよ。玄雄には私たちのこと気にしないで楽しんでもらわないと!」
不審者ファッションに身を包んだヒバリが振り返る。夕陽が必死で笑いをこらえる。
「私は高校行ってないから……だからせめて皆には高校生活満喫してほしいの」
「ヒバリ……私に学校サボらせてなかったら感動できたのに……」
「いや……だってそれは……」
「一人で行くの寂しかったんだ?」
「……!? そ、そんなんじゃないわよ……」
「一緒に行きたかったんだ?私と」
「いやぁ、だから、その……」
こうして夕陽とヒバリの二人もスカイパーク・オオトリにやってきたのであった。
あいつら……夕陽とヒバリ、だよな?何であいつらがここに…ヒバリはともかく夕陽は普通に学校あるだろ?
「八田、やめとけ。ああいうタイプとは関わらない方がいい。俺の勘がそう言ってる」
「お、ああ……」
「おいおい、今日ヒーローショーやってんじゃねえか!」
「中牟田……まさか見に行くとか言わないよな?」
「装電戦士シリーズじゃん、兄貴とよく見てたなぁ」
「八田って兄貴いるんだ」
「いや、あの、昔よく遊んでくれた近所の兄ちゃんだよ」
「よし! 見に行こうぜ!」
「待て、中牟田、こんなのどうせガキ向けだろ……」
「久島……お前何にも分かってねえな。お前のその価値観ぶっ壊してやる!」
「中牟田は相変わらず特撮好きだな~」
「え?俺言ったことあったっけ?」
「あ。風の噂?ゆ、有名だぜ、中牟田の特撮好きは!」
「そうか、そうか。俺もとうとう成し遂げてしまったか……」
「何をだよ、お前はただのオタクだろうが」
乾電池を使って変身するヒーローが怪人と戦うという、まあ言ってしまえばありがちなヒーロー物なのだがこれが結構面白い。意外にシリアスなストーリーと王道の熱い展開で一気に引き込まれてしまう。一つ気になるのはヒーローが戦ってる怪人が鳥の怪人ってことか。よく抜け抜けとこんな話をやれるよな。お前らも似たようなものを作ってるくせによ。脚本の人はそんなこと知らないのかもしれないけどさ。
「久島、随分見入ってるなぁ?」
「……仕方ない、負けを認めよう」
「八田は……うおっ、すげえ顔」
「あいつら、許せねえ……!」
「めっちゃ感情移入してる……」
『クエ~っ、クエッ、クエッ! この会場の人間を人質にしてやるぞ~!』
『待て! そんなことはさせんぞ!』
『吾輩の邪魔をするな~! いけぇ、ザコども!』
『ぐっ……! これでは助けに行けない!』
『そこのお前! 俺と一緒に来い!』
え。着ぐるみの怪人が俺の手を掴む。いや、何で俺?もっと小さい子もたくさんいるんだから子どもにしろよ。何で俺?最後列にいたのに何で俺?
「八田~! くっ……俺達には見ていることしかできないのか…」
「すまない八田……! 非力な俺達を許してくれ…!」
「ノリいいなあ、お前ら!」
『クエ~っ! その通りだぁ! お前たちはそこで指をくわえて見ているがいい!』
「なあ、これ全部同じ人が声当ててるのか?」
「久島! 無粋なこと言うなよ! 八田、大丈夫だ! ヒーローが助けてくれる!」
「ああ、そうだ! 希望を捨てるな!」
こいつらノリノリじゃねえか。こうなりゃヤケだ、俺も乗ってやる。
「ヒーロー! 助けてくれぇー!」
『え……ああ! 待っていろ、今すぐ助けるからなぁ!』
引いてんじゃねえよ、プロだろ!
『クエ~っ! えっえっ! お前のような甘ちゃんにできるかな?』
『必ず救って見せるさ! その少年も、世界の未来も!』
ショーもそろそろクライマックスかな。会場の盛り上がりも最高潮に…あれ? 何か静かだな、嵐の前の静けさってやつか? いや、違う。観客がみんな眠っている。人質とられてるんだぞ、もうちょっと興味持ってくれても……
「よう、玄雄。お前にも眠ってもらうぜ。」
「お前……まさか最初から……!」
着ぐるみの怪人が耳元で囁く。こんなのってありかよ……!
「玄雄が人質にされちゃった……ヒバリ! 助けないと!」
「お芝居だから大、じょぉぶ、だ、って……」
「ヒバリ……? ヒバリ!?」
「えへへ……みんな大好きだよぉ……」
「え、かわ…寝言か。あ、起きて! この会場なんか変だよ!」
ふとステージの方に目をやるとヒーロー役の人も倒れ込んでいる。やはりおかしい。作り物のステージの上で本物の戦いが始まろうとしていた。
~一方そのころ舞台裏~
「主役のスーアクさんが倒れたぞ! どうなってんだ!」
「一旦はけさせろ!」
「私が時間を稼ぎます。その間に新人、お前が主役のスーツに着替えろ!」
「で、でも……」
「今動けるのはお前しかいない!腹決めろ!」
「……分かりました、俺、やります!」
「しかしそうなると台本の大幅な修正が……」
「俺が無名俳優だからって舐めないでください。アドリブで何とかしますよ」
「無名俳優さん……!」
「舞台の上ではこれぐらいのトラブル、日常茶飯事ですよ。新人ヒーローくん、思いっ切りやんな」
「ありがとうございます……!」
「よし、全員でこのステージ、成功させるぞ!」
「おぉーーーーー!!」
舞台の裏側でも、別の戦いが始まろうとしていた。
さあ、地獄のヒーローショーの開演だ…!




