23話 君がヒーローなら
「玄雄、お前にも眠ってもらうぜ」
「お前まさか最初から……!」
着ぐるみの怪人が耳元で囁く。こんなのってありかよ。
「どうやってみんなを眠らせた?」
「さあな? 鶏が鳴いたら起きるんじゃないかえ?」
「ふざけてんのか?」
「大真面目さ」
腕をひねって着ぐるみの拘束から離脱する。鳥獣化しようとするが一瞬迷いが邪魔する。八咫烏の力を使ったら……
「おっと、甘いねえ。じゃあ本番と行こうかい」
着ぐるみを脱ぎ捨てて鶏が姿を現した。八咫烏にならないと……戦わないと……
~舞台裏~
「あの男の子良い動きしてるなあ」
「ちょっと、登坂のやつ着ぐるみ脱ごうとしてないか!?」
「何やってんだあいつ……!」
「お任せを」
「無名俳優さん…!」
『クエ~っ!やるなガキぃ! 俺も真の姿を見せてやる!』
「よし、うまいぞ。新人、出番だ!」
「はい!」
~ステージ~
『そこまでだ! 少年、よく耐えたな』
「あんたは下がってろ!」
『えぇっ!?』
鶏が羽根を飛ばしてくる。マズい、ヒーロー役の人が!
「大丈夫か?」
『え、ああ……』
「こんな時にも他人の心配かい。優しいねえ」
『クエ~っ! そうか、そのガキもお前の仲間だったのか! 小賢しい! 二人まとめて蹴散らしてくれる!』
『ああ、その通りだ! ヒーロー、ともに戦おう!』
『少年……!』
会場内に何やら声が響いているがもはやどうでもいい。早くこいつを倒してみんなを助けないと。人間の姿のままじゃ勝ち目はない、かといって八咫烏の力を使ったら……
「どうしたね!? 来ないならこっちから行くぞ!」
迷ってる暇はない、でも……
「玄雄、大丈夫?」
「夕陽!? どうして……」
~舞台裏~
「何だ!? 乱入者だと!?」
「新人……ここが正念場だぞ……!」
「あの、やっぱりベテランさんも出た方が…」
「いや! ここを乗り越えればあいつは化けるぞ」
「あの子愛されてるねえ。羨ましい。俺もせいぜい支えるかね」
「無名俳優さん、あいつを頼みます」
~ステージ~
「ごめん、玄雄。実はずっとつけてたの」
「うん、それは知ってる」
「え」
「でもヒバリも一緒だったんじゃ……」
「ヒバリは……寝てる」
「あいつの術中か……!」
そんな話をしていると、ヒーロー役の人が鶏に突っ込んでいく。何やってんだよあの人!
「唯人が、俺に勝てるか」
軽やかにジャンプしてヒーロー役の人を軽く蹴っ飛ばす。危ない! 吹っ飛ばされたヒーロー役の人を受け止める。
「……助かったよ」
「無理しないでください。あいつは普通じゃない。……俺もか」
「え?」
「こっちの話です」
~舞台裏~
「やはりあいつには荷が重かったのか……」
「ベテランさん……」
「……やれやれ。」
『少年、俺の魂は、君に託す。世界を、あいつのことも、救ってやって、くれ……』
「ふぅー、後はあの少年少女と登坂君次第だ。新人君はいったんはけさせろ。」
「無名俳優さん!? 登坂はともかく……あんなどこの馬の骨ともわからない奴らを…」
「そうかな? 彼らの目、若い頃のあんたそっくりですよ」
「目? ……! 君は一体……」
「ただの売れない役者ですよ」
~ステージ~
夕陽が鶏に向けて焔を放つ。
「おっと、焼き鳥はごめんだね」
鶏が横っ飛びで素早く身をかわすが飛び散った火の粉が足につく。よし、“灼けつく夕闇”は少しでも当たればそれで一気に焼き尽くせる。
「いいのかな?俺を倒しちまって」
「……どういう意味?」
夕陽が鶏に着火した火の粉の火力を上げようとするが、鶏が意味深なことをつぶやく。
「ここで俺を倒しちまったら、この会場の人間一生眠りっぱなしだぜ?起こせるのは俺だけだからねえ」
「なんですって?」
夕陽はそう言われて思わず焔を消した。こいつ、なんて卑劣な真似を! この会場には俺の友達も、無関係の人もたくさんいるんだぞ。
「ふざけんな! 今すぐ起こせ!」
鶏に殴りかかるがひらりとかわされ、羽根を打ち込まれる。
「生身で立ち向かってくるとは。力を使えない理由でもあるのかい?」
「うるせえ……無関係の人間まで巻き込みやがって……お前だけは許さねえ……」
「だったらなぜ力を使わない?」
仰向けになった体を何度も踏みつけられる。
「うぐっ……使うまでも、ないってことだよ……!」
「いつまでそんな強がりが持つかね?」
「玄雄!」
「邪魔するんじゃないよ!」
夕陽が飛びかかろうとするが羽根で押し返される。俺は……
~舞台裏~
「……すみません、期待に応えられず……」
「気にすんな、また一個ずつ学んでいこうぜ」
「……はい」
「ベテランさん、あれちょっとやりすぎじゃないですか?」
「登坂はちゃんと技術がありますから、寸止めでしょう。それにしてもあの子やられ演技上手いな……」
「あの子の目……」
「新人、どうかしたか?」
「悪者と戦うヒーローの目です。自分が本気で世界を救えると信じているヒーローの目です。……そうだ、ヒーローに一番大事なものを忘れていた。大事なのはこのスーツが本物かどうかってことじゃない、心に正義の炎が燃えているかどうかなんだ!」
「おい、新人! そんな体で無理するな!」
「ベテランさん、ここで逃げ出したら俺はヒーローでも何でもない、ただの腰抜けです!」
「あいつ……!」
「行かせてやんなさいよ」
「無名俳優さん! しかし……」
「あなたも若い頃はそうだったでしょ?彼、良いヒーローになるよ」
~ステージ~
「ここまでだな、玄雄!」
このままじゃ本当に……早くヤタカガミを……でも……!
「とうっ!」
その時何者かが鶏の背後から現れ羽交い絞めにする。あれは、ヒーロー役の人!
「ただ人が! 邪魔をするな!」
「そうだ、俺はただの人間だ。だがな、心に正義が燃えていれば誰でもヒーローなんだ!」
心に正義……そうだ、この会場にいる人たちを、俺の友達を、仲間を守らなくちゃ。それこそあいつに怒られちまう。悪い、こっちの俺。お前の力、使わせてもらう。
「真実を映せ! ヤタカガミ!」
鳥獣化して鏡となった中翼に目の前の鶏を映し出す。映す姿は、けたたましく鳴く鶏の姿だ!
「何だ!? 体が勝手に……コッケコッコ―!」
会場の人たちが目を覚まし始める。早くケリをつけないと。
「すみません、この辺に立ってそれっぽいポーズ決めててください」
「え? ああ、うん!」
映し出せヤタカガミ、中翼を焼かれる鶏の姿を!
「そんな、バカなぁー!」
相手が倒れるのを確認して慌てて人間の姿に戻る。見られてないよな?
『ヒーロー! 助けてくれてありがとう!』
『少年、礼を言うのは私の方だ。君の勇気ある行動があったからこそ勝てたんだ』
「うおおおお!なんかよくわからないけど熱い展開だぜ!」
「八田の奴羨ましいなあ」
お前らさっきまで寝てたくせに……まあ、いいか。みんな無事だったし。
「むにゃむにゃ……はっ! あれ? 夕陽? 何でステージの上で寝てるのよ! 早く戻ってきて! 玄雄にばれちゃう!」
「……もうばれてるよ」
玄雄が夕陽を担いでヒバリの目の前に姿を現す。
「いろいろ言いたいことはあるけど……まあ、いいや。ありがとな。お前たちのおかげで助かった」
「……うん」
「でもその格好はやめといた方がいいと思う」
「私もそう思う」
「何で!? あんたには私たちのこと気にしないでもらおうと……」
「余計気になるよ!」
「八田~? 何やってんだ?」
背後からとげとげしい声が聞こえる。恐る恐る振り向くと厚田達だった。
「ナンパか?」
「あっ! この子だよ、この前八田と一緒にいた女の子!」
「……クロだな。学校行事にまで連れて来るとは感心しない」
「違う、これはこいつらが勝手に……」
「勝手についてくるような仲ってことか?」
「誘導尋問だぁ!」
「そんなことより早く次回ろうぜ。中牟田、久島、行くぞ」
「俺は!?」
夕陽とヒバリはギャーギャー騒ぎながら立ち去る4人の背中を見送っていた。
「……楽しそう」
「ヒバリ、どこ回りたい?」
「え、いや、でも尾行が……」
「じゃあ、私一人で遊んでこよっと」
「待って、私も行くから!」
~舞台裏~
「新人、よく頑張ったな。俺も思い出させてもらったよ」
「いえ、そんな……」
「もっと自信持ちなよ。さっきの君、ヒーローの顔してたよ」
「無名俳優さん……」
「あの……あなたはもしかして“伝説のスーツアクター”さんではありませんか?」
「えっ!?あの伝説の伝説さんですか!?」
「顔が見える演技がしたくて、反対押し切って飛び出しちまったんですけどね。……やっぱりヒーローアトラクションの舞台は良い。新人君、俺は君を育ててみたいと思う」
「え!? 俺を……でも、ベテランさん……」
「行って来い。お前はもっとでかい舞台に羽ばたいていけるさ」
「……分かりました。今まで、お世話になりました!!」
この青年が、後に伝説の名を受け継ぐスーツアクターになることを、この時はまだ誰も知る由はなかった……………
登坂啓朝
鶏の遺伝子を持つバードロイド。ハバタキは「白昼夢」自分に注目している相手を眠らせる。玄雄はヒーロー役の人に塩対応されたせいでちょっと冷めていたので助かった。さすがヒーローだぜ!




