21話 仲間の痛み
今の俺で勝てないなら勝てる方法を思いつくまで時間を稼げばいいだけの話だ。捕まえてみろよ、ヒヨコども。
「それでいつまでもつかな」
「頑張るさ!」
羽根を飛ばしてチック達をけん制する。相変わらず痛みは感じてないみたいだな。だったら手数よりも威力を意識するべきか。多少は押し返せるはずだ!
「ピェエオ!? グェエピヨ!」
「うわ、パワフルだな……」
一瞬押し返せてもすぐにまた追いかけてくる。あ、やべ。
「ピッヤァオ!」
「ぐぉ……! いっけね、余所見してた」
背後から別のチックが体当たりしてくる。やっぱり五体も相手すんのはきついな。ふらついた隙にチック達が一斉に突っ込んでくる。急降下して回避するとチック達がお互いに頭をぶつける。助かった……でもこのままじゃ本当にジリ貧だな、どうするかな……
「……玄雄、何やってんのよ」
「ヒバリ!? お前帰ったはずじゃ……」
「あんた買い物帰りだったんでしょ? 代わりに荷物届けてきてあげたの。」
頭をかきながら気まずそうに答える。あ、そういえば……いや、そうじゃなくて、何で戻ってきたんだよ。
「ありがとう! でも先に帰ってろって言っただろ!」
「さっきから逃げてばっかりのクセに」
「違う、これは作戦の内だ! とにかく俺一人で十分なんだよ!」
「分かってる、あんたも痛いんだよね? ……でも、私にも助けさせてよ、仲間でしょ?」
「……ひょっとして聞いてた?」
「……割と前から」
俺が胸に秘めた仲間たちへの熱い思いをすべて聞かれていたとはな! これは恥ずかしい!
「もっと早く言えよ!」
「そいつらが一体何なのか知らないけど、あんたが、仲間が背負ってることなら、私も一緒に背負わせてよ」
「ヒバリ……」
俺、こいつのこと見くびってたのかもしれない。そうだな、それにこっちの俺も言ってた。周りを頼れるのが俺の強さだ。
「だったら一緒に背負ってもらおうじゃねえか。後悔すんなよ!」
「望むところよ」
今になって思うが、俺は何と最低な選択をしたのであろうか。だがその当時の俺は仲間と心を通わせあった高揚感でそんなことはすっかり忘れてしまっていた。
「さて、ヒバリ。さっそくだけどあいつらどうやって倒せばいいと思う?」
「任せときなって。……雲入道!」
ヒバリの羽根から巨人が現れる。デカい!
「あの巨人は……!」
「違うわよ、入道雲よ」
入道雲がチック達を大きな腕で捕まえる。あの大きさもそうだが雲の密度も前より上がっているようだ。すげえな、あいつ……!
「よし、これなら……んぐぁあああ!」
好機と見た俺は、チック達に近づこうと突っ込んだが、きりもみ回転をしながら雲を突き破ってきたのでもろに攻撃を食らってしまう。
「……やっぱりまだ密度に難ありか。」
「もうちょっと早く言ってほしかったな!」
「しょうがない、こっちで行くわ。羊雲!」
今度は羊の群れが出現する。あら可愛い。そんなんで大丈夫なのか?
「ピエエシパ! ピオ!?」
「めぇ~」
羊の群れが網目状になって連る。チックはすり抜けられずに羊さん達に体当たりを繰り返している。信じられない……羊さんがチックの動きを止めている。
「小さい分密度を大きくできるから」
「なるほど! よし、今度こそ……」
「あ、完全に動きを封じてるわけじゃないから……」
「問題ない!」
ヤタカガミに羊さん達を映す。鏡に映った羊さん達は増殖して、チック達の身動きを完全に封じ込めた。
「あんた、それ……」
「俺も、成長したってことだ!」
「グェエ、ピィ~!」
雲の隙間を潜り抜けてチックの懐に入り込み中翼を叩き壊した。
「……助かったぜ、ヒバリ」
「別に……あのまま死なれても寝覚め悪いし……」
相変わらず素直じゃないなあ。その方がこいつらしいけど。
……あれ、空飼はどこ行きやがった?
「やるねぇ、玄雄! いや、僕は運がいい!」
少し離れた電柱の上から空飼が声を掛けてくる。あの野郎あんなところに……!
「あの時君が死んでいたらみすみす“当たり”を一匹減らすところだった! 君が生きていてよかったよ!」
「どういう意味だ!」
「君に教える義理はない。あと一つ忠告だ。その力の多用は避けた方がいい。人間の姿に、二度と戻れなくなるぞ! じゃあ。」
「待て! うっ……」
飛び去っていく空飼いを追いかけようとするが、チックにやられた傷が痛んでうまく飛べない。……俺が“当たり”だと? どういう意味だ……いや、それよりもだ。
「玄雄、大丈夫?」
「ああ、クソっ……」
……人間の姿に戻れないってどういうことだよ?
俺の体に気を遣う必要はないってことだ。
あいつ、最初から全部わかってて……後で説教だな。
「お前、隠してることあるだろ」
『……何のことかな?』
「幻獣の翼のこと。ていうかさっき聞いた」
『……そうか。その力を使いすぎると一生鳥獣化したままだ。でも影響があるのは俺の体だけなんだ。だから、遠慮せずに使ってほしい。今は空飼を止めるのが一番重要だ』
「そんなこと言われても……」
『幻獣の力に目覚めたことを知られてしまった以上、あいつらも本気で来る。その力を使わなければ戦い抜けない。それに、意外と何とかなるかもしれないし……』
「そんなこと知っちゃったら無理だよ……」
『空飼を止めてくれないと君をその世界に連れてきた意味がない。……君をこっちの世界に帰ってこれないようにしてもいいんだぞ』
「それは困る!」
『だったら心置きなく使ってくれよ。君だけが望みなんだ』
「ずりいよ……それを条件に出されたら、俺……」
『……頼んだ』
……あいつはなんでここまで自分を犠牲にできるんだよ。そこまで言うならとことんまでやってやるよ。でも、この体はきれいなままでお前に帰す。それが俺の責任、義務だから。
「玄雄ー? ご飯冷めちゃうわよー?」
「はーい、すぐ行くー!」
「あんた、買い物ヒバリちゃんって子が届けてくれたけど、どうかしたの?」
「ああ、えーっと、途中で犬に襲われて、囮になる代わりに配送を頼んだんだよ。」
「ふーん」
食卓の上では、緑鮮やかなピーマン、細切れになった豚肉とタケノコが皿に盛られていた。……今日のおかずはチンジャオロースか。
「……母さん、知ってる? これ正式な発音、シンシャォロォスゥって言うんだぜ。」
「そうなの? 何それ?」
「……知り合いに、聞いたんだ」
兄貴がいる、元の世界に帰ること。そのためには鳳空飼を倒さないといけなくて、そのためにはヤタカガミの力が必要で、でもヤタカガミの力を使うとヤタガラスに近づいていって、そうなったらこの世界の八田玄雄は普通の人間としての生活はできなくなる……
二つの願いを天秤にかけた。どちらの皿も、傾いてはくれなかった。俺の認識も甘かったんだと思う。その証拠に、たった一つだけど、単純な解決策がすぐそこにあったのに気づいていなかったのだから。真剣に考えていなかったんだ、何とかなるって楽観視して……大きな力には、それ相応の代償が伴うものなのだ。
幻獣の翼の力を使いすぎると人間の姿に戻れなくなる。そうなったらもう鳥として暮らすしかない。クエ~ピヨ!




