20話 ヤタカガミに呑まれたら
「つまりお前はヤタカガミの力を使っていろんな世界を渡り歩いてた、ってことでいいんだよな?」
『ああ、そういうことだ』
スマホが直ったので現実世界の方の俺に久々に電話をかけてみる。こいつはこいつで結構心配してくれてたみたいだ。
「何でそういうこと最初にちゃんと教えといてくれないわけ?」
『言ってなかったかな……』
「言ってないよ! あんなすごい力あんならもっと早く教えておいてくれよ」
そう言った後ハッと気づく。あれほどの能力だ、俺が気付いていないデメリットがあるのではないか?だからこいつはあえて……
「まさか何かデメリットが?」
『使っててそういうのは感じたことないかな……』
「無いのかよ!」
『まあ、教えてたとしても使えるかどうかは君次第だし』
「俺、お前と連絡取れない間ずっと鏡に向かって呼び掛けてたんだぞ?」
『いや、気づかないよ……』
「まあ、おかげで気付けたこともあるし別に良いけどさ」
『そうか、なら良かった。……それは俺の体だから多少無茶してもらって全然かまわないからな』
「痛い思いするのは俺なんですけど?」
『ははは、それもそうだね。俺の体に気を遣わなくてもいい、ぐらいの認識でいてくれ』
「……? どういうことだ?」
「別に? そのままの意味だよ。じゃあ、そろそろ切るよ」
何か釈然としないけど……まあ、あいつが大丈夫っていうなら大丈夫なんだろ。時々説明不足だけど信用できる奴だ。……どうでもいいけどこれって自信に含まれるのだろうか?
「玄雄ー! ちょっと買い物行ってきてくれない?」
キッチンから母さんが呼び掛ける。本当は億劫だけど迷惑かけちゃった手前断るわけにもいかない。家を出て近所のスーパーに向かった。
「兄貴元気かな……」
向こうの世界に一人置き去りにした兄を一人思う。最後の会話どんなだったかな……。確かチンジャオロースの正式な発音がどうとか……だったっけ。……いやいや、最後じゃないもん! 全部終わったら元の世界に帰るんだから!
そんな感じで少しセンチメンタルな気分に浸っていると、これまたセンチに浸かってそうな奴が背中を丸めながら歩いていた。
「よう、ヒバリ」
「何だ、玄雄か……気安く話しかけてるけど私まだ許してないからね?」
「一発殴らせたんだからそれでチャラってことには……」
「ならない」
「そっか……まあ、俺もヒバリが俺の顔見たときの泣き出しそうな顔まだ覚えてるからね?」
「なっ……! すぐ忘れろ!」
「はっはっは。照れるな、このツンデレ不良娘め!」
「何なのそのあだ名!? 私別に不良じゃないし!」
「……つまりツンデレについては認めると?」
「認めてない! 本当に反省してるの!?」
「……うん。もう誰にも、何にも負けない。お前たちのこともちゃんと……」
言いかけた所で周囲に不穏な空気が流れ始める。ヒバリも勘付いたようだ。この感じ、バードロイドでもフライングトルーパーでもない。……あいつだ。
「クェエーーー! グェヒッ! ピギェーーーォ!」
耳障りな甲高い鳴き声が鳴り響く。チックだ、しかも5匹も。
「玄雄、行くよ」
「ああ。……」
いや、待て。チックの正体はバードロイドの遺伝子に拒絶反応を起こして理性を失った人間だ。しかも鳳雛の家で一緒に育った仲間の。倒すためには中翼を破壊するしかないが、チックにとってそれは死を意味する。ヒバリは仲間思いな奴だ、もしこいつがチックの正体を知ってしまったら……
「……俺一人でやる。お前は離れてろ」
「はあ!? あんたそれ、どういう意味!?」
ヒバリが怒りを隠しきれない様子で問いかけてくる。当然だ、でも理由を話すわけにはいかないんだ。
「この間あいつらが襲ってきたときだって二人でやっつけたじゃん! 何でそんなこと……」
「いいからどっか行ってろ! あいつらとお前を戦わせるわけにはいかないんだよ!」
「……そういうこと。結局私のこと信用してないんだ。分かったわよ、足手まといはさっさと帰るわよ。後で助けて、って言ってきても知らないんだから」
ヒバリが怒り心頭といった様子で飛び去っていく。……これでいいんだ。
「クロオ、女の子には優しくしないとダメじゃないか」
「空飼……また来たのか。社長ってのは案外暇なんだな」
空飼が電柱の上から見下ろしながら声を掛けてくる。
「部下が優秀だからね。チック、やれ」
五体のチックが一斉に襲い掛かってくる。でも正面からくるならこっちの思うつぼだ。
「真実を映せ、ヤタカガミ!」
幻獣の翼の力を発動してヤタカガミにチック達を映す。しかしチック達には何の影響も及んでいないように見える。
「クロオ、その力は鏡を使って幻覚を現実に映しているだけさ。でもチック達には幻覚を見られるほどの知性は残っていない。つまりその力は効かないんだよ」
チック達の攻撃をかわしながら空飼の話を何とか聞き取る。昨日の今日でもう対策してくるのかよ! だったら“灼けつく夕闇”で……
「何!? どうなってんだ……」
「“普通の”カラスの姿になれなくて困惑してるってとこかな?」
見透かされてる……
「その姿になった時点で普通のカラスとして戦うことはできなくなってるのさ。幻獣の翼の力が、その圧倒的な強さが、君の体に染み込んでいるからね。もう今更戻れないだろ?君もその力に魅入られ始めてるんじゃないか?」
「ふざけんな! そんなこと……」
この力があれば、もう誰にも負けない。
「違う! お前を止めるためにこの力が必要なだけだ!」
「どうかな? 変なことじゃないさ。子供がそんな力を手に入れたらはしゃいじゃって当然だよ」
そんなわけないだろ、ふざけんなこの野郎。チックが上下左右から突っ込んでくる。ヤバ……
「死んだか? 一応確認しておくか」
「……俺は力に呑まれたりなんかしない」
チックを翼で押し返しながら脱出する。
「……へえ」
「俺は一人じゃない。仲間たちが支えてくれてる。だから……」
「その仲間、さっき自分から遠ざけてたよね?」
「そうだ。仲間だから、助けるし助けてもらうんだ。今は俺が助ける番ってことだ」
「あっそ。助けられるといいね」
ヤタカガミの力が通用しないならどうするか……答えは一つだ。対策思いつくまで逃げ続ける!
「……偉そうなこと言った割には逃げるのか」
「違う、時間稼ぎだ!」
「……一緒だろ」
さあ、鬼ごっこの始まりだ! 捕まえて見ろよ、ヒヨコども!




