19話 真実を映せ
「やっぱあんたムカつく」
夕陽は首を絞め落とされその場に崩れ落ちる。と思われたがその時黒い影が夕陽を支える。葵の瞳がらんらんと輝く。
「間に合った……」
「玄雄……やっと会えたぁ……」
「夕陽をこんな目に合わせたのはお前か?」
「無視しないでよぉ……泣かせたくなっちゃうじゃん」
「……お前、葵か」
カラステングのバードロイド……いや、烏天狗って空想上の生き物では?
「嬉しいぃ……私のこと分かるんだぁ……夕陽ったら私を天狗呼ばわりしたのよ?」
「うん、それは……そう見えるけど」
「うふふっ、だよねぇ。ねえ、玄雄。私のものにならない?」
「えっ……いやだよ、お前なんか怖いし……」
「あぁん、ひどぉい。女の子にそんなこと言っちゃうんだぁ」
「夕陽をこんな目合わせておいて、今更そんなの関係あるか」
「そういうこと。やっぱその子ムカつくわぁ」
葵が爪を立てて飛びかかってくる。右翼の風切りで受け止める。
「受け止めてくれたぁ……」
「何だこいつ……」
右翼の羽根で“灼けつく夕闇”を発動させてそのまま焼き尽くそうと試みる。
「ん……それはダメぇ……」
な……焔が消えていく……空気がなくなってる! ここから離れないと。
「気を付けてね。あなたには銃口が……」
「それならもう倒した!」
「もう! 流石ぁ!」
うわ……やっぱ怖え……羽根を飛ばして攻撃するが空中で動きを止められてそのままはね返される。
「そんなのアリかよ! ……ぐっ、体が……! 」
体が動かなくなる。何が起こった……?
「いい眺めね。これであなたは私の物……私の黒で染め上げてあげる。」
「……お前の黒じゃ俺は染められねえよ。深みが全然足りねえ」
「強がっちゃってぇ」
悪いけど強がりじゃないんだよ。皆にちゃんと謝るまでは、空飼に苦しめられてる人たちを救うまでは、
元の世界の家族に会うまでは、やられるわけにいかないんだ。
“ヤタカガミ”、映し出せ。俺の真実の姿を。
鍋の焦げが剝がれるように黒色の中翼が銀色に輝き始め、三本目の足が生えてくる。これが、俺の本当の姿“幻獣の翼・八咫烏”。
「玄雄? その姿……あはっ、あなたも私と同じなんだぁ」
「いいからさっさとかかって来い」
「身動き取れない状態ですごまれてもぉ……可愛いんだからぁ」
葵が正面から突っ込んでくる。胸の鏡に葵の姿が映る。
「……もう決着はついた」
「え? 何が? ……嘘……何で、私の体が……」
葵の体から焔が立ち上って中翼を焼き尽くしている。これが“ヤタカガミ”の力。この鏡に映った姿は、鏡像でもあり実像でもある。まあ、要するに、あれだ、
「この鏡に映った時点で、お前の負けだったんだよ」
「そっかぁ……もう、大好き」
はいはい、そりゃどうも。俺はちょっと苦手だよ。
「このお嬢さん、大口叩いた割にはあっさりやられちゃったな」
「……! 羽地さん!」
「君と戦うつもりじゃない。この子を回収しに来ただけだから」
「みすみす逃がしてたまるか」
「おっと、その力を使うのはお薦めしない。それよりその子放っておいていいのかな?」
「そうだ、夕陽……あ、しまった!」
一瞬の隙を突かれて逃げられてしまった。あの人には敵わないな……それより夕陽だ。
「夕陽、夕陽!」
「ん……あ……大丈夫……えっ……玄雄!!」
夕陽が目を覚ました。驚いた顔をしている、そりゃそうだよな。随分心配かけちゃっただろうし……え、痛い。両頬を思いっきりつねられている。
「痛い! 痛いって!」
「何で連絡の一つもしてくれないの。みんなすごく心配してたよ?」
「……スマホ壊れてた」
「……バカ。ほら、行くよ。皆に元気な顔見せてあげないと」
夕陽がよろめきながら立ち上がる。心なしか夕陽の目が潤んで見えた。
「おい、大丈夫か?」
「自分の心配した方がいいよ。玄雄が帰ってきたら皆で思いっきり怒鳴ってやろう、って決めてるから」
「……そりゃ怖いな」
「嘘、顔が笑ってる」
「笑ってないって」
「玄雄」
「ん?」
「……おかえり」
「……ただいま」
夕陽と肩を組んで歩きだす。その後の皆の剣幕が凄くて笑っている余裕はすぐになくなった。
「あっそう。玄雄が」
羽地の報告を受けると空飼が興味なさそうにつぶやいた。
「……もう、どうでもいいのですか?」
「うーん、何で怒ってたのかもう忘れちゃったし」
「はあ……そうですか。」
「アオイが負けるとはね。相性いいと思ったんだけどな」
「ええ、それが“幻獣の翼”の力を使ったようでして……」
「……へぇ。でもそうなると厄介だね。僕が直接出なきゃいけなくなるのは困る」
「一応釘は刺しておきましたが……彼がそんなことを気にするようには……」
「だったらもう全部話しちゃえばいいんじゃない?嘘吐くわけじゃないし大丈夫でしょ」
「……あなたも人が悪い」
「これは忠告だよ。むしろ感謝してほしいぐらい」
空飼は冷たい目をして言い放った。
予想以上の剣幕だった……ヒバリには思いっきりぶん殴られたし……皆それだけ心配してくれてたんだな、こっちの俺も幸せ者だな。早く帰って父さんと母さんにも謝らないとな。自分の家だけどちょっと緊張しちゃうな。
「ただいま」
「玄雄! どこ行ってたの、もう! 心配したんだから……」
母さんが泣きながら抱き着いてくる。父さんも険しい顔をしているが安心を隠しきれていない。別の世界でも、血が繋がって無くても、やっぱり家族なんだな。それだけにここにいない家族の存在が色濃く浮かび上がってくる。
「ごめん、父さん、母さん、……。勝手なことだって分かってる、でも、理由は聞かないでほしい」
「……仕方ない。でもこんなことはもうするなよ」
「……うん」
大丈夫、俺はもう誰にも負けない。この力があれば、きっと。
幻獣の翼・八咫烏。玄雄のバードロイドとしての真の姿。足が三本あり、中翼が”ヤタカガミ”という鏡になっている。ヤタカガミに映るものは鏡像にして実像、虚像にして真実。正も逆も思うがまま。




