16話 どうせスマホが壊れてる
「そうですか……家にも帰ってないんですか……ありがとうございます、失礼します」
玄雄と連絡が取れなくなってから2週間が経過した。仲間たちは彼の身を案じて、ヒバリのアパートに集まって答えの出ない集まりを繰り返していた。
「あいつ何やってんのよ……電話も出ないで……もう!」
ヒバリが部屋のごみ箱を殴りつけて痛そうに拳をさすっている。
「ひ、ヒバリさん、落ち着いて下さい」
「落ち着いてるわよ! もう、どうして……」
涼音がヒバリをなだめる。銀子はヒバリのポニーテールを意味もなく揺さぶっている。
「ねえ、どうする? どうすればいい?」
「分かんないですよ……夕陽も黙ってないで何とか言ってよ」
「放っておけばいいんじゃない? みんな、今日のところは解散しよう」
夕陽が明るく言い放った。
「ちょっと……あんた何言ってんの?」
「そうですよ、放っておけばなんて……」
「大丈夫だよ、そんな簡単に死ぬ奴じゃないから。そのうち『ごめんスマホ壊れてた』とか言ってひょっこり帰ってくるって。ほら、解散、解散」
夕陽が立ち上がって涼音と銀子の背中を叩く。
「じゃあ、私たち帰るから。いつもありがとね」
「ええ、ちょっと……夕陽さん……」
渋る涼音と銀子を無理やり押し出してヒバリのアパートを後にする。
「本当に放っておいていいの?」
「連絡つかないんだからしょうがないじゃないですか。信じましょう」
「でもヒバリさんも心配です……ヒバリさん仲間思いだから……」
「そうだね……あっ、携帯忘れてきちゃった。先行ってて」
二人を先に行かせて、来た道を引き返す。二人が見えなくなったのを確認すると携帯を取り出して自宅に電話を掛けた。
「もしもし、お母さん? うん、今日友達の家泊まるから。うん。明日の朝帰るから。うん」
母に連絡を入れてヒバリのアパートに戻る。
「あれ、夕陽。何か忘れもの?」
「今日家に誰もいないんだった。泊めてもらってもいい?」
「え、うん。別にいいけど……」
「ありがと。晩御飯買いに行こう」
「あ、うん……」
近所のスーパーで適当に食材を買って夕飯をこしらえる。
「おいしいね。さすがヒバリ」
「まあ、一人暮らしも長いし……ねえ、」
「心配かけたくないとか思ってるんなら無駄だよ。皆既に心配してるから」
「えっ、嘘……何よ、悪い?」
「ううん。ヒバリは優しいから、ちょっと素直じゃないけどね」
夕陽が悪戯っぽい笑みを浮かべる。ヒバリは頬を膨らせる。
「もう……でも玄雄を心配してるの私だけじゃないのに、私まで心配かけるわけには……」
「そんなの気にしなくていいのに。元はといえば玄雄が勝手にいなくなったのが悪いんだから、堂々と不安がってればいいのよ」
「そうかな……ねえ、夕陽はさ……」
言いかけた所でインターホンが鳴った。
「ごめん、見てくる」
「うん」
玄関を開けると意外な人物が立っていた。
「あんた……隼人?」
「お前、最近玄雄見てないか?」
夕陽も箸を置いて飛び出してくる。
「何しに来たの?」
「お前らに用はない。玄雄知らないか、って聞いてんだよ」
「知ってても教えないわよ」
「……知らないのか、あいつも薄情な奴だな。邪魔したな」
「ちょっと、玄雄をどうするつもり?」
「探し出して倒す。それだけだ。……生きていればの話だがな」
「生きていれば」その言葉にヒバリの瞳が揺れる。
「……どういう意味」
「本当に何も知らないのか。あいつは、空飼と戦って負けたんだよ」
ヒバリが膝から崩れ落ちた。夕陽が隼人をにらみつける。
「……薄っぺらいな。あいつがそう簡単に死ぬかよ」
「あなた本当に……デリカシーってものが……」
「俺達は敵同士のはずだろ、そんなもん最初からあるかよ」
隼人はそう吐き捨てて立ち去っていった。それからヒバリの顔はずっと曇っていた。
「ヒバリ、そろそろ寝よう」
「あ……うん、そだね……」
「どしたの?」
「夕陽はさ、不安じゃないの?」
ヒバリが不安そうに尋ねる。夕陽は少し考えた後、微笑みながら口を開いた。
「正直すごく不安。本当勝手だよね、黙っていなくなった上に連絡もよこさないなんて」
「じゃあ、何でそんな顔してられるの?」
「私が不安なのはね、あいつが何考えてるのか分からないからなの。最近ちょっと仲間のこと頼るようになると思ったらこれだもん」
夕陽が口をとがらせる。ヒバリは真顔で見つめている。
「でもあいつは私たちのこと裏切ったりしないでしょ? だから何も言わずに死んじゃってるなんてこと、絶対ないから。だから帰ってきたら思いっきり怒鳴りつけてやろうね」
「……ふふっ、あんたが怒鳴ってるところ想像できないって」
「え、そう? ……でもやっと笑った」
「あっ……うん、ありがとね」
「いいよ、これで眠れそう?」
「うーん……まだちょっと不安かも……」
「しょうがないわね。眠れるまで手握っててあげる」
「い、いいって! 子どもじゃないんだから!」
「……素直じゃないんだからぁ。」
「そういうんじゃないから! あ、ちょっと……離して!」
……そのあと結局朝まで手を繋いで眠った。
「どこにいる、玄雄……生きてんだろ?」
隼人は夜通しあちこち飛び回っていたがそれでも玄雄を見つけることはかなわなかった。もう探せる場所は残っていなかった。
「……あそこにだけは戻りたくなかったが」
隼人は向かってみることにした、無意識に避けていたあの場所へ。




