15話 これぞ愛の力!
鏡の声を聞け、か。なあ、あの時みたいに語り掛けて来いよ。どうすればいいんだよ。いつもみたいに相談乗ってくれよ。
「おい、玄雄。まさか今日1日中そうやって鏡とにらめっこしてたのか?」
「あ、巌さん……全然だめです……」
「おぉ、そっか……え? うん、うん。お前飯も食ってねえのかよ」
「あぁ、そういえば忘れてた……」
「せっかく彩が作った飯冷めきってんじゃねえか……匂いで気付け、匂いで」
「あっ……彩さん、すみません……わざわざ作ってくれたのに……」
「うん、うん。私のことはいいから自分の体を大事にして、だってさ」
二人にまで気を使わせて申し訳ないな……俺がもっとしっかりしないと……
「よし、明日の朝散歩でも行くか」
「え? 散歩?」
朝から公園に連れていかれた。広場でハトが歩き回っている。
「あの……何でこんなところ……」
「のどかだろ? リフレッシュだよ、リフレッシュ。ほれ、鳩の餌」
「はあ……どうも……」
「頑張るばっかりじゃなくて、こうやって心を落ち着けるのも大事なんだよ。ほら、彩を見てみろ」
彩さんもさっきから一心に餌を撒いている。……俺もやってみるか。餌を撒くと足元に鳩が集まってくる。こうしてみると案外楽しいな。
「巌さん、これ以外と楽し……」
巌さんが足元の鳩の一匹をいきなり踏みつけ、首を掴む。
「いや、ちょ……ええ!? 何やってんですか!? やめて! 鳩さんが可哀想……」
「てめえ、束の間の休息を邪魔すんなよ」
巌さんが捕まえた鳩に向かって語り掛ける。じゃあこいつひょっとして……
「気づきましたか。さすが巌君です。しかしここでは人目につくのでは?」
「ちっ……場所を変えるぞ」
せっかくちょっと楽しくなってきたのに……結局こうなるのか。
「巌君、そろそろ手を離してもらえませんか?」
「お前の目的は何だ?」
「忠告のつもりだったんですがね……」
「忠告? どういうこと……うん、まあいいんじゃねえか? 穏便に済まそうぜ」
巌さんが鳩から手を離し穏やかな笑顔を見せる。何がどうなってんだ?
「ふぅ、やっと離してくれましたか。乱暴な人です」
「ぐおっ……!」
巌さんに鳩の羽根が突き刺さる。しかし巌さんは立ちすくんだまま動かない。何で反撃しないんだよ……!
「巌さん!」
「ああ、いいんだ。争いなんて愚かだ。みんなで仲良くすればいいんだよ」
はあ? 何言ってんだよ相手はこっちに危害加える気満々だろ!
「彼がそう言ってくれるなら好都合ですね。今の内に倒してしまいましょうか」
「させるか!」
鳩と巌さんの間に体を滑り込ませる。
「君も彼の仲間ですか。私は争いは好みません」
「巌さんに攻撃しておいて何言ってんだ!」
「ええ、争いは嫌いです。しかし平和ボケの愚か者を一方的に蹂躙するのは大好きです!」
「やっぱりお前が巌さんに何かしたんだな!」
「身をもって、教えてあげましょう」
胸に羽根を張り付けられる。……! 何だこれ、ヤバい……戦意が、消えていく……これがこいつのハバタキか……彩さんがまだそこにいるのに……マズい、って……
「さてと……最後は君か。今の君にはこの力を使うまでもありませんね」
鳩が翼を広げる。戦わないと……助けないといけないのに……戦う気になれない……クソっ、動け、俺の体……
「これで一人減りましたね……」
彩さんに向かって羽根の集中砲火が浴びせられる。
「それでは巌君と彼を……ん?」
鳩の放った羽根は全て、彩さんではなく割って入った巌さんの背中に突き刺さっていた。
「なぜです? 君は戦意を喪失しているはず……」
「戦ってねえ……守っただけだ」
すっげぇ……無茶苦茶だよ、巌さん!
「ん? 何だ? ……気にすんな。俺が盾になるから、お前は安心して攻め……え、ちょ、なにやってん……」
彩さんが巌さんの顔に何か書いている。本当に何やってんだろう……
「なんか……無性に戦いたくなってきた……これは愛の力か!?」
巌さんの顔に「頑張って」と書いてある。彩さんのハバタキであいつの力を上書きしたのか。まあ、本人が嬉しそうだし、愛の力ってことでいいか! うん!
「上書きですか……ならばもう一度!」
「それはもう食らわねえ!」
巌さんの羽根から放たれた電撃が鳩の羽根を叩き落とす。あれが巌さんのハバタキ!
「さっきのお返しだ!」
「しまった!」
巌さんの電撃が鳩に直撃する。
「ぐ……こうなったらあの女を……」
あいつまた彩さんを狙うつもりか! こうなったら見様見真似で……戦わない戦わない守るだけ守るだけ……
「いよっし! 動けたぁ!」
「痺れたぜ、玄雄! そっちは任せた!」
「なぜ君まで……おのれぇ!」
巌さんの羽根が鳩を取り囲み一斉に電撃を浴びせる。
「ぐはっ……油断していたのは、私の方でしたか……」
「俺達の勝ちだな!」
巌さんが勝ち誇る。彩さんも巌さんを見つめながら微笑んでいる。
「よし、玄雄。今日のところは帰るか。悪いな無理に連れ出したばっかりに」
「いや、俺もうちょっと公園でのんびりしていきます」
「え? そうか、じゃあ俺達も付き合うよ」
「いえ、いいです。“自分”を見つめなおす時間にしたいんで」
「……? まあ、いいか。夕飯までには帰って来いよ」
さっきの敵は強敵だった、戦意を喪失……恐ろしい力だった。でもそれを体験して少し考えが変わった気がする。空飼を倒そうと躍起になりすぎていたんだ。一番大事なのは戦うことじゃない。あいつのやっていることは許せない、許せないけど……
「あなた達なら彼を救えると思ったの」
「私は息子の心ひとつ救えなかった……」
あいつの心を救わなきゃ意味ないんだ。それなら怒りに身を任せてちゃだめだ。明鏡止水、相手の本質を見極めて心の鏡に映し出す。“鏡の声を聞け”ってそういうことだろ?
「……よし、これならいける」
気の持ちようは完全に理解した、あとは経験だ。よっしゃ、やってやるぜ! 待ってろよ!
來野巌
ライチョウの遺伝子を持つバードロイド。ハバタキは「頂の雷鳴」羽根から電撃を放つ。
文月彩
ブンチョウの遺伝子を持つバードロイド。ハバタキは「彩る文筆」書いたり話したりした言葉を現実にする。
葉渡しるし
鳩の遺伝子を持つバードロイド。ハバタキは「ピースサイン」羽根を張り付けた相手の戦意を喪失させる。一度も人間の姿を見せていないがために最後まで名前を呼ばれることはなかった。こんな時ヒバリがいてくれたら…




