別れは朝焼けとともに
あれから奏楽は少年とうまく話せないままだった。
だが、あの問いかけを口にしないままほんの数分時間を置くと
次第に少年は何事もなかったかのように初めのころと変わらない
はしゃぐような笑顔を見せ始めた。
しかし、以前のはしゃぎとは少し違ってあの一瞬に見せた哀し
そうな寂しさはまだその瞳に残っているような気がした。
『さて…と そろそろかな…』
「え…?」
黙り込んだままずっと隣り合っていた奏楽と空だったが、なに
かを察した様に突然、彼は奏楽の隣を立った。
『奏楽 どうしても…、伝えておきたいことがあるんだ』
「え?」
哀しそうだけど、何処か真っ直ぐで。
真剣な目はなんだかくすぐたっくて視線を逸らしたかったが、何
かを伝えようとしている空にそんなことをしてはいけない気が
して。
奏楽も、まっすぐに空を見つめ返した。
決意を固めるようにひとつ、大きな深呼吸をして
空はゆっくり語り始めた。
『ここは…奏楽のたった一夜の夢にすぎないんだ』
「………」
意味など、理解はしていなかった。
奏楽はただ、懸命に続きを綴ろうとする空の言葉を待った。
『奏楽…さ、オレがもしこの姿が本物じゃないって言ったら…
ほんとのオレ、なんだと思う…?』
人間である 空 の姿は、本当の姿じゃない。
跳ねるような黒髪も、はしゃぐように笑って見せた顔も
本物じゃないとして…
自分に似た寂しそうな声。
ひとりは ひとつぼっちは嫌だと泣いていた声は…
まるでーーー…
「…………”そら”、かなぁ」
陽射しの差し込む空を見上げて、ふと浮かんだ答えが口をつく。
その問いの答えだけはなぜか手に取るように迷わず答えた。
『な、なんで………』
奏楽の答えが予想外だったのか、空は驚きを隠せないといった様子で――……………いや、違った。
驚いたというより、泣き出しそうな顔に近かった。
そしてそれは、悲しいという感情からの涙ではない気がした。
「分からない。分からないけど、解る気がするんだよ…似ている気がするから」
『似てるって……同じなのは名前だけなのに?』
「そうじゃないよ」
涙目できょとんとして首をかしげる空は、なんだか少し可笑しく思えて、奏楽はくすりと苦笑いをした。
「 僕らは、独りが怖いことを誰より知ってる。
そして独りじゃないことのしあわせを誰より解ったじゃないか」
『あ……』
自然な声をこぼす、空。
その姿がぼやけ始め、突然、視界がぐらつきだす。
景色がゆがむように霞んで揺れるような感覚になる。
朝の訪れ。
夢は ……覚める。
―――…サヨナラも、交わせないままで。




