夢
それから少年の姿を手に入れた空は、少年に逢いに行った。
初めて、自分とは違うものと言葉を交わした。
初めて、『手』という身体の一部が触れ合った。
初めて、同じ名という偶然に出逢った。
どれも天から眺めていたんじゃ知れないことばかりだった。
でも、このときが長く続かないことは知っている。
願ったって… 祈ったって… 嫌がったって…
この時間は この一夜だけ。
『奏楽…ここにくるの……初めて…?』
ふと、想いは声になって唇を滑り落ちた。
「え? あ、ああ…。そういえば、ここはいったいどこなんだ?」
不意の質問に少し戸惑ったように見せながらも、少年は首をかしげて見せた。
ただの夢だよ。 気にすることないよ。
そういえたなら、楽なのに…。
空はそれを戸惑った。
夢だと知って 目覚めたらきっと覚えていてくれない。
覚えていても それは所詮、奏楽にとっては
幾度となく繰り返す 眠りのなかに出逢う
咲いては散ってゆく花のように過ぎるだけの 儚い一時のこと。
「空…?」
問いかけたきり、一向に返事をよこさない空を覗きこもうと少年
はひょいと顔を下にかがめる。
なにか言葉を返そうにも、そんな思いだけがとめどなく溢れてどうにも止まらなかった。
この姿に 慣れていないからだろうか。
もう何年もこの天から人間を仰ぎ見た空には、上手な笑顔の繕い方も知っているというのに、うまく表情を作れなかった。
ここがただの一夜限り”夢”だということも…
空のほんとうの姿も…
何も知らないまま 少年の夢はこのまま覚める。
もうすぐ この夢は覚める。
夜明けは すぐそこに――…。




