第67話 セリナの出場理由
「……さん…………さん」
(……うるさい)
「……ナ……ってば」
先ほどから何か聞こえる気がする。だが関係ない。私は今眠たいのだ。
「…………」
ようやく静かになった。これで心置きなく……
「起きてください! セリナさんッ!」
「…………ん」
眼を開けると、そこには大層変な顔をしたアリアがいた。
「いい加減起きてくださいまし! セリナさんが出る番ですわよ!」
私の番……ってなんだっけ?
首を傾げる私を見て考えていることを察したのか、アリアは頬を引き攣らせつつ怒鳴り声を上げた。
「闘技大会の! セリナさんの戦う番! ですわよ! こんなところで寝るなんて、どういう神経してますのっ!?」
……ああ、思い出した。イロハが出て行った後、私の番まで暇過ぎて寝ていたんだった。
こんな何もないところで数十分も待たされれば当然の帰結でしょうに。アリアは何を怒っているのだろうか。
それで、なんだっけ……?
「……ああ、私の番?」
「先ほどからそう言ってますでしょう!? もう他の参加者は出て行きましたわ。あなたも速く行きなさいな」
ふむ。危うく寝坊で遅刻するところだったようだ。アリアには一応感謝しておこう。
「……あざっーす」
「……なんですの? それ」
「……知らん。イロハが言ってた。多分お礼的な意味」
「お礼を多分の付く言葉でするのは失礼でなくて!?」
ぎゃーぎゃーと怒鳴り散らすアリアをさらっと無視して欠伸を噛み殺す。さて、いい加減行かないと。流石にこんなことで失格になるのは本意じゃない。
「……それじゃ、行ってくる」
「はぁもう……健闘を祈っておりますわ」
アリアにひらひらと手を振り、控室を後にする。
そこから繋がっている通路を進めば、広けた場所に出た。
「……広場から見るとこんな景色なんだ」
以前、闘技大会は見たことがある。けどそれは観戦者の立場だった。出場者としては今回が初めてである。
そして、今回出場したのは単にイロハのついでという訳ではない。
(……人並み以上とは自負してるけど、私の力が実際どれほど通用するのか。……まぁとりあえず、本選出場は余裕でしょ)
声に出すと怒られそうなこと内心で考える。それはさておいても、自分の力量を量りたいと思うのは本当だ。
正直、今まではそういうのにあまり興味はなかった。どうせ自分は1人で、勝てる相手なら勝てるし、勝てない相手なら私が死ぬだけ。ただ、それだけだった。
けれど、今は1人じゃない。共に戦うイロハがいるし、守るべき対象にミシェルもいる。つい最近、アリアとかいうのも増えた。
もう繋がってしまったのだ。私1人じゃない。だからこそ己の実力を知りたいと思える。どれだけ、イロハ達を支えられるのかと。
(……イロハと一緒にいると、いつ何が起きるかわからないし……)
イロハの周りには常に騒動が付きまとっている。むしろ、引き寄せている。そんな問題児と一緒に居続けるには自分の実力を知って、もっと強くならないといけない。
それを果たすには、闘技大会はうってつけだ。
私の戦う意味を再認した後、周囲を見渡す。
やっぱりというか、どうやら広い空間での乱戦らしい。前回と同じ形式だ。最初の場所取りが大事であるのだけれど、生憎よさそうな場所は軒並み獲られている。
……アリアがもっと早く起こしてくれないから。
『じゃあもっと早く起きてくださいましっ!!』
脳内のアリアがなんか文句垂れたけど無視だ。
「……まあ、ここでいいか」
選んだのは何の変哲もない壁際の平野エリア。特に優位性のある場所ではないが、不利になる場所でもない。
(……ここで、まずは様子を見ながら適当に焼き払おう)
やや物騒なことを考えながら司会の進行を待つ。
それからすぐ、私が場所を決めたことを察したのか司会が声を響かせた。
『さて、予選第6戦目! 全ての選手が出そろいました! 幼い少女の参加者もこれで2人目! 1人目の様に我々の度肝を抜いてくれるのか、期待させていただきましょう!』
(……誰のことかすぐ分かる)
控室から試合は見えないが、司会の声は聞こえていた。1戦目の時にやたらと少女剣士がどうこうと言っていたのを思い出し、苦笑する。どうやらイロハは既に目立ちまくったようだ。
まぁそれは当初の目的通りではあるし、解かっていたことだ。けどしかし……
(……めんどくさい視線を感じる)
見られている。どこぞの達人ではない私には、それがどこからの視線かは解からない。けれどなんかこう、イラッとする視線だ。
(……作戦変更。さっさと焼き払おう)
そう決め、試合開始の合図を待つ。
参加者全員が既に準備出来ていることを認めた司会は、一息に捲し立てた。
『それでは、予選第6回戦…………開始ッ!!』
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