第68話 定石外し
「それでは、予選第6回戦…………開始ッ!!」
「炎の華よ、咲き踊れ。バーニングルーカス」
私は開幕と同時に幾多の炎の華を生み出す。
こういったお互いの距離が空いた乱戦で真っ先に行動に出るのは、当然、遠距離攻撃を操る魔術師達だ。
そして彼らが最初に狙うのは剣士達、前衛組だ。理由は単純、彼らと直接相対するのは魔術師には分が悪いから。
だからまず剣士を減らし、その後で残った魔術師達との遠距離合戦に臨む。剣士達はそれを防ぎ、回避しつつ魔術師を狙う。
それが乱戦の定石である。誰とは言わないが、一部の強大な力を持つ人間が紛れ込んだ場合はまた違った展開になるだろうけど。誰とは言わないが。
さておき、今回もその流れに逆らわず、魔術師達は己が狙った獲物に初撃を叩き込む。約1人を除いて。
「――ぐあああっ!?」
「「なっ!?」」
会場中から困惑の声が聞こえる。当然だ。何せ私が定石を外して魔術師を狙ったのだから。それも、私の他の全ての魔術師達を。
私が放った火球は会場の端から端まで飛翔し、開始直後は安全と思いこんで油断していた魔術師達を残さず呑み込んだ。
この射程も、制御も、イロハから受けたあの特訓によるもの。正直、以前の私には到底無理な芸当だったろう。
「あっづぁああっ! こ、降参! 降参だああっ!!」
火だるまになりつつ降参を告げた魔術師達の元に係員が駆けつけ、水魔法と治癒魔法を掛ける。不要な死者を出さない為にこうした救護要員は常に控えている。
一番近場にいた魔術師は治癒魔法を掛けて貰って何とか意識を保ちながら、こちらを睨みつけていた。
“何故”。そう言っているのは聞くまでも無く、見るまでも無い。
「……一気に数を減らす良い機会だったからに決まってる」
その呟きが聞こえたのか聞こえなかったのかは知らないが、その魔術師は救護員に運ばれて闘技場から退場していった。
本人には納得のいかない終わりだったかもしれないが、自業自得だ。定石に甘えて警戒を怠るからそうなる。
さておき、勝負かこれからだ。屠った魔術師は8人。18人で始まったこの乱戦は残り10人で、私以外は剣士を初めとした前衛職。
接近されたら終わりの魔術師としては崖っぷちであり、絶望的な状況と言える。この状況を避ける為の定石を私がぶち破ったのだから当然だ。
前衛組はまだ困惑から抜け出していない。私を狙っていいのかどうか、判断に困っているのだろう。
「……阿呆らしい」
今私を狙わずにいつ狙うのか。来ないと言うのなら一方的にやらせてもらうだけだ。
「……もう一発。炎の華よ、咲き踊れ。バーニングルーカス」
再び生まれる火球。きっかり人数分、9個セット。
杖を振るえばそれらが再び空を駆ける。狙いは寸分違わず、全ての参加者達に迫った。
「ぎゃああああっ!」
どんくさい数人にそれは命中し、敵の数を3人減らす。だが当然、中には対処して見せる者もいる。
ある者は見事な見切りで火球を回避し、ある者は盾で防ぎ、またある者は鎧に守られて事無きを得た。
この魔法は扱い易い代わりに威力が落ちるのが難点だ。正直、防ぐことはそう難しくないだろう。
1つだけなら。
「……次。炎の華よ、咲き踊れ。バーニングルーカス」
三度、咲き踊る炎の華。その数は先ほどの倍。
敵の数は減ったというのに、むしろ数を増やす火球の群に、相対する戦士達は揃って頬を引き攣らせた。
「……大サービス。1人3個入りのお得セット」
そんなことを呟きながら火球を撃ち放つ。しめて18の火球は、3つずつ綺麗に別れながら敵を狙い撃つ。
3つの火球を捌き切れず燃やされる剣士。咄嗟の対処が出来ずにただの的になった武術家。鎧ごと炎に包まれた鎧騎士。
これでさらに3人の敵が退場となった。しかし……
「やってくれたな嬢ちゃんっ!」
3つの火球を蹴散らし、或いは回避して、ついに私の至近にまで迫った3人の戦士達。ここからが正念場。あれらを掻い潜った彼らは本物だ。
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