第65話 胸を張ろう
『しょ、少女剣士が魔法を弾き飛ばしましたッ! 信じられません! 彼女の身体はいったい何で出来ているのでしょうか!?』
一応今は普通の人間だよっ! 別に体は剣で出来ている訳でも、ゴム人間でもないっての!
失礼な実況に内心で文句を吐きつつ、再び闘技場を駆ける。とは言ってももう魔術師さんのいる岩場は目と鼻の先だ。
「くっ! 颯よ駆けろ! ビットブルーム!」
再び風の弾丸が飛来するが、それを一瞬で斬り払う。
そして、岩場に足を掛けた。
相手の魔術師さんからしたら懐に入られたようなものだ。後はこれを駆け上がるだけ。
(どうでもいいけどよくこんな場所にこんなに岩持って来たよね。林も作ったりして、無駄に手間かけてるなぁ)
などと本当にどうでもいいことを考えながら岩場を登っていく。
荷台に乗せてようやく運べるような岩を集めたであろうそれは10メートル近くの高さまで積まれている。ここまで持って来るのも積み上げるのも相当な苦労だったろう。
ただ無理矢理積まれているせいか、岩自体が割と不安定だ。下手したら岩ごと転がり落ちかねない。
「ったくもう、登り難いったらありゃしない……っと!」
言ってる間に岩場の頂上に到着した。さて、獲物は……
「…………あれ?」
誰もいなかった。
確かに、岩場を登ってる最中に上から何の妨害も無いのは疑問だったが、こうもあっさりと逃げの一手をとるとは思っていなかった。
どこに逃げたのかと周囲を見渡すと、すぐ下から呪文が耳に届いた。
「逆巻く炎よ怒轟の叫びを響かせろ! バーニングストライク!」
声のする方に視線を向ければそこには炎を携える魔術師さん。同時に、それは放たれた。
――ドオオォン!
「うわわっ!?」
放たれた火球は私……ではなく、足元の岩に命中し、炸裂する。軌道が私から外れていた為に反応が遅れてしまった。
威力はさほどだが、それでも爆発性の火球だ。岩そのものは崩せずとも、そのバランスを崩すには十分だった。
今にも崩れ落ちそうな岩の上で、必然的に私自身のバランスも崩れる。
(しまったっ! この場所に陣取っていたのはそれが狙い……!)
ただ高いところに位置取って遠距離砲台になるのが目的かと思っていたらそれだけではなかったらしい。
なるほど確かに、こんな場所で足場を崩されたら対処は難しい。ただでさえ10メートル積み上げられた不安定な岩の上だ。不用意に飛び降りようものなら余計に危険だろう。
そうこうする間に魔術師さんは踵を返す。このまま私から距離を取るつもりなのだろう。その後はまた他の魔術師と共同戦線を張るなり、隠れて隙を窺うなりして勝機を模索することだろう。
このまま岩が崩れるのを待っては遅い。再び距離を取られたとしても負けるとは思わないが、相手の思い通りになるのも癪ではある。
(なら……!)
誤算があったのはこちらだけではない。向こうの誤算は、常識で私を量ったことだ。
私は思い切り、ただ思い切り、岩を蹴って飛び立った。
「な――!?」
突然、自分の目の前に着地した私に、魔術師さんは絶句する。
一瞬の硬直の後、腰の短剣に手を伸ばすが、遅い。
私は振り向きざまに剣を抜き、魔術師さんの首元で停止させた。
「……くっ…………ま、まいった」
『な……なんだ今のはああっ!? 足場を崩されてピンチかと思われた少女剣士! なんと、岩場も、逃げる魔術師も飛び越え、文字通りひとっ跳びで距離を詰めたあっ! あの少女はなんだ?! アマゾネスかっ!?』
おk、その喧嘩買おう。
ぎろり、と司会を睨みつける。さっきからあの司会、私に喧嘩売ってるよね。
後で報復すべく司会の顔を脳にインプットし、次の獲物を探して私は歩き出……
「なんでだよっ……!」
……そうとしたところで後ろから怒号が届いた。
「俺は……ここで示さなきゃならなかったんだっ! 仲間に……なれるって。一緒に戦えるって……!」
「…………」
別に私に向けて言っている訳ではない。ただ溢れた物を抑えきれずに吐露しているだけ。
なんのことを言っているのか解からない。それはそうだ。それは私には関係の無い、彼だけの想いだろうから。けど、私は彼に、かつての私を見た。
「“まずは胸を張れ”」
「…………え?」
「“悔しがるより、嘆くより、まず先に胸を張れ。自分が、認めてやれ”。悔しくて、泣きそうでどうにもならない時、先生に貰った言葉」
別に彼に向けて言っている訳ではない。ただ私の想い出を、私を形作る心の芯を再確認しているだけだ。
「どんなに自分で良かれと思って行動しても、思った通りの結果を出せることはきっと少ない。認めて貰えることはもっと少ない。それはきっと、奇跡って呼ぶんだと思う」
かつて私が誰かを助けたいと思った時、そしてそれを行動に起こした時、私を認めてくれる人はいなかった。私が助けたいと思った、その誰かでさえ。
「だけど私は後悔していない。結果は思っていたのとは違ったけれど、想いは確かに遂げたから。やり遂げたから。自分が認めたから。それを、教えてくれた人がいたから」
私は振り返り、魔術師さんの顔を見る。その表情は涙と鼻水塗れできょとんとしていて、笑いそうになるのを堪えるのに苦労した。……いや、ちょっと耐えられなかった。
「くす……。……自分の全部を出しきったと思うのなら、“認めて”あげてもいいんじゃない? “結果が全て”なんて言葉で片付けられるほど、世の中は単純じゃないよ」
そうしないと、きっと折れてしまう。かつての私がそうだったように。
だから誰かが“認めて”あげないといけない。私にとってそれは私で、先生だった。
再び振り返り、魔術師さんに背を向ける。私からはそれだけだ。厳しい言い方だけど、あとは知ったこっちゃない。私の、先生の言葉をどう感じてどう受け止めるかはその人次第なのだ。
「……あ、それと」
顔だけちらりと後ろを振り向いて、最後に私の体験談だけを告げてみる。
「結果は出せなくても、ちゃんと見てくれている人は案外いるもんだよ♪」
それを最後に、今度こそ私はその場を後にした。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
やっぱ2作同時にやると名前がごっちゃになる……
キャラの名前とか町の名前とか魔術とか魔法とかあああああああ(ry




