第60話 宣戦布告
出場者用の通路を十数秒直進すれば、やがて外――広場へと出た。
――ワアアァァァ
まず耳に届くのは、頭上から降り注ぐ歓声。
「へぇ……」
そこは会場の花形。闘技会場の中央部に位置する闘技広場だ。
視線を少し上に上げれば、周囲の観客席を埋め尽くす、人、人、人。その数を数えるのは難しいが、数万人は下らないことは分かる。
目の前に広がる戦いの場は一見するとただの広場。ただ、めちゃくちゃ広い。野球場ぐらいはありそう。なるほど、これなら十数人でのバトルロイヤルも映えそうだ。
それに気になったのは、広場内にある木々や岩場、果てには池なんかもある。足下も、草の場所やただの土、足の取られそうな泥の部分など様々だ。
(なるほど、実戦に近い形式なのか。自分に有利な立地をいち早く確保して、相手を不利な立地に追い込む。遠距離タイプでも戦えるように盾になる岩や木……)
乱戦なら、ただでさえ周囲に気を配らないと行けない。しかし気を付けるのは対戦相手だけでは無い。
(私の目的はアピールしてランクアップすることなのに……ああ、なんていうか――)
「面白そうっ!」
「あら、気が合うわね」
思わず声に出した感想に、後ろから応えが返ってくる。
振り向くと、そこにいたのは女の剣士さんだった。
20代後半くらいのお姉さんだけど、引き締まった身体や落ち着いた雰囲気を鑑みるとただのお姉さんだと思うのは間違いだろう。
「この広い空間での乱戦。腕が鳴るわ」
「お姉さんも初戦の参加者ですか?」
「ええ、ライムよ。よろしくね、可愛い剣士さん」
「イロハです。こちらこそ、よろしくお願いします」
ライムさんと挨拶を交わす。
私を剣士と判断したのは腰に剣を差しているからだろう。まぁ今回に限っては間違いでは無いが。
何にせよ、多分結構な実力者だ。経験も豊富そう。この人の動きを観察してると良い勉強になるかもしれない。
「貴方も、早く動いた方が良いわよ」
私がやや失礼なことを考えていると、ライムさんがそんな事を言ってくる。
何のことだろうと思い周囲を見渡すと、他の参加者達は控え室から出てくるなり周囲を見渡して、それぞれ別々の場所に一直線に向かって歩き出していた。
それは岩場だったり、林の中だったりと、ばらばらだ。しかしその意味を察するのは容易い。
「――もう場所取りは始まってるんですね」
「ええ。早くしないと良い場所は取られちゃうわ。そうすれば最初から足場の悪いところに立つか、或いはすぐ傍に対戦相手がいる状態で始めないといけなくなるわよ」
そうこうしている間に動きやすそうな場所は次々に取られていく。
10分後という試合開始を鵜呑みにせず、目の前の情報から最善の行動を取る。これが、経験の差か……。
「教えてくれてありがとうございます。でも、戦いでは手加減はしませんよ?」
「……ふふっ。あらあら、手強い相手を助けちゃったかしらね」
ライムさんは可笑しそうにくすくすと笑う。多分私の年齢と体格を見て、若さ故の根拠の無い自信だとでも思ったのだろう。
けれど不快感はない。油断はしているだろうけど、見下す様な雰囲気は感じなかった。きっと直接戦う事になっても真剣に相手をしてくれることだろう。
「じゃあね。お互い頑張りましょ?」
ライムさんはそう言って、自身の選んだ開始位置へと向かって歩き出す。
それは何の変哲も合い平地。障害物が無く戦いやすいが、代わりに逃げ場も無い。「いつでもかかってこい」と宣言しているのと同じだ。
「おおー、かっこいー……」
そんな、そこらの男より男らしいライム姐さんに感心しつつ、私の開始位置を考える。
少し考えたけど、やはりそこしかないと決め、そこに向けて移動する。
「ここに決~めたっと!」
そこはライムさんと同じ、ただの平地。何の障害もない。
ただし、場所は広場のど真ん中だ。
自然、他の参加者から、それどころか会場中の視線が集中する。
ほとんどは私をただの馬鹿だと判断したのかすぐに視線を逸らす。けれど、ライムさんだけはどこまでも可笑しそうに笑みを浮かべていた。
バトルロイヤルでのスタート地点は、戦いの範囲内で出来るだけ端っこにするのがセオリー。その方が最初の行動に随分余裕を持てる。
逆に尤も選んではならないところはどこかと聞かれれば、言うまでもなく今、この場所である。
おのずと全ての参加者の視界に入るここは、必然的に全参加者達の最初の獲物候補に入る。更に360度囲まれる形になり、どうしても誰かを死角に入れてしまう。
開始と同時に敗北というのも余裕であり得る話だ。
当然、そんなことは解っている。けれどあえて、ここを選んだのだ。
ライムさんと同じように、私も、それを宣言する為に。
「――いつでも、かかってこーいッ!」
傍目には無茶無謀な私の宣戦布告が、闘技広場に響き渡った。
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仕事が落ち着いたと思った次の日にはトラブルが発生する罠。……ちくせう




