第47話 予感するイロハさん
「手続き、あっさり終わったねー」
ギルドを出て宿屋街に向けて歩いている途中、呟いた。
手続きとは、言うまでも無く闘技大会のこと。冒険者の資格札を見せて、はい終わり。なんともあっさりしていた。
まぁ、名前とかはギルド側で控えているし、出場意志を示すだけでいいというのは当然ではあるのだけれど。
「そうね。まぁいいんじゃない? 早く宿探しておきたいし」
「……同意。出来れば綺麗でベッドがふかふかで、さらに2人部屋と1人部屋で別れているとなおいい。お風呂は前提条件」
わがままか。
まあお風呂は私も同意見だけど。
「ていうか誰を1人部屋に追いやるつもりなのかな? ねぇ……セリナ?」
ミシェルが何やら只ならぬ雰囲気でセリナに迫る。
……少し距離を取ろう。触らぬミシェルに何とやらだ。
「……私とイロハはパーティだから同室で当然。仲間外れは別の部屋に行ってどうぞ」
「パーティ関係ないでしょッ! 私がついて来たからには貴方の好き勝手にはさせないわよ!」
「……まさか、それが目的でついて来たの?」
「はぇっ!? そそそんな訳ないじゃない? 社会勉強よ? 商人としての経験を得る為よ?」
2人して何か言い合ってる。ミシェルがキョドってるのも珍しいね。
何の話をしてるのかはよく分かんないけど。
「……独占欲が強い女は嫌われる」
「貴方に言われたくないわよッ!」
何やら怒ったミシェルがセリナに手刀を叩き込もうとするが、セリナがそれを避け、そのままヒートアップして2人だけの鬼ごっこが始まった。
仲良いね、2人……。イロハさんは疎外感と孤独感で泣きそうだよ。
ため息を吐きつつも、見ていて楽しいので止めはしない。
そうこうしている間に宿屋街に着いた。宿屋の集まったエリアというだけあって、右を見ても左を見ても宿屋。
間にちょくちょく小さな商店があるのは前世で言うコンビニ的な立ち位置か。
「虱潰しに探していきましょうか」
「そうだね」
「……めんどくさい」
やる気のない1人を無理やり引っ張りながら、希望に沿った宿屋を探し始めた。
そして最終的に辿り着いたのが、片隅にある小さな宿屋。
「お部屋ならあいてるよー」
記帳係の女の子の言葉に、ようやく私達は安堵のため息を吐く。
ここまでいくつもの宿屋を巡り、悉く断られてきたのだ。最初の宿の記帳係さん曰く、闘技大会の影響でもう宿は埋まってきているとのこと。……そりゃそうだ。
一応それなりの規模であるらしい闘技大会は、各地から参加者、観戦者が集まってくる。それが1週間後に控えているのだ。考えてみれば当然である。
さらに、私達はそれ以降の滞在も踏まえ、1か月以上空いている部屋を探している。まぁ宿屋を転々とする前提なら、他にも空いてるところはあったけど、それはめんどくさい。
そしてようやく見つけたのがここ、“ミ・カシータ”。名前も外観も、前世で言うところの西洋風で、なかなかオシャレ(な気がする)宿だ。
この宿の記帳係はまだ幼い、7,8歳の女の子だ。家業の手伝いだろうが、少々幼すぎる年齢ではある。だが、まだ文明が未成熟なこの世界ではこれはごくありふれた光景だ。
……まぁそもそも、私達が幼いとか言える立場じゃないんだけどね! 最年長が17歳とはいえ実質最幼女だし。
「良かった……! じゃあその部屋でお願いね。とりあえず1か月で」
「はーい。お姉ちゃんたち3人? 4人用のお部屋だけどいいかな?」
ミシェルが頷いて肯定を示す。これで宿の確保は完了だ。
「んしょ……これがお部屋のカギだよ。ところで、お姉ちゃんたちもとーぎたいかい?の観戦に来たの?」
一通りの手続きを終え、女の子が問いかけてくる。
(見た目は)わりかし歳が近いから興味を持ってくれたのかもしれない。
「そうだよ。ちなみにこっちのお姉ちゃん2人は観戦じゃなく出場だけどね」
そう言ってミシェルは私達2人の方を指す。すると、
「えー、嘘だあ。だってこっちのお姉ちゃん、わたしと同じくらいなのに」
と、女の子は言い放った。誰の方を指して言ったかは、推して知るべし。
そしてその言葉を向けられた当人の額に、青筋が走った。
「……おい、私は――むぐ」
「はいはい。小さい子相手にむきになんないの。じゃあ私達は部屋に行くね? えと……」
「チルだよー。またね、お姉ちゃん」
「またね、チルちゃん」
暴れるセリナを抑え込みながら、女の子、チルちゃんとあいさつを交わす。まぁなんというか、宿にいる間も退屈はせずに済みそうだ。
そしてあてがわれた部屋に向かいながら、なんとなく気になったことをぼそりと漏らす。
「4人部屋……ねぇ?」
「なにか言った? イロハ」
「んーん、なんでもなーい」
ミシェルに軽く返しながら、内心で思う。
(なーんか、変な予感がするなぁ……)
予感が現実のものにならない様、祈るばかりだ。まぁ、無駄だろうけどね。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
タイみたいに雨が毎日のように降る国だと、空気が湿気って来るのを肌で感じ取れるようになりますね。
これが人間の適応力か…(まぁ日本に帰ったらすぐに忘れるんだろうけど)




