第42話 母性の暴力
「あ、戻ってきた! イロハちゃん!」
「イロハッ!」
森を抜け出して馬車隊の方へと戻ると、まずライラさんが私に気付き、次いでミシェルとセリナが駆け寄ってきた。
「イロハっ! 大丈夫?」
「……何があった?」
「あはは、大丈夫だから2人とも。落ち着いて?」
焦りや心配を隠さない親友たちにほっこりしつつ、私はバラスさん達の方に向かった。
「よかった。魔物達の方は無事に終わったんですね」
「ああ、何とかな。というか連中、急に撤退しやがったんだが……いやそれより、無茶してんじゃねぇよ! 勝手な行動するなっての!」
「う、ごめんなさい……」
頭を下げる。
私はあの行動を後悔していない。もう一度同じことがあれば、私は同じことを繰り返すだろう。だけどそれとこれとは別だ。リーダーであるバラスさんを蔑ろにしたんだから。
バラスさんは言うだけ言った後、声のトーンを落とした。
「……いや、解かってるよ。俺らを庇うために行ってくれたんだって……。ライラも助けられたしな。礼を言う、それと……すまんな、頼りにならなくて」
「ほんと、イロハちゃんのおかげで命拾いしたわ。ありがとねっ!」
「――むぎゅっ……」
不意にライラさんに抱きつかれる。身長差もあって顔が埋もれてしまった。
…………凄い。何が凄いって、大人の包容力だよ。具体的に言うとおっぱ……言わせんなっ!
というか息が出来ない。そんな漫画みたいな状況が実際に起こり得たことに衝撃を受けずにはいられないんだけどそれよりもなによりもまず苦しいです放してくださいっ……
ライラさんの背中を必死にタップする。頼むから伝わって!
「あら? 遠慮しなくてもいいのよ?」
遠慮ってなんだよ! 別に嬉しくはないんだよ! むしろなんかこう……もやもやするんだよッ! っていうか放してぇっ!
「……そこまで」
「ライラさん! これ以上はダメです!」
「あン」
そろそろ力任せに振りほどかないと拙いかな、と思い始めたところで助けが入る。
ていうか卑猥な声出すなよそこの黒鬼乳。
「――ぷはぁっ……助かったぁ……」
ようやく酸素を補給出来た。全く、なんて凶器だ。
何やら不満気な表情をしながらライラさんから私を引き剥がした2人はそのまま私を守るように左右に抱きつく。
暑いんだけど……うん、もういいやなんでも。
精神と体力をあの母性の暴力に削られ、もう文句を言う気にもなれない。
「なんなら3人一緒でも……」
「「「お断り(します)ッ!!」」」
「残念ねぇ」
満面の笑みを浮かべ、全く残念じゃなさそうに言ってのける。ライラさんってこういうキャラだったんだね……。
「何やってんだか」
バラスさんの呆れた声が届く。それは貴方の相方さんに言ってやってください。
けどまぁ、おかげで少ししんみりした空気はどこかへ飛んで行ってしまった
(まさかこれを狙って…………ないね! 失礼しましたっ!)
まるで獲物を狙う鷹の様な眼をするライラさんから視線を逸らし、こほんと咳払いを一つ。
いい加減話を戻そう。
「こほん……。先ほどの件ですが、とりあえずの脅威は去りました。ここにずっといるのも拙いですので、先へ進みましょう。詳しいことは夜にでもまた話します」
「……わかった。お前らもそれでいいな?」
私の言葉を受け取ったバラスさんが頷き、他のみんなにも確認を取る。
みんなは特に反対することも無く、賛成してくれた。
それからエルナーさんに声を掛け、馬車隊は再び王都を目指して進み始めるのだった。
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