第41話 屍
「ギャヒィッ!?」
立ち塞がる魔物達を一刀のもと斬り伏せながら、森を進む。
先ほど受けた漆黒の魔力矢。あれは相当の魔力が込められていた。
あれほどの魔力攻撃であれば、射線上に僅かに魔力の残滓が残る。それはごく僅かな間だし、それを感じ取れるほど感知能力が優れている者はほぼいないが。
(……こっちか)
魔力の残滓を辿りながら、その大元へと駆ける。
そしてようやく、開けた場所に出た。
「っ! ……ここは」
思わず立ち止まる。
そこにはいくつかのたき火の跡、それから食事の跡。
それだけ見れば、どこかの冒険者が野営した後だと思えるだろう。だが、その食事跡は完全に異なるものだった。
「……酷い死臭」
思わず鼻を抑える。
そこらにはそのまま喰われたであろう動物達の死骸が放置されていた。食べ散らかされた、と言ってもいい。
動物が食事した後でももう少しマシだろう。適当に食べ残して放置され、酷い臭いを放っている。
この光景を見る限り、この捕食者達に知性というものは無さそうだ。
「青いのぅ……これほど命に満ち溢れた臭いもないじゃろうに」
「――っ!?」
突然、森に声が響く。
反射的に声のした方向を見る。そこには杖を突き、漆黒のローブをまとった老人が立っていた。
そう、立っていた。ただ、普通に。なのに、全く気付かなかった。
「……命? むしろ正反対の光景だと思うけど?」
必死に平静を装いながら目の前の老人に尋ねる。
老人からはどす黒く、膨大な魔力と、異様な迫力を感じる。こんなモノに、何故気付かなかったのか。
疑問は尽きないが、ただ一つ、間違いない事がある。
私が探していたのは、こいつだ。
「ふぅ……青い。青いのぅ。死こそ命、命こそ、死じゃ。死してこそ生を受け、命あるうちはただの屍に過ぎぬというに……」
老人の話に耳を傾けながら、周囲の気配を探る。
老人以外には何も感じないが、ついさっきまで目の前の老人も知覚できなかったのだ。油断はできない。
しかし老人の話がまるで理解できない。老人の耄碌に巻き込まないで欲しいものだが。
「あなたは、誰? ……いや、何?」
遠回しに言っても埒が明かないと思い、直接的に問いただす。
私の質問に、老人はニィ、と口角を上げた。
「さぁのう? 儂は誰で、何じゃったか。もう、忘れてしもうたわい」
「はぐらかさないで欲しいのだけど」
いつでも行動に移せるよう、身体に魔力を漲らせながら反論する。
すると老人は何がおかしいのか、掠れるような笑い声をあげる。
「ひっひっひ……はぐらかしてなんぞおらんとも。そうじゃな、焦らずともその答えはじきに知ることになる。嬢ちゃんはその時の、よい目撃者になってくれるじゃろう。儂の勘は、よう当たるでな?」
そう言って老人は踵を返す。
「待っ――ッ!」
頭上に気配を感じ、飛び退く。
飛び込んできたのは、鎧を着込んだ骸骨だった。
「スケルトンナイトっ!?」
セリナに聞いた事がある。世界には亡者が魔物になった連中もいると。
そして、人間の死体から変異したそれは、人間の時の戦闘技術も僅かながら残っており、手強いことが多いと。
「ひっひっひ。またいずれ、生と死の境界にて……」
「待ちなさっ――くっ……!」
追おうとする私に立ち塞がるようにスケルトンナイトが剣を振るう。
剣を抜いて受け止めるが、骨の癖に随分と俊敏な動きだ。
力任せに剣を弾き、空っぽの胴体を蹴り飛ばす。
吹き飛んだスケルトンナイトの向こうには、既に老人の姿はなく、その気配も感じさせなかった。
「っ…………」
逃がしたという事実に歯噛みしていると、スケルトンナイトが起き上がり、再び剣を振るう。
私はそれを素手で掴んで止めた。
「――!」
声は出せないだろうが、驚愕は伝わってくる。どうやら感情の様なものはあるようだ。
何とか剣を取り戻そうとガチャガチャと足掻いているが、私の手はびくともしない。
魔力を応用すれば、魔力を込めた一部分の強度が上げることが出来る。現に素手で剣を受け止めても、血一滴流れない。まぁ、圧倒的な魔力が在って初めて出来ることだけれど。
私はそのまま、剣を握り潰す。
剣に力と体重を込めていたスケルトンナイトは、支えを失ってバランスを崩した。
そして、その無防備な頭蓋骨を力一杯ぶん殴った。
全力で魔力を込めた一撃を受けたスケルトンナイトは、頭蓋骨を粉々に爆砕しながら吹き飛ぶ。吹き飛んだ先で木に激突し、全身がバラバラに砕けた。
あれの死という定義はどうか知らないけど、これで活動は停止しただろう。
「ふぅ……」
心を落ち着けるように息を吐き、私は残心を解いた。
「……そう、分かった。なら、その時を、私も楽しみにしてるよ」
もう姿の見えない、あの不気味な老人に向けて言い放つ。
森の奥から、あの掠れた笑い声が聞こえたような気がした。
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