第32話 初めてのクエスト終了
「セリナ。起きて、セリナ」
「……んむ……」
未だ眠りこけるセリナの体を揺するが、起きる気配はない。随分と寝起きが悪いようだ。
「もう、いつまで寝てるの……」
「むにゅ……イロハ……胸小さ――」
「さっさと起きろぉッ!!」
セリナの額に手刀を叩き込む。
ていうかどんな夢見てるのさ。
「……あぅ。痛い……」
「自業自得。ていうかセリナに言われたくない」
ようやく目を覚ました幼児体型17歳は、手刀を食らったおでこを撫でる。
女の子同士でも触れてはならないことがあるんだよ。
それと私は2年後ぐらいにはちゃんと育つ。育つんだよ!
「……? 何の話?」
「覚えてないならいいよ。それよか、意識を失う前の記憶はないの?」
言われて額に手を当てる。
しばらくすると思い出して来たのか顔色が青くなる。
「……ガルガトス……! あいつはっ!? ていうかイロハ無事なの!? ここはどこ!」
「はい落ち着け~」
「いひゃい……」
テンパるセリナの頬を引っ張る。
落ち着いている私を見て、状況は悪くないことを察したのか、セリナはすぐにある程度落ち着きを取り戻した。
「……あへはふぁ、ほうはっはほ?」
うん、何言ってるのか解かり難い。いい加減ほっぺを解放してあげようか。
「えっと、凄く強い通りすがりの冒険者さんがガルガトスをやっつけてくれました。その人に方角を聞いて森を出ました。以上」
そう、私達は既に森の外。視界の向こうにはティラネルの町も見える。
もちろん通りすがりの冒険者などいない。森を抜け出せたのも、飛翔魔法でひとっ飛びしただけ。
「…………」
セリナの疑わしそうな視線が私を貫く。
話が適当過ぎたかな。けれど本当のことを言うよりよっぽど現実的だろう。
「まぁそんなことより、身体は大丈夫? まだ痛むところとかない?」
「……ん。大丈夫。むしろすこぶる調子がいい」
セリナがくるっと一回転してみたり、ぴょんぴょん跳ねてみたりして確かめる。
それが子供みたいで可愛いというのは言わないでおこう。
「……イロハが治してくれた?」
「うん、そう。でも回復魔法の経験は少ないから、何か違和感でもあったらすぐに言ってね」
それは本当。
全快させたはずだけど、あの傷はほとんど致命傷だった。一応今日は休んでいて欲しいところかな。
「さって、帰ろっか。今日は疲れちゃった」
「……疲れちゃった?」
「うん。だってあんなのに出会っちゃったしねぇ。生きた心地しなかったよ~」
どちらかと言うとセリナが心配で、だけど。
「……わかった。今は納得する」
やばい。やっぱり疑ってる。
とは言え説明出来ないのも確かだ。ここはこれで押し通すしかない。
「ほら、もう夕方だし、急がないとミシェルに晩御飯抜きにされちゃうよ?」
そう言って町に向かって歩き出せば、セリナがてくてくと追従してくる。
「……さっきの……イロハの後ろに……」
「ん? 何か言った?」
セリナが何か言ったみたいだったけど、小声で聞き取れなかった。
「……なんでもない。そんなことより特訓したい、魔力球出して」
「だーめっ! 歩きながらは危ないから禁止」
セリナの要求を却下する。
まぁ主な理由は私が無視されるから暇、という理由なのだけど。もちろんそれは言わない。
それに対して少々不満そうなため、餌をぶら下げて落ち着かせる作戦に出る。
「明日は出してあげるから」
「……約束」
セリナもとりあえずは納得したようだ。
「それと、今日は大事をとってご飯食べたらすぐ寝ること。ね?」
「……無理。イロハたちが寝かせてくれない」
わざと変な言い方してない?
まぁいつも夜遅くまで3人で遊んでるしねぇ。……健全な遊びだよ?
「せめて今日は早い目に切り上げようか……」
ため息を吐きながらそう決意する。
それから、私達は軽く話しながらティラネルの町へと戻った。
「あ……、ゴーストスパイダーのこと忘れてた……」
後日、思い出したように森に赴きゴーストスパイダーを蹴散らしたのは、また別の話。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
初めてのクエスト、終了です(完了とは言ってない)
ゴーストスパイダーのことを忘れていたのは決して作者ではありません。
悪いのはすべてイロハです(目泳)




