第31話 絶対の力
得もいえぬ解放感がこの身を満たす。
別に“色羽”の姿が窮屈だという訳じゃない。
だけどやっぱり、今の私は、人間でなく古龍なんだと実感させられる。
「GI……」
ガルガトスがジリジリと後ずさる。
流石に今の私を相手取るのはまずいと思ったのか。悪いけど、見過ごす訳にはいかない。
セリナのことを置いておいても、町を襲うかもしれないこいつはここで逃がすべきではない。
そう決めた私は、ガルガトスとの距離を詰めていく。
「GI……GAAAッ!!」
それで見逃してはくれないと解かったのだろう。意を決したように、咆哮と共に敵意をぶつけてきた。
そのまま、先手必勝とばかりにこちらに駆け寄ってくる。そして私の首を食いちぎらんと、その牙を突き立てた。
「GIッ!」
ガルガトスが驚愕の声を漏らす。
驚愕も当然だろう。ガルガトスの攻撃に、私は一切の抵抗を示さなかった。いや、その必要はなかった。
「GIAAAAッ!?」
ガルガトスが堪らず食らいついた牙を離す。見れば、その牙は幾本か折れてしまっていた。
龍皮の硬度は、鉄のそれを超える。生半可な攻撃が通る訳がない。
だがそれでもガルガトスは攻撃の姿勢を崩さない。今度は身体を回転させ、遠心力を乗せた尾の一撃が襲う。
けれど、私はそれにも抵抗を示さない。
尾の一撃を受けた頬から衝撃が突き抜けるが、それだけだ。少しばかり痛くはあったか。
『……次はこっちの番だよ』
淡々と言い放つ。
言い終わった頃には、私の周囲に数十もの光の矢、否、光の槍が浮かんでいた。
ガルガトスが眼を見開く。それと同時に、私は槍を解き放った。
「GIGYAAAAAッ!!」
光の槍は軽々とガルガトスの皮膚を貫き、穿っていく。
しかもそれが数十。瞬く間にガルガトスの身体は穴だらけになっていった。
『……これでも、死なないんだ』
すべての槍を解き放った頃、全身から鮮血を撒き散らしながらも、ガルガトスは確かに立っていた。
タフだとは思っていたが、これほどとは思わなかった。怪物と呼ばれるのも頷ける。
そして、ガルガトスの闘志もまた、折れてはいなかった。
その口部に再び魔力を集約させる。
もちろん、私にはそれが視えている。けれど邪魔するつもりは無いし、その必要もない。
数瞬の後、ガルガトスは勝ち誇ったように笑みを浮かべた後、私の至近でそれを解き放った。
三度目の光が周囲を満たし、爆音が森にこだまする。
『……その重症で、良くここまで。でも、もう終わりだよ』
「GA……」
平然と呟く私の念話に、ようやく怯えを見せる。
ガルガトスの切り札は、私達を守る光の壁によって完全に受け流された。
私とセリナの周囲を守る光の障壁。その強度はさっきまでとは比べ物にならない。
古龍種は、その強固な肉体もだけれど、何より内包する魔力が他のどの生物より秀でている。まあ母様からの受け売りだけれど。
その古龍が加減なく魔力、魔法を行使すれば、それは絶対の盾となり、矛となる。
『最後に見せてあげる。本物を』
そして私はガルガトスに食らいついた。
(……あ、血の味がする。気持ち悪いなぁもう……)
早くもその行動を後悔しながら、さっさと終わらせようと、その巨体を持ち上げ力任せに首を振った。
「GIAAAッ!?」
空を飛ぶなど、おそらくガルガトスにも初めての経験だろう。正確には放り投げられた、だが。
空高く打ち上げられたガルガトスに、もはや為す術はない。陸に揚げられた魚、打ち上げられた蜥蜴……まんまか。
『これで終わりだよ』
ガルガトスと同じように、口元に魔力を集約する。
同じように、とは言ってもその魔力は桁が違う。その魔力を一点に圧し固めたことによって、周囲の空間すら歪んでいる。
「GI……! GAAAッ!!」
その異様を空から目撃したのか、何とか足掻こうと空中でじたばたと暴れ回る。
可哀想だとは思わない。お互い様であるからだ、生きる為に殺し合うのは。
そして、空間を歪ませながら完成した魔力球をガルガトスへと向ける。
これで、本当に終わりだ。
『さようなら』
最後にそれだけ呟き、魔力を解き放つ。その瞬間、白く透明な輝きを放つ光線が空を切り裂いた。
竜の息吹、なんてよく聞くけれど、これはそんな生易しいものじゃない。
純粋な魔力によって構成された、暴力の奔流。射線上にあれば塵も残らない。
「GIッ――」
そんな、断末魔にもならない声を漏らし、ガルガトスは光と共に消えた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
本作は9月の初めにスタートしたから、丸々1ヶ月。
本来の気晴らしという目的からはやや外れているような気もしますが、楽しく書かせて貰っています。
これも応援してくださっている読者様方のおかげであります(`・ω・´)ゞ
無論、まだまだ続きますので、どうか今後も本作をよろしくですッ^^ノ




