第29話 隙と油断
討伐作戦が明日で良かった。
もう何人かには見せちゃってるけど、やっぱり私の力はあまり人に見せるものじゃないしね。
そう内心で呟きながら、地を蹴った。
「はぁッ!」
馬鹿正直な真っ向勝負。
当然、ガルガトスは私を噛み砕かんとその咢で迎え撃つ。
その牙が私を捉える直前に、避けるように飛び上がった。
ガチンッ、と言う咬撃を空振った音を背中で聞きながら、ガルガトスの直上まで身体を躍らせる。
そのまま逆立ちするように下に向き直りつつ、宙空に着地する。トロール戦でも一度使った、魔力による足場だ。
そしてその足場を蹴り、真下にいるガルガトスに向けて跳び込んだ。そのまま、全力で剣を振り下ろす。
「せりゃあああっ!」
「GIAAAAッ!?」
気合一閃。
剣閃は間違いなくガルガトスに届き、血飛沫が舞う。
相当の勢いで跳んだ為、地面を揺らすほどの衝撃を伝播させながら着地する。
一瞬の残心を解き、後ろを振り向くと、予想外の結果が目に飛び込んだ。
「――浅かったっ!?」
全力で振るった斬撃は、確かにガルガトスを切り裂いていた。
が、明らかに傷は浅い。皮膚と僅かな肉だけを裂き、おそらく内蔵には届いていないだろう。
「GAAAッ!!」
「――ッ!」
今は驚愕に体を硬直させている場合では無い。
それを突きつけるように、怒り狂ったガルガトスが再び私を嚙み砕かんと迫る。
咄嗟に飛び退くが、牙が掠ったのか、肩の部分の服が破れた。
「くっ、疾いっ……!」
致命傷にはならなかったとはいえ、それなりに大きな傷は負わせたはずだ。だがそれでも、怯む様子も、動きが鈍る様子も見られない。
(正直、一刀両断するつもりだったんだけど……頑強さが異常だ。剣で仕留めるのは無理か。なら――)
多少のことで怯まないのはこっちも同じ。剣が通用しなくとも、私の武器はまだ他にもある。
右手を肩の高さまで上げ、魔力を込める。この場にはセリナしかいない。なら、無詠唱魔法を使わない理由はないし、余裕もない。
右手に込めた魔力は紫電を発し、雷へと変わる。そしてそれは徐々に形を為し、盗賊の時と同じように鳥を模した。
だけど今度はあの時の様に小さいものじゃない。それの数倍はある、大鷲ほどの大きさだ。
私の腕に止まる雷鳥は、数十センチはある翼を広げ、バチバチと紫電を撒き散らす。
「――往って!」
私の声を合図に、雷鳥は飛び立ち、空を舞った。
「GIAAAA!」
ガルガトスが自身に迫る雷鳥に向けて尾を振るう。その強靭な尾は、周囲の木々をまるで小枝の様に折り砕きながら雷鳥へと迫った。
しかし、雷鳥はまるで生きているかのように軌道を変え、見事に尾の一撃を回避する。
ガルガトスは瞳に驚愕の色を浮かべながらも、今度はその牙で屠らんと迫る。
それすらもあっさりと避けて見せた雷鳥は、がら空きの胴体へと真っ直ぐに特攻した。
「GI!?」
雷鳥はガルガトスを貫きながらも形を失わず、ガルガトスの隙を探るように周囲を旋回する。
恨めしげにそれを眺めるガルガトスだが、それはまごうことなき隙だ。
「GIAAッ!?」
ガルガトスを高速で飛来した光の矢が襲う。
「よそ見してる暇はないよっ!」
私は生み出した光の矢を次々とガルガトスに浴びせかける。
数も威力も速度も、そこらの魔術師とは比べ物にならないだろう。
ガルガトスは堪らず1歩後ずさった。
(今だっ!)
それを好機と見た私は一気に決着を付けようと、距離を詰める為に地を蹴った。
単純な斬撃は効果が薄くても、魔法と組み合わせれば必殺の威力が出せる。それで、止めだと。
だが、それは油断だった。故に、それに気付くのが致命的に遅れた。
「――ッ!?」
ガルガトスの頭部、正確には口に魔力を感じ取る。
その魔力量、濃度はセリナのソル・イーダムに勝るとも劣らない。
(まずいっ!!)
この土壇場でのそれに、直感する。おそらくは切り札か、それに準じた何かだと。
それを見せつけるかのように、ガルガトスが私に向けてその口を開く。そこには極限まで圧縮され、満たされた魔力が在った。
不意を打たれ、まともに回避出来る体勢ではない。
あの魔力量からしておそらく広範囲に広がる技だろう。仮に無理やり飛び退いたとしても、巻き込まれる可能性が高い。
むしろ無防備な体勢で巻き込まれてしまうと危険だ。出来ること言えば、腕で急所をカバーする程度が限界だった。
そして、それは放たれ、視界は光に満たされた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
ぎりぎり今日中に投稿できた…。
どこかに精神と時の部屋ないかな。




