第26話 特訓
「まずセリナには、“魔力”の扱いに慣れて貰います」
私の言った“秘策”に、不安を示しているセリナに宣言する。
魔力を完全にコントロールしなきゃ、無詠唱なんてまともに使えないからね。
だからまず魔力を操ることに慣れ、そこから徐々に精度を上げていこうと思う。
「……ん? だから今こうして無詠唱の練習してる」
「いや、一旦魔法のことは忘れて。まずは魔力を操れるようになった方がいいと思う。そう、こんな感じに……」
未だ疑問符を浮かべるセリナを前に、右手を胸の高さまで持ち上げる。
セリナの視線が右手に移ったところで、掌から魔力球を作り出した。
「……ッ! これは……魔法?」
「ううん。これは、ただの魔力。まだ何色にもなっていない、何かになる前の純粋な魔力だよ」
そこに浮かぶ白く透き通った小さな球体、魔力球はただぷかぷかとそこに浮かんでいる。
「これが出来るようになるのが目標だけど、まぁそれはあくまで最終目標。最初は……はい」
「……え?」
その魔力球をセリナに差し出す。
セリナは突然のやり取りに困惑しながらも、受け取るように両手を差し出した。
私の作った魔力球は、ふわり、セリナの両手の上に移動する。私の時と同じようにそこでぷかぷか佇んでいる。
「……なに? これをどうし――ッ!? ま、魔力球がだんだん小さく……!」
セリナが疑問を呈している僅かな間に、魔力球は少しずつ白い残滓を零しながら縮こまっていく。
それは当然の現象。魔力球は物体としてこの世に形を成している訳ではなく、魔力という無形質なものが不安定に寄り固まっているだけ。
つまり、放っておけばそのうち空気に溶けてなくなる。
「うん、放っておいたら消えちゃうからね? じゃあセリナ、その魔力球に魔力を送ってあげて? 大丈夫、魔法と同じ要領で魔力を流し込めばいいよ」
私の言葉を聞いてセリナは一瞬不安そうな表情を浮かべたが、これが私の秘策だと察し、意を決したように魔力球を睨む。
そして先ほどと同じように魔力を生み、腕を通して魔力球へと流れてゆく。
少しずつ、少しずつ。
やがてセリナの魔力は魔力球に辿り着き、魔力を供給された魔力球はそこで大きさを維持するようになった。
「…‥出来た! それで、イロハ? この後どうすれば……わ、またっ」
セリナが気を緩めた瞬間、魔力の供給が不安定になり、魔力球がまた僅かに縮みだす。
「当然だけど、供給し続けないと意味ないからね。それと、“この後”はないよ。ただこの魔力球が消滅しないように維持する。それが特訓だよ」
「……うぅ、でもこれ、魔力の消費が……」
魔力の消費で疲労を感じているのだろう。少しばかり辛そうだ。
けれど、指の先ほどの、ほんの小さな魔力球だ。これを維持する魔力など、たかが知れている。
問題は生み出した魔力のほとんどが魔力球まで辿り着かず、霧散してしまっていること。
「セリナ、これは魔法じゃないから、魔力の流れに集中してみて。無駄さえ無くせば、セリナならこれぐらい1日中維持できるから」
「……ん。――すぅ……ふぅ……」
セリナは私の言葉に応え、目を閉じて魔力に集中する。今まで呪文に頼ってきたセリナには初めての試みだろう。
緊張と疲労で頬を伝う汗を拭いてあげつつ、時折アドバイスを投げながら、しばしセリナの特訓を見守っていた。
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