第25話 Don’t think. FEEL!
「で、何か言い訳はあるかな?」
全身濡れ濡れの私達は焼け跡で正座し、向かい合っている。言わずもがな、説教中だ。
「……私はただ魔法を撃っただけで、あっさりと燃えたあの木がわふい…………いほは、いひゃい」
本人に反省の色が見られず、なにかアホなことを言いだしたので、体罰で黙らせる。
「あのねぇ……。流石に木に向かって炎魔法なんて使ったらああなるって解かってたでしょ?」
「……う、……ごめんなさい」
流石にバツが悪かったのか、それともほっぺつねつねが効いたのか、セリナは素直に頭を下げた。
「反省してるならいいけど。それにしても、私が最後に声かけた時に止めてくれても良かったんじゃない?」
「……無理。あのタイミングじゃもう止められない」
ため息を吐きながら最後にひとつセリナに文句をつける。
それに対するセリナの言葉に、ふと疑問を抱いた。
「え? なんで?」
「……? なんでって言われても……。あそこまで呪文を唱えて、魔法を撃つ直前に止めるなんて出来ない。当然でしょ?」
「ん? …………あ! そういうことかっ!」
セリナの言葉を聞いて、ピンときた。今私の頭上にあるランプはぴかーっと光っているに違いない。
「……イロハ?」
突然叫びだした私に、今度はセリナが疑問符を浮かべる。それに対して私は、得意気に宣言した。
「分かったんだよ、無詠唱で魔法を使う方法!」
「……っ! 本当?」
セリナは嬉しそうに瞳を輝かせて反応する。
「うん。と言っても、ほんと大したことないと言うか、ぶっちゃけ“無詠唱を使う方法”なんてないんだけどね」
私の言葉に、セリナは首を傾げる。まぁその反応も当然だろう。
「無詠唱も、詠唱しての魔法も、基本は同じ。魔力を生みだして、それを魔法に換える。それだけだよ。要は、呪文を使わずに魔力を操作すればいいの」
「……? だから、それの方法を――」
「同じだよ。セリナが普段使っている魔法と同じことを、呪文無しでやるだけ」
考えてみれば当然で、単純なことだ。私が詠唱も、無詠唱もこなしている時点で答えは出ていた。
「…………でもそれは……」
セリナが不安そうな、納得いかなさそうな声を上げる。
そう、セリナ達は、いや、一般的には、魔法は呪文が必要だという認識になっている。だから多分、セリナは無詠唱に特別な方法があると思っていたのだろう。
だけど真実は単純。要は魔力の運用の問題。呪文という補助なしで魔法を使う。ただ、それだけ。
「セリナ、呪文は絶対じゃない。ただの補助なんだよ。いつもと同じように、魔力を操作すれば、魔法は使える」
「…………」
多分、口で言うほど簡単じゃない。今まで呪文に頼り切り、呪文ありきでやってきたセリナにとっては、受け入れがたく、或いは恐怖すら感じているかもしれない。
例えるなら、なんだろう……自転車の補助輪を外すときみたいな感覚? ……想像したらちょっと可愛いかったよ。
妄想の中でプルプル震えながら自転車に乗るセリナに癒されるのもほどほどに、話を続ける。
「まぁ、難しいとは思う。でも、鍵が魔力の操作にあるのは間違いないと思う。例えばさっきの魔法、私ならあのタイミングでも魔力の流れを無理やり断てた」
そう、私なら。無詠唱を使いこなして魔力の操作に長けている私なら、あのタイミングでも無理やりどうにか出来た。
そして、それが私とセリナの決定的な差。
「……分かった。やってみる」
セリナはそう言って強い意志を瞳に込める。
私はそれに満足して頷いた。
「うん、見ててあげる。あ、さっきみたいに炎が燃え移っても私が全部消火するから気にせずやっちゃって」
そう言ってあげればセリナは安心したように笑みを浮かべる。
「……頼りにしてる」
「ん♪」
セリナが集中の為に目を瞑る。
さきほどのやり取りで肩の力が抜けたのか、落ち着いているように見える。
セリナは一つ深呼吸をして、杖を構えた。
「……くっ……む、ぅ……」
セリナが苦しそうに唸る。実際に苦しい訳でなく、魔力の操作に苦心しているのだろう。
集中して魔力を視ると、セリナの右胸から生まれた魔力が行き場を探るように右往左往している。
さっきの魔法の様に杖へと向かっている魔力は、ごく僅かだ。
「セリナ……! がんばれッ……!!」
「……ん」
声を掛けると、簡潔にそれだけが返ってくる。だがセリナの表情は幾分楽になったような気がした。
魔力が僅かずつ、セリナの腕を通して杖へと集まっていく。
初めこそか細かったそれは、だんだんと確かな“流れ”へとなっていき、杖へと集まっていく。
そしてセリナは杖を掲げ、魔法の発動を宣言するように、それを叫ぶ。
「……クリムゾン……アマリリスッ!」
杖を振りかざす。その瞬間、杖の先端から先ほどと同じ赤い魔力球が飛び出した。
それを見たセリナは喜びと達成感に顔を綻ばせる。が、それがもたらしたものは先ほどとはまるで違っていた。
――ぽふっ
気の抜けるような音を放ち、魔力球は消滅した。
気持ちばかりの火花は散らしたものの、先ほどの高火力魔法とは比べるべくもない。
「……むぅ」
セリナは悔しそうに声を漏らす。
初めての試みで、形だけとは言え達成させるのは見事と言えるのだが、セリナ本人はそれでは満足しないようだ。
「うーん……杖まで伝わった魔力が少なかったかな。まぁ、だいぶ魔力を遊ばせてたもんねぇ……」
セリナの生み出した魔力で、杖まで伝わった魔力は総量の1割も無い。それでは先ほどの威力が出るはずもない。
ほとんどの魔力はそこまで至らず、霧散させてしまっていた。
(とは言え、流れ自体は遅いながらも出来てるし、あとは魔力操作をどれだけ早く、精緻にこなせるか。こればっかりは慣れしかないかな)
これまで呪文に頼っていたセリナは、おそらく魔力の操作など意識もしていなかったろう。
それを急に完璧に操れなんて無理難題もいいところ。
とはいえセリナはそれでは納得しないだろう。
(これを続けていればそのうち上達するんだろうけど、効率は悪いなぁ……)
再び無詠唱での魔法を試みているセリナを眺めながら考える。
そしてひとつ、思いつく。
要は慣れ。セリナは多分まだ“魔力”っていうのをちゃんと認識してない。なら、まずはそこから……。
「ねぇセリナ。一つ、試してみる気はない?」
「……ん? ……言ってみて」
また魔法に失敗して悔しそうにしていたセリナがこちらを見る。
ふむ、やる気はあると見た!
「ふふ、我に秘策あり、だよ。言うなれば、そう……“考えるな、感じろ!”、だよッ!」
私の言葉に、セリナは何故か不安そうな表情を浮かべていた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




