第24話 第二の心臓
「じゃあ、もっかいいくよー」
そう言って再び右手を翳す。
セリナと馬鹿を言い合ったおかげで、余計な力が抜けた。これなら油断さえしなければもう失敗しないと思う。
右手に魔力を込める。落ち着いていれば解かる、その魔力量が適正かどうか。
今回はちゃんと思った通りの魔力量だ。
「せーのっ」
右手を振るう。
そうすれば先と同じ光の矢が生まれ、狙い通りの木に向かって飛ぶ。
そしてそれは今度こそ、トスッという軽い音を立てて木に突き刺さった。
光の矢はそのまま粒子になって空気中に溶け、あとには傷ついた木だけが残る。
「こんなものかな。どうだった?」
「……だめ。やっぱり私じゃ、魔力の動きまでは掴めない」
セリナが悔しそうな声を上げる。
「んー……そうは言っても、他に方法は……あ、そうだ」
なんで、気付かなかったんだろう。魔力の感知能力は私の方が上なんだから、私がセリナの魔力を視ればいい。
私が無詠唱を教えることが出来ないのは、特別なことをしているという自覚がないから。だから他の人と何が違うのか解からない。
なら、私がセリナや普通の人の魔法を、魔力の流れを観察すれば、何が違うのか解かるかも知れない。
「セリナ、適当な魔法使ってみて? あ、出来れば詠唱は長いめの方がいいかも」
「……私? なんで私が…………ああ、そういうこと」
説明を省いた私の言葉に一瞬考える素振りをするが、すぐに得心したように頷く。やっぱりセリナは頭が良さそうだ。
「……わかった。そういう事なら」
呟き、今度はセリナが正面の木に向かって杖を構える。
そして眼を閉じて集中し、呪文を紡ぐ。
「……咲き誇る華、咲き乱れる華たちよ――」
セリナが詠唱を始めると同時に、私はセリナの魔力に注視する。
(……すごい。セリナの魔力が満ち満ちているのを感じる。やっぱりセリナの魔力ってかなり……いや、今それは置いといて……)
注視しなくても肌に感じるほど、セリナの魔力は大きくて濃い。セリナが魔法の才に秀でていることは間違いないと断言できるほどに。
だがそれは今問題ではない。今、気にするべきは魔力の流れ。それを見極めないといけない。
「……その紅き花弁を舞い散らし――」
私はさらに集中する。そうすれば、セリナの魔力の流れを詳細に感じ取れた。
人の魔力は右胸から生まれる。そこに何かしらの器官がある訳ではないが、血液でなく魔力を生み送り出す、第二の心臓と呼ばれている場所だ。
魔力はセリナの右胸から生まれ、両腕、手のひらを辿り、最終的にセリナの持つ杖へと流れてゆく。
そして杖の先端で魔力がとぐろを巻き、魔法と為る瞬間を待ち焦がれるように胎動する。
セリナの魔力は淀みなく流れている。ここまでで特に気になる点はない。魔力の流れそのものは私と全く同じだ。
「……現世に咲く炎の華と為れ――」
セリナの詠唱を軽く聞き流しながら考察する。
しかし、その魔力運用に私と異なる点は見えない。
(むぅ、これは外したかなぁ…………ん? 今、炎って言った?)
頭の片隅に引っかかったそれに、私の全身を嫌な予感が駆け巡る。
「セリナッ! ちょっと待っ――」
「――狂い咲け、クリムゾン・アマリリス!」
必死の叫び虚しく、杖からそれは放たれた。
杖から飛び出した赤い魔力球は、十数メートル先の木へと命中し、炎という現象を伴って真っ赤な華を咲かせた。
狙われた木は一瞬で大火に包まれる。だがそれだけでは収まらず、セリナが唱えた呪文の通りに紅い花弁を舞い散らし、周囲の木々にも火をつける。
「ちょ、バカァッ! こんなに木が密集した場所で火の魔法なんて使わないでよ!」
「……私は炎魔法の使い手。それ以外は使えな――」
「ほあたぁッ!」
「ごぷッ!?」
フンっと鼻を鳴らしながら何故かドヤ顔で宣言した馬鹿に手刀をかます。割と力を込めたので本気で痛そうに頭を抱えている。
誰さセリナが頭いいって言ったの! ……私だよ! そして前言撤回だよッ!
そんな馬鹿を成敗してる間にも火は次々に燃え移り、すでに結構な大火事になりつつある。
こないだセリナと共闘したところは結構開けた場所だったし、基本的に魔物に対して撃っていたので森を焼くことは無かった。
が、今回は別だ。
こんな木々の生い茂る森の中で、しかもあんなに火種を撒き散らすような魔法を使えばどうなるか。
そんなこと、馬鹿でも解かる。……あ、いやセリナ以外の。
ともかく、これをこのまま放っておくのはまずい。ティラネルに近いこの森が焼ければ、町にとっては大被害だ。
それに、ここはクエストの依頼でもよく指定される場所。森の中にいるであろう他の冒険者達も巻き添えになりかねない。
「ああもうっ! 消火消火消火ぁあっ!」
半ば自棄気味に叫びながら魔法で大量の水を生み出す。それはもう消火と言うより洪水。
そこらに散らばる火を丸ごと呑み込み、一瞬で鎮火させた。
洪水が如き水が流れて行った後に残されたのは、真っ黒になった木が数本と、制御を誤って全身を濡らした私達だった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
日本食が恋しいです…T_T




