第23話 大丈夫。怖くない、怖くない…
「……さて、じゃあイロハ、お願い」
目的地の森に着くや否や、待ちきれないとばかりにセリナがせがむ。
「いいけど、ゴーストスパイダーとかいうのは?」
「……そっちは無詠唱の練習をしながら探せば十分」
そんなのでいいのかな……。
まぁ冒険者として経験豊富なセリナの言うことだし、問題ないでしょ。
それに、この依頼に期限は特に定められてなかったから、どうしても今日見つけて倒さないといけないわけじゃないしね。
「よし、それじゃあ魔法使ってみるよ?」
「……ん」
返事こそ平坦でいつも通りだが、その眼には強い興味、好奇心が爛々と輝いている。
そんなセリナに苦笑を浮かべながら、近くの木に向けて右手を翳す。
そしてその右手に魔力を込め、魔法という不思議を顕現させる。
「――いっけぇ!」
右手に生まれた白い光は、そのまま矢の様な形を為し、木に向かって飛翔した。
そして光の矢は軽い音を立てて木に突き刺さ――
――ドゴォァア……!
……らずに木の幹を粉砕した。
己を支える幹を半ばから粉砕され、哀れな木は派手な音を立てながらその場に倒れる。
「「…………」」
静寂。
しばし、場を静寂が支配した。
鳥の囀りすら聞こえる静けさと空気に耐えきれず、私は話を再開した。
「――と、これが無詠唱魔法だよ。何かわかった?」
「……全く」
ですよねッ!!
「……強いて言えば、……イロハ怖い」
「う……い、いや、今のは加減間違えただけだから……」
咄嗟に言い訳の様に呟くが……解かっている。セリナが言っているのはそんなことではないということは。
本気で放ったとも思えない魔法で、さらに無詠唱でこの威力。世の魔術師達を大きく凌駕している……いや、次元が違うと言っていい。
そんな私に恐怖を抱くのは至極当然のことだ。
だからこそ、気を付けてはいたのだけれど。セリナに頼られて、思った以上に気が昂ぶっていたらしい。加減を少し間違えてしまった。
言い訳でごまかすか、どうしようかと悩む。そんな私をよそに、何事も無かったかのようにセリナが口を開いた。
「……次はもうちょっと魔力の動きに集中してみる。もう一回お願い」
「ふぇ? 次?」
私が間の抜けた返事を返すと、セリナは不思議そうに首を傾げた。
「……だめ? 消耗が激しいなら、無理にとは言わないけど」
「いや、そういう事じゃなくて……。だって、私が怖いって……」
あれ? 何か噛み合わない。
怖がられたと思って身構えていたのだけれど、セリナは意に介した様子はない。
「……魔法の技術は正直怖いと思う。でも、イロハはイロハ。馬鹿で間抜けで天然なイロハなのは変わりない」
「言い過ぎじゃないかなぁっ!?」
涙目で訴える。でも、その涙は馬鹿にされたから出たのではない。
「……イロハはイロハ。私の親友。そもそも、イロハの魔法が変態的なのはとっくに知ってる」
「うぐ……」
いちいち言い方が女の子に対するそれじゃないとは思うのだけど。
……それでも、嬉しいから困る。
「……ありがと」
「……お礼を言われる意味が分からない。むしろ、言うべきは魔法を教えて貰っている私の方」
ああそうでしょう、そうでしょうね。
無自覚、鈍感、或いは照れ屋。そんなセリナに付き合っていてもしょうがない。
とはいえ行き場のない思いはあるので、セリナの頬をつまんで発散することにする。
「……いひゃい」
「もう、ほんとにセリナは……」
呟きながら笑みを浮かべる。
そして満足して再び右手を木に向けて翳した。
「さて、それじゃあもう一回いくよ?」
「……お願い」
今度はちゃんと制御しないとね。
とは言っても少しばかり弾む気持ちを抑えるのには苦労するかもしれない。
心地よい高揚を愉しみながら、先ほどの疑問に答えておくことにした。
「大丈夫だよ。あれぐらいなら数百発はいけるから!」
「……やっぱ、イロハ怖い」
今度の“イロハ怖い”は、さっきのより実感のこもった“イロハ怖い”だった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
まだだ、まだ毎日投稿は終わらんよッ!
不定期投稿とは銘打ってるものの、半ば意地で毎日投稿を続ける所存です。(既に1日とんでいる事実から目を逸らしながら)
さておき、本日0時過ぎに『オーバーセンス』の方、更新します。
両作共に、よろしくお願いします。^^ノ




