第20話 冒険者ギルド
「じゃあ行ってくるね」
「あなたに言っても無駄かもしれないけど、気を付けてね」
それはどういう意味で無駄なのだろう。必要がないからか、出来ないと思われているからか。前者であって欲しいところだけど……。
「……私がいるから。危険はない」
「っていうかそもそも冒険者登録とセリナの特訓に行くだけだからね? 危険なんてないからね?」
なんで2人ともそう当然の様に危険と相対する気でいるの?
「イロハがそれだけで済むとは……」
「……イロハが絡んで何も起こらない訳がない」
失礼な! ……失礼なッ!
過去を顧みると否定できないのが辛いよ。
「ああもうっ! 行くよセリナッ!」
セリナの手を取ってそのまま引っ張っていく。
「いってらっしゃ~い」
ミシェルが笑顔を浮かべながら手を振ってくれる。もう旦那さんを送り出す妻の風格だね、といったら怒られるだろうか。
「確か、ここがギルドだね」
セリナを引き連れて来たのはティラネルのギルド。まずはここで冒険者登録をする予定だ。
ギルド内に入ると、中は随分と賑わっていた。
「へぇ……思ってたのと違うかも」
老若男女、色んな人がわいわいと話をしていたり、掲示板に張り出された依頼らしきものを眺めてあーだこーだと言い合っている。
悪く言えば騒がしく、良く言えば活気がある。もっとこう……訳あり人や荒くれ者のたまり場みたいなのを想像していたんだけど。
「……どう思っていたのか想像つくけど、そういうのが全く無い訳じゃないから気を付けて。言っても無駄だろうけど」
だからどういう意味なのさっきから!?
セリナの吐いた毒はともかくとして、私の中の少年心はそういうのを望んでいたりする。
突っかかってきたやられ役を軽く蹴散らしてギルド長に見初められて……ってお約束だよね!
「……あほなこと考えてないで、登録」
「……はい」
何故か私の心を見通したセリナと共に、受付へと進む。
そうすれば私よりちょっと年上ぐらいの女の人が対応してくれた。
「ギルドへようこそ。本日のご用向きはなんでしょう?」
「……冒険者の登録をお願いしたい」
セリナが私の背を押す。それによって受付のお姉さんも私が登録者だと察したようだ。
「承知しました。では、こちらに記入ください。名前以外、書きたくなければ書かなくても結構です」
「割と雑なんですね。名前……名前かぁ」
初っ端で手が止まる。
イロハ、という名はいいとして、問題は家名である。流石にフィレット、と名乗るのはどうかと思うのだ。
(ミシェルたちなら喜んで了承してくれる気がするけど、なんかやらかした時に迷惑かけちゃうし……)
いや、いい加減私がトラブルメーカーなのは理解してるよ。ついさっきも2人に言われたしね。
「……別に家名は書かなくてもいい。ギルド内での通称みたいなものだから、なんならイロハが考えてもいい」
「新しく考えてもいいの?」
セリナの意外な言葉に、思わず聞き返す。セリナは頷いて肯定した。
「……冒険者資格は、新しい“身分”みたいなもの。国に認められた正式なものではないけど、冒険者でいる間はギルドが証明してくれる。だから、ここには前の身分を捨てた人や、普段とは異なる身分を求めて来る人もいる」
「へぇ……」
セリナはその後も詳しく教えてくれた。
冒険者は各地のギルドを介し、世界で共通の身分を持つことが出来る。
例えば、高ランクの冒険者なら、世界中どこへ行っても高ランクの冒険者として一定の評価が得られる。それはギルドが保証してくれる。
国に在りながら国に属さない、というギルドの特殊な体系によって実現した第2の身分制度らしい。
「なるほどぉ……流石セリナ、詳しいね」
「……なんで撫でる」
なんでって、よくできた子はきちんと褒めてあげないと。
そんな理由をなんとなく察したのか、セリナはジト目を向けてくる。撫でる手を払いのけない辺り、嫌がってはいなさそう。
「あの……」
受付のお姉さんから声が掛かった。
……そうですね、ここで駄弁るのはマナー違反ですね。
「それじゃあ、これで」
「……名前だけでいいの?」
私は名前の欄に“イロハ”とだけ書いて、さっと提出する。
家名は要らない。私は私らしく、楽しむ為にあそこを出たのだから、余計なものは必要ない。それに下手に家名をつけると、母様と別離したみたいでなんか嫌だし。
他に戦闘の経験や、前衛後衛、得意不得意なんかを書く欄があったけど、必要ないでしょ。私の場合、戦闘に関してはどうとでもなるし。
「イロハって名前だけで十分だよ」
「……そう」
「では、手続してきますので、少々お待ちください」
そう言ってお姉さんは奥へと引っ込む。受付には私とセリナだけが残された。
「ところで、ランクって?」
この時間を利用してセリナへと質問を投げかける。セリナはこくん、とひとつ頷いてから説明してくれた。
「……ランクは冒険者資格の階級。Sを最高としてA~Gまでの8段階あって、登録したばかりのイロハは最低のGランク。多数のクエストをこなしたり、戦闘能力を認められたりすれば、ギルドからランクアップの通知が届く」
ふむ、ありきた……もとい、分かり易い形式だね。
「ランクアップの査定基準は戦闘能力がメインだけど、高位のランクになると信用も査定対象になる」
「信用?」
なぜここで信用という言葉が出て来たのか理解できず、つい口に出してしまった。
セリナは嫌な顔もせず、それについて説明を続けてくれる。
「……高位のランク、正確にはCランク以上になるには、ギルドからの信用も得ないといけない。冒険者資格は身分証明でもあるから……」
「つまり、Cランク以上の資格は、ギルドから信用を得ているって証明になる?」
セリナの説明に得心する。
冒険者資格は、誰にでも取れるという特性上、資格者の人格までは保証できない。
そして、それをギルドに保証させるほど信用や信頼を得た冒険者が、Cランク以上になれるという訳だ。
「……逆に言えば、Dランク以下の冒険者については、ギルドは何も保証しない。なんらかの事件を起こしたとしても、その被害を賠償したりはしない」
極端だなぁ、という感想を抱かざるを得ない。が、その反面よく出来ているとも思う。
本当の意味でギルドの、冒険者資格の恩恵を受けられるのはCランク以上、というわけだ。言ってしまえば、Dランク以下は見習いの様なもの。
だがそれが、世界に散らばる規模の大きさと、身分証明という信用を両立させているのだろう。
「なんか……思ったよりもめんどくさそう……」
そんな私の呟きはギルド内の喧騒に呑まれ、セリナを呆れさせるに留まった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
奇しくも『オーバーセンス』と同じタイミングでギルドの話になりましたね。
その『オーバーセンス』は今夜0時ごろ更新予定です。どうかよろしく^^ノ




