第21話 セリナのランク
「お待たせしました」
ちょうど私とセリナの話が一区切りついたところで、受付のお姉さんが戻ってくる。
手にはハンコの捺された先ほどの書類。申請は通ったって事かな。
「イロハ様の冒険者登録は受理されました。後日、資格札を発行しますので、5日後にまた来ていただけますか?」
「資格札?」
「……冒険者証明のこと」
ああ、つまりIDカードね。いや、イメージ的な話だよ?
「それまではこちらの仮資格札をお渡しします。これでクエストの受注も可能です。ただし、まだ身分証明には使えませんのでご了承ください」
そう言って小さなカードを渡される。よく分からない数字しか書いてないが、見た目は本当にIDカードだ。
「他にご質問はありますか?」
「いえ、大丈……あ、手っ取り早くランクアップ出来る方法ってあります?」
私の言葉にお姉さんは一瞬面食らった様だったが、すぐに落ち着いて対応してくれた。
「……そうですね、際立った戦闘能力を見せることでその可能性はありますが……機会があるとすれば王都での闘技大会でしょうか」
「――闘技大会ッ!!」
何それ出たいやりたい戦いたい!
前のめりになって全力で反応する私に、若干引いたような表情を浮かべるお姉さん。
……すいません、少し落ち着きます。
「んんっ……、それは私でも出られるんですか?」
「ええ、冒険者向けの大会です。期日までに王都で申請さえすれば、全ての冒険者に参加資格があります」
「その期日は?」
「およそ30日後ですね」
1か月後か。
この世界の地理が分からないから、間に合うのかどうか判断できない。王都ってどこさ……。
「……ここから王都まで、徒歩で約10日」
私の内心を察したのか、横からセリナが教えてくれる。
10日……余裕を見て15日として、出立は2週間後かな。出場するなら、だけど。
「……出場るの? イロハ」
「んー……悩み中。だけどいつかはティラネルを出るんだし、いい機会かなとは思うよ」
このままずるずるとこの町に居すわってちゃ、何のために出てきたのかわからないしね。
アリアスさんのご飯が食べられなくなるのは辛いけど。……ほんと辛いけどッ!
割と本気で胃袋を掴まれかけているのを自覚しながら、私達はお姉さんに礼を言って受付を後にした。
「まぁそれについては後でミシェルと一緒に相談するとして、とりあえずはセリナの特訓だね」
「……ん、お願い。ついでにクエスト受けてみる?」
セリナの言葉で、ギルドの一角にある掲示板に目をやった。
相変わらずたくさんの人で賑わっている。
「特訓ついでに初クエストか……。いいかも」
というか実はさっきから気になって仕方なかったんだよね。
仮の資格札でもクエストの受注は出来るらしいし、行ってみますか!
そうと決めた私達は掲示板の前まで移動する。
「どれがいいかな……?」
掲示板を見ると依頼内容が書かれた紙が所狭しと貼りつけられている。ざっと3,40枚くらいはありそうだ。
内容を見ると、イノシシ狩りにゴブリンの討伐、薬草の採取といったオーソドックスなのが並ぶ。
他には……畑仕事の手伝い、壊れた屋根の修理に落し物の捜索依頼……便利屋かッ!
「……決まった?」
「いや、うん、ちょっと待って。今理想と現実の違いを噛みしめてるから……」
こめかみに手を当てて、痛む(気がする)頭を揉みほぐす。
とりあえずあれだ、セリナを撫でて落ち着こう。
「……なに?」
嫌そうな声は出すけど振り払いはしないセリナ。かわいいなぁもう。
「よっし。どれにしようかなぁ」
セリナに癒されたところで、気を取り直して掲示板に視線を戻す。
「……いいのがないなら、これを受注する」
そう言ってセリナが掲示板の上の方に貼られた依頼書を取……ろうとして届かなかったので、苦笑いしながら私が代わりに取った。
そしてそのまま内容を確認する。
「んーと、魔物“ゴーストスパイダー”の討伐?」
なにそれ気持ち悪い。
「あれ? これは無理でしょ? 募集要項に“Eランク3人、又はDランク以上1人”って書いてあるよ」
募集要項っていうのは依頼主かギルドが定める受注条件。
この場合、Eランクが3人以上か、Dランク以上が1人いるパーティしか受注出来ないという事。
私のランクは正式にはまだないけど、おそらくはGランク扱いでしょ。
「もしかして取り間違い? ねぇセリナ?」
「……間違ってない。私がCランクだから問題も無い」
おや、取り間違いの次は聞き間違いかな? まだまだ若いつもりだけどもう体が言うことを……ってそんなバカなッ!?
あまりに予想外な言葉に錯乱してしまった。
冗談はおいといても……え、Cランク? マジで?
「……なにその反応。言っとくけど嘘じゃないから」
私の反応に不服そうなセリナはポケットの中に手を突っ込み、何かを取り出した。
ん? さっきのIDカード、もとい資格札?
セリナから渡されたそれを見る。そこには私の仮札とは違い、文字が印字されていた。
「んと……“セリナ・イクセ”、“冒険者ランク【C】”…………えぇ……?」
セリナを見る。そして資格札に視線を戻す。そしてまたセリナを――
パコン
「痛いッ!?」
「…………」
痛みで頭を押さえていると、セリナがもう一度杖を振り上げる気配を感じ取る。
「ちょっ! ごめんっ信じる! 信じるからッ!」
私の魂からの叫びでようやく溜飲を下げたのか、セリナは杖を降ろした。
なんでかわかんないけどほんとに痛いんだよその杖……。
「……イロハ、失礼」
「いやだって、セリナの年齢でCランクって……そんな直ぐには信じられないよ」
Cランクということは既にギルドの信用を得ているということだ。
冒険者としての能力はあの魔法の腕を見れば納得できるとしても、こんなに小さいのにもうギルドの信用を得てるって信じがたいでしょ。こんなに小さいのにッ!
「……私、17」
「……なにが? 今までボコにした人の数? ――いや冗談ですごめんなさい!」
再び杖を振り上げるセリナを慌てて制する。
いや、でも、まさか、ねぇ……?
「……17歳。今の年齢」
「マジスカ……」
思わず棒な上に地球の言葉が出た。
言葉の意味が分からず、セリナもキョトンとしている。
「え、17歳? ほんとに?」
「……しつこい。正真正銘17歳」
旅に出てから一番の衝撃的事実に、私はしばらく頭が回らなかった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。。




