第19話 私のすべきこと
「……イロハ。無詠唱、私にも使える?」
「ふえっ……?」
私がお店の手伝いをしていると、セリナが唐突にそんなことを言ってきた。
ていうか少しぐらい手伝ってくれたらいいのに……。
って言ったら『確実に何かが壊れるけど、いい?』なんて言われた。どんな因果をもって生まれてしまったのだろうか。
で、なんの話だっけ? ああ、無詠唱ね。
「んーと、わかんない……。私も意識して使ってる訳じゃないし」
「……そう」
その答えに、セリナは悔しそうな、残念そうな声で呟いた。そんなセリナに、一つ提案してみる。
「あ、じゃあ一緒に練習してみる? 出来るかわからないけど」
「……んっ! お願いする……!」
さっきとは打って変わって嬉しそうな声だ。釣られて私まで笑みを浮かべてしまう。
「イロハ? 店の手伝いは……?」
「うぐ……」
後ろから冷たい声が掛かる。
「え、えぇっと……し、仕事終わってから、夜やろうかなって?」
「はぁ」
ため息吐かれた。すごい大きいため息を吐かれた……。
「イロハ、夜に出歩くのはやめなさい。いくら強くったって、女の子なんだからね」
そこらの通り魔にどうこうされるほど弱くない、って言おうと思ったら先に言われた。
なんかミシェルには頭の中を見通されてるような気がする。私が単純なだけ? ……そですね。
「…………午後は休みにしてあげるから、その時にしなさい」
気を遣ってくれたミシェルがそう言ってくれる。
私は感極まってミシェルに抱きついた。
「ありがとっ、ミシェル♪」
「ちょ、ちょっとイロハ! 仕事中よっ!」
そう言えばまだ店内にお客さんがいた気もするけど気にしない。
「……ありがとう」
「セリナが私に礼を言うなんて珍しいわね。それだけでも休みにした価値あるかしら」
ミシェルとセリナがそんなことを言い合っている。なんだかんだでこの2人は仲がいいね。
「おっし! そうと決まったらぱぱっと仕事片付けちゃおう!」
そう宣言して店の奥に引っ込もうとすると、後ろから声が掛かった。
「イロハ…………ついでに冒険者登録もしてくるといいわ。いつか……旅に出るなら、きっと役に立つから」
おお、冒険者登録! 小説や漫画の中では何度も見たアレを遂に私が!
「うん! わかった、ありがとうねミシェル!」
妄想を膨らませながら、そのまま私は店裏での雑用をこなしていった。
***
可愛い笑顔を浮かべてイロハは奥に引っ込んだ。店の中に残されたのは私を除けば、数人の客と、イロハが拾って来たちんちくりんだけ。
「なによ?」
そのちんちくりん、もといセリナがジー……っと私に向けて視線を向けている。
営業妨害で訴えてやろうかしら。
「……意外」
「…………」
いつも言葉足らずの彼女だが、今回はいつにもまして言葉が少ない。それでも、言いたいことはだいたい察せられた。
「あなただって、イロハに勧めるつもりだったんでしょ?」
「……当然。イロハなら冒険者登録しておけばいくらでも稼げるし、旅をする上での身分証明にもなる」
そう、世界中に点在する“ギルド”を介して、各国で共通する“身分”を持つのが冒険者。それはこれから旅をするイロハにとっても必要なモノだろう。
「……でも、貴方がそれを言うとは思わなかった。だって……」
「イロハが旅に出るのを後押しする行為、でしょ? わかってるわよ、それくらい……」
そりゃあ私だって、イロハにずっとここにいて欲しいと思ってる。でも、私がそれを言うと、イロハは苦笑いしながら了承しちゃいそうな気がする。それはダメだ。
あの子は旅をする為に親元を離れてわざわざ出て来た。私がそれを邪魔しちゃいけない。
なにより、イロハはこんな小さな町に収まる子じゃない。世界に飛び出したら、さぞかし世界を振り回してくれるんだろうな、と有り得ない期待を抱かせてくれる。
なら、私のすべきことは、イロハがより安全に旅を出来るようにしてあげることと、その時に、笑顔で送り出すことだ。
「……イロハを、私の家族をお願いね、セリナ」
「……任された」
そう応えると、セリナはイロハのいる裏へと歩いて行った。それを見て私は苦笑する。
全く、本当にイロハに懐いたものだ。たった1日かそこらであそこまで懐くとは、それだけ色々あったのか。
トロールの件は2人から聞いている。イロハはどうか知らないが、セリナはトロールを相手にするのは、それこそ決死の覚悟だったろう。
誰かの為にそこまで出来る子だから、信用できる。少しばかり無茶が過ぎる気もするけど。
まぁあの2人なら、少々の無茶は軽くなんとかしてしまうだろう。
「……旅に出ても、たまには元気な姿見せに来なさいよ? 2人とも……」
私は誰にも聞こえない声でそれだけを呟き、気を取り直して仕事へと戻った。
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