第16話 ラスボスというかライバルというか……
「了承♪」
言い訳なんて必要なかった。
セリナを連れて帰宅し、事情を話した1秒後にはその答えが返ってきた。ていうかまだ事情を話しただけで、泊まらせてあげて欲しいとはまでは言ってないんだけど……。
「貴方達の顔と態度を見ればわかるわよ。仲良さそうに手も繋いじゃって」
うふふ。と頬に手を当てながら笑みを浮かべる。完璧だよアリアスさん……。いや、それはおいといて
「本当にいいの?」
「もちろん。1人増えるのも2人増えるのも同じことよ」
「――ありがとう、アリアスさん」
「……ありがとうございます」
あっけらかんと答えたアリアスさんに、頭を下げる。それに倣ってセリナも続いた。
「いつまで経ってもどこか他人行儀ね。“お母さん”って呼んでくれていいのよ?」
「私にとって“お母さん”みたいな人だとは思ってるよ」
それは本音。
だけど、私には本当の“母様”も、“お母さん”もいるから。“お母さん”とは最期まで仲違いしてたけど。
「……そう、良い子ね」
アリアスさんはそう言って私を撫でてくれる。少なくともお母さんらしさでは、本物を差し置いてぶっちぎりかなぁ。
セリナの目の前でされるのはなんか恥ずかしい。友達の目の前で親に褒められた気分。いや、まんまその状況か。
「さて、“お母さん”は夕御飯の支度をしてくるわ。3人で仲良く待っててね」
そう言ってアリアスさんは居間を出て行った。
……そう、3人だ。今、部屋にいるのは私、セリナ、そしてその正面には先ほどから一言も発していないミシェルがいる。
「あの……ミシェル? 改めて紹介するね、この娘はセリ――」
「あなた、名前は?」
「……セリナ」
何故か私の仲介を無視して勝手に会話が進められた。
「……貴方が、ミシェル? イロハから聞いた。2人仲良く帰ってきた時に」
ん? なんか今、一部分をえらく強調したような……。
「……そう。なら聞いてるでしょ? 私がイロハの親友で家族のミシェルよ。通りすがりでメギルさんたちを助けてくれてありがとうね、セリナちゃん」
「……セリナでいい、子供扱いしないで。それとお礼は要らない。イロハとも仲良くなれたし」
あれ、なんだろう、凄く寒い。
なんだか2人が嬉しいことを言ってくれてるような気がするけど、頭に入って来ないよ?
「「…………」」
2人して黙って見つめ合っている。もう意気投合したのかな? ……したんだよね?
「あ、そ、そういえばミシェルに頼まれた荷物、ちゃんと馬車の中に――」
「そんなのどうでもいいわ」
どうでもよくはないと思うの。
「ところでセリナちゃん? 急な話だったから、あなたの分の食材がないの。悪いけれど自分の分は買って来てくれないかな?」
「わ、私の分を半分にして――」
「イロハは黙ってて」
「……はい」
逆らう? とんでもない。
今のミシェルの迫力は母様よりも上だよ。
「……分かった。でも私は道が分からないからイロハに案内してもらう」
「そう大きな町じゃないし、自分で探せるでしょ? 子供じゃないんだし?」
「…………性悪」
そもそもフィレット商会で食材扱ってるでしょ。……という突っ込みは出来ない。出来ないったら出来ない。
私の耳元に届くパチパチという音はアリアスさんが出している料理の音だよね? 間違っても目の前の2人の間で鳴ってないよね?
この状況に頭を抱える。どうしてこうなったのか……。
(……嫌だな)
ミシェルも、付き合いは短いけどセリナも、私にとって大事な友達だ。それに嘘も間違いもない。
その大事な2人が今、睨み合っている。居心地が悪いとか、疎外感とか、そんなことよりも悲しみが心に浮かぶ。
このままでいい? そんな訳がない。
口をはさむのが怖い? 何よりも怖いのはこのまま2人がいがみ合い続けることだ。
喧嘩を止めたい? どうしたい?
(決まってる。――3人で仲良くしたい!)
せっかく出来たこの世界での友達だ。仲良くせずにどうしろというのか。
「そこまでぇーー!!」
「わきゃっ!?」
「……イロハ?」
無理やり2人の間に割って入る。
突然の私の行動に、2人は目を丸くしていた。構わず私は続ける。
「ミシェル! 今から私とセリナで食材買って来るから!」
「ちょ、ちょっとイロハ!?」
「私だってミシェルの親友で家族なんだから! 遠慮なく言いたい事言うよ!」
言い募ろうとするミシェルを遮って言い放つ。呆気にとられたのか、ミシェルは押し黙る。
「セリナ! これからお世話になるんだから仲良くしなさい!」
「わ、私は別に……」
「言い訳しない! 仲良く出来ないなら町の宿に泊まらせるよ!」
「うぐ……はい……」
2人して黙りこむ。
おや、案外あっさり落ち着いたね。別に私が怖がられてる訳じゃないよ? ないよね?
「……ミシェル、ごめん。お世話になる訳だし、お金は出す」
「いいよ、お金ぐらい。こっちこそごめんね、セリナちゃ…………セリナ」
そう言って、2人で薄く笑みを浮かべる。どうやら嵐は去ったようだ。
「さて、それじゃあ私とセリナは買い物に行ってくるよ」
「……ん」
セリナも私に応えて立ち上がる。そこに制止の声が掛かった。
「いいよ別に。ていうか食材がセリナを除いた4人分ピッタリな訳ないじゃない。お母さんが適当に調整するよ」
「「…………」」
私とセリナのジト目がミシェルを襲う。やっぱり性悪……いやなんでもないです。
「なによ……謝ったでしょ」
私達の視線から逃げるようにミシェルが立ち上がる。
「ほらセリナ来なさい、あなたの部屋に案内するわ。空き部屋だから何もないけど我慢してよね」
「……ん、納得いかないけどありがとう」
セリナは少しばかり不満を顔に出しながらミシェルに追従する。私はそれに苦笑しながら2人に続いた。
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