第38話
星田さんはいずれ分かる時が来ると言って黒幕を教えてくれなかった。
まずは官僚達だ。
このまま反乱軍がやられっ放しでは、国軍も勢い付いて計画を完遂し兼ねない。
反乱軍としては官僚を抑える事を中心に動く事とした。
しかし、国軍は侵略の手を緩めることはない。
各国の支部には自国のスパイを守る為に、赤聖国スパイの侵略を阻止するように指示を出した。
陽国の本部と赤聖国支部には官僚の拘束を指示した。
僕は本部で各国の仲間からの報告を聞いては指示を出しての繰り返しをしていた。
ある日、百合根と名乗る者から手紙が届いた。
【登美氏がお亡くなりになられ、波多氏が後を継いだと聞き、お伝えしておきたい事が御座いまして連絡させて頂きました。私、百合根は兼ねてより登美氏に赤聖国の内部情報を密かに伝えて参りました。この度、後を継がれた波多氏との信頼関係を築きたいと思い、対面の場を用意させて頂きました。お手数では御座いますが次の満月の夜、月が昇りきった時刻に赤聖国の邪馬公園にてお待ちしております】
百合根。地下塾の時に紀伊崎のアシスタントをしていた女性か?
次の満月は3日後だ。
副隊長の島村に百合根の事を聞いてみると、確かに何度か手紙が届いていたと言う。
本部を島村に任せて僕は赤聖国に向かった。
邪馬公園とは僕の家の近くで、よく立ち寄っていた公園だ。
言われた日時に公園へ行くと、ベンチに女性が座っていた。
「お待ちしておりました。お久しぶりです、波多くん」
「やはりあなたでしたか。お久しぶりです」
「お一人ですか?」
「はい。その方が良かったでしょ?」
「ええ、もちろんそうでなければ困りますが。国軍の人間と会うのに隊長が無防備に来るなんて」
「もちろん護衛を付けようか迷いましたが、あなたが何度も登美さんとやり取りしていたと聞いていたので信頼してみました」
「ありがとうございます。これで私が望む信頼関係の築きが出来ました。これを」
百合根はバッヂを出してきた。
裏には何かモニターのようなものが付いている。
「これから送る手紙にこのバッヂを近づけると、裏のモニターに暗証番号が表示されます。手紙を開ける時に必ず記入して下さい」
テスト用の手紙を渡され、その場で実践してみた。
封筒の裏には手書きで0から9までの数字が書いてある。
バッヂを近づけると「5913」とモニターに表示された。
手書きの数字を「5913」の順で触れると、封筒の口がパンッと開いた。
「すげー。これどういう仕組み?」
「あまり口外出来ませんが、大まかに言えば封筒全体に電気信号が流れています。タッチパネルのような感覚で暗証番号を記入していると思って頂ければ」
「なるほど。かなりコストの高そうな封筒だね」
「はい。なので本当に重要な情報しか送りません。これが届いた時は心して開けて下さいね」
顔はニコリと笑っていたが、目の奥は真剣だった。
僕はバッヂをポケットに入れて赤聖国支部に戻った。
ソファに座った時、ズボンの後ろポケットで紙が入っている感覚があった。
百合根だろうか。
紙を取り出して読むと、官僚の1人である卓さんが陽国に乗り込むと書いてあった。
陽国に本部があることがバレたのか、それともただ単に近い国の反乱軍から潰そうとして選んだだけなのか。
どちらにしろ、官僚自身が動くとなればこちらも黙っている訳にはいかない。
早速陽国の本部に戻り、卓さんの動向を監視させた。
2日後、卓さんが陽国に入ったという連絡が入った。
僕は早速現場に向かい、卓さんを待ち伏せした。
「お久しぶりです、卓さん」
「……。純くんか?」
「はい。合宿ではお世話になりました」
「遠い昔の話だね。でも君のことはハッキリ覚えているよ」
「陽国には何をしに?」
「分かっているくせに。君は反乱軍の隊長で、俺は赤聖国の官僚だ。やる事はただ一つだろ?」
ジャケットの下には拳銃が入っているのだろう。胸元が少し膨らんでいた。
しかし卓さんが出したのはナイフだった。
やはりこの場で決着をつけるしかないのか。
「卓さん、僕たちには殺し合う以外に方法はないのでしょうか」
「純くん、君は優し過ぎる。多くの隊員は今でも命懸けで戦っているんだ。現に、純くんが今の地位に居るのも命懸けで戦った人が居るからだろ?」
卓さんが右手のナイフを振り上げながら僕に向かって走り出した。
振り下ろされたナイフをかろうじて避けた僕は体勢を崩して尻もちをついた。
すかさず次の攻撃を出してきた卓さんの足元を回し蹴りしてナイフの軌道を変えた。
僕の横にナイフが振り下ろされた瞬間に卓さんの顔を殴った。
倒れた卓さんが落としたナイフを奪って首に刃をつけた。
「さすがだな。あの時から更に強くなってる」
「卓さん、やはりこのままあなたを殺すなんて僕には出来ません。もうあの計画から手を引いてもらえませんか」
「純くんは本当に優し過ぎる。それは無理だ。俺が立てた計画ではないが、賛成したのは事実。今更引き下がれないよ」
そう言うと、卓さんの首に付けていた僕のナイフを握って、卓さんは自らナイフを横に引いた。
どんどん血が出てくる卓さんは笑いながらこう言った。
「君は赤聖国を止める唯一の人物だ。黒幕を知っているかい?」
「し…知りません」
「そうか。その方がいい。最後、黒幕に行き着いた時、全力で戦って勝つんだ。そして赤聖国を救え」
卓さんは力尽きたように全体重を僕の体に預けた。
どんどん冷たくなる卓さんを腕で抱えながら僕は涙を堪えていた。
卓さんは満足そうな表情だった。
卓さんの死によって、陽国のスパイすり替わり作戦は中止となった。
なんとか阻止できた僕たち反乱軍は、このまま赤聖国に乗り込んだ。




