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赤聖国で生まれた僕は  作者: 真灯出愼
第4章ー始動ー
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第31話

 僕は両手を上げて無抵抗の意思を示した。

侯国の人が僕を地面に倒して押し付けるように拘束した。

そのまま後ろ手に拘束され、先ほどユウが座っていた椅子に座らされて足も椅子に固定された。


「久しぶりだね、松田くん」


 話しかけてきたのはユウを追っていた時に組んでいた侯国の公安の相棒だった。


「まんまと騙されたよ。まさか君が赤聖国のスパイだったなんてね」

「あなた達も知っているだろ。赤聖国民はありとあらゆる場所に潜入している。もしかすると今も僕以外に赤聖国のスパイが居るかもしれないね」


 周りの人間を見渡すと、2人ほどかすかに反応した者がいた。

まあいい。

こんな言葉で反応してしまうということは、まだ経験値の低い証拠だ。


「ではまずあの時どうやって侯国の公安に潜入出来たのか教えてもらおうか」

「なんだ。そんなことか」

「そんなことかとはどういう意味だ? 公安に他国のスパイが潜入されるのは最も国が危険にさらされるというのは君も分かっているだろう。だから我々はそのスパイの潜入ルートを解明しなければいけないのだ」

「いいよ。教えてあげる」

「えらく素直だな。嘘と分かれば電流を流すぞ」

「嘘なんて言わないよ。それぐらい簡単なルートさ。僕は公安の試験を受験した。そして君たち公安が僕を採用した。それだけだ」


 喋り終えた途端、身体に電流が流れた。

拘束している紐が電流を流す線のようだ。

急な電流に少し息が詰まった。


「ははは。赤聖国のスパイでも電流は苦手かな? 嘘はつくなと言ったはずだ。公安の採用試験では受験者の過去や身辺を徹底的に調べる。赤聖国民のお前が受かるはずないだろう」

「困ったな。僕は本当の事しか言ってないのに」

「黙れ! さっさと本当の事を吐け!」


 再び体中に電流が流れた。

しかし、何度も効くわけがない。

これぐらいの電流、地下塾で何度も受けてきた。

耐性は出来ている。

しかし相手もそれに気付いたのか、別の手に出てきた。

酸素マスクのようなものを顔につけられると、急に全身の力が抜けた。


「さて、これで電流も諸に受けることになる。そろそろ吐かないかい?」

「……僕は……嘘を言っていない……う゛っ!!!」


 力の入らない体全身に電流が流れる。

流石にこれを受け続けると僕も耐え切れない。

しかしこれ以外の答えはないのだ。


「ハア……ハア……ハア……」

「もう声も出せないか?」

「……どんな……答えが……欲しいんだ……?」

「俺は初めから同じ質問しかしていない。質問を変えた覚えは無いぞ? 公安に潜入出来た方法を教えろと言っているんだ」

「……だから……試験に……あ゛あ゛!!」

「仕方ない。別の方法に変えるか」


 そういうと全員部屋を出て行った。

すると体を拘束していた線が解け、僕は椅子の下に崩れ落ちた。

立ち上がる体力も残っていない。

すると何やら水のようなものが流れてきた。

部屋は密閉されており、どんどん水が溜まっていく。

10分もしない間に床に仰向けに寝転んでいた僕を沈めようとするほどだった。

体力も戻り、椅子の上に座った。

すると天井にあるスピーカーから話しかけてきた。


「この部屋が満水になるのは30分後だ。さて、質問に答えてもらおうか」

「何度も言うが、僕は公安の試験に受かった。それだけだ。それ以外にルートが思い当らなかった。僕の経歴は侯国の役所から盗み出したものだ。実在する人物になりすましたのだから経歴でバレることはない」

「なるほど。しかし、ちゃんと住所にも偵察は行って調べている。まさか元の人物の家族と住んでいたとでも言うのか?」

「住所をそのまま提出する訳ないだろ。住所は書き換えて、なりすます人物の家庭を完全再現していたのさ」

「お前以外にも仲間がいたのか?」

「ああ、その時だけの仲間がいたよ」


 こうしている間に椅子に座る僕の肩まで水は溜まっていた。


「聞かれた事は話した。解放してくれ」

「それは無理な話だ。赤聖国のスパイを捕まえたらスパイ活動の方法を聞き出して殺せと言われている」

「なるほど。始めから殺す気だったのか」

「悪いがそのまま水死が君の運命だ」

「最後にひとついいか?」

「何だ、言ってみろ」

「あんたの周りにいるのも全て赤聖国のスパイだが、そいつらも殺すつもりか?」

「何を言っている。こいつらは侯国で選び抜かれた精鋭だぞ」

「そりゃそうだろうね。赤聖国のスパイはほとんどの国の公安より優れている。潜入した場合、精鋭に選ばれるのは必然だ」


 するとスピーカーでの通信が途絶えた。

後は向こうに居る赤聖国のスパイにこの水を止めてもらうか扉が開けてもらうのを待つかしかない。

先ほど使っていた酸素マスクを持って天井のスピーカーの解体を始めた。


 その時既に水が部屋の3分の2を上回っていた。

水位が上がって天井には裕に手が届いた為、作業もしやすかった。

少しでも長い間空気を吸っていられるように配線を通す穴に酸素マスクの管を通し、引き抜いた線を穴の隙間に詰めて水が配線の穴に浸入するのを防いだ。

後は酸素マスクに開いている紐を通す穴も塞ぎ、準備完了だ。


 水は天井に到達し、僕は予定通り酸素マスクから空気を吸って生き延びていた。

10分ほど経ったころ、扉を叩く音が聞こえた。

水が満タンの部屋の扉を開けるのは一苦労だろう。

しかし僕は待っていることしかできない。

すると扉に穴を空けたのか、徐々に水が減っていく。

天井との隙間が出来て酸素マスクを取っても息が出来るほどの空間が出来た。

そして地面に足がついたころ、部屋の扉が開いた。


「遅かったじゃないか」

「すまない、少し手間取ってしまった」

「あと10分遅かったら死んでいたよ」

「それにしても満水の状態で生き延びるとは、さすが名高い松田くんだよ」


 別室へ行くとユウと侯国の元相棒が拘束されていた。


「ユウ。今度ばかりは赤聖国側としても許しがたいね。これは那国の指示か?」


 ユウは力無く首を横に振った。

ユウの独断による行動だったようだ。

この事は赤聖国にも報告し、赤聖国政府は現在那国に手を貸しているスパイ全員を撤退させた。

那国にとってはかなりの痛手だった。


 ユウは侯国に“赤聖国のスパイを捕まえることが出来たら那国の国民の今後の平和だけは守ってやる”とでも言われたのだろう。

しかし、侯国は始めからそんなつもりはなかった。

侯国としては那国を唯一手助けをする国である赤聖国を那国から離したかったのだ。

侯国の思惑通り、赤聖国は那国から全面撤退した。

今回の侯国との取引はユウの独断だった為、ユウは那国からも追放されて行き場を失った。

那国もユウの勝手な行動で頼りにしていた赤聖国からも見放され、必死に守っていた国民にまで他国の圧がかかり始めていた。


 僕は赤聖国に、那国の国民だけは安心して暮らせる国であるように手を貸してあげて欲しいと頼んだが、流石に受け入れてくれる事はなかった。


 報告の為、上司である湯川ユカワに電話をかけていた。


「松田くん、君はお人好し過ぎるよ。君は殺されかけたんだぞ? なぜそんな奴の為に頭を下げれるんだ」

「確かに僕の命を狙ったのは許せません。しかし、それはこちらの話で国民には関係ありません」

「それは分かっている。だからスパイは無責任な行動をとってはいけないし、常に国民の命を背負っている事を忘れてはいけないのだ」

「すみません。少し感情に流されていました」


 僕はスパイとして少し優しすぎるのかもしれない。

たくさんの任務をこなしてきたが、僕はまだまだ未熟だ。


「分かればいい。ところで松田くん、紀伊崎を覚えているか?」

「小学校の時に通ってた塾の塾長ですか?」

「そうだ。その紀伊崎が君を呼んでいたよ。5日後の正午、君が始めて紀伊崎と会った場所で待っていると」

「分かりました。失礼します」


 僕は電話を切った。

今回ばかりは僕も那国にこれ以上の手出しは出来ない。

さて、久しぶりに赤聖国に戻るか。

指示された場所に向かう為、那国を後にした。

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