第28話
赤聖国を出て透国に向かった。
久しぶりの透国はどこか懐かしくて故郷のような感じがした。
ここは赤聖国を初めて出た時に来た国だ。
拠点となる部屋は前と同じ場所だった。
あの時仕込んでおいた回線はまだ使えそうだ。
パソコンを繋ぎ透国の政府機関をハッキングした。
何の苦労もなく最深部まで到達し、様々な情報を盗み出した。
そう言えばあの時の井戸にあった部屋は何だったのか気になる。
ハッキング作業がスムーズに行ったので時間も出来た。
散歩ついでに井戸へ向かった。
まだ誰かが使っている形跡がある。
周囲を警戒してから中に入った。
奥まで進んで行くとあの腰高さの扉があった。
鍵が開いている。
人の気配はない。
そっと扉を開き、中の様子を伺うと階段があった。
中に入って階段を下りて行くと、小学校の時に通っていた地下塾とそっくりな空間が広がっていた。
なるほど。あの時、この部屋に入っていたら塾からやり直せという事だったのか。
多分、この塾の施設で赤聖国と同じ授業内容を受ける羽目になるのだろう。
少し懐かしさを感じていると人が入ってきた。
「誰だ!」
「あ、すみません、僕はその……」
「何者だ。名を名乗れ」
「松田です。松田翔と言います」
「何? あの松田くんかい?」
男は僕を知っているようだが、僕は知らない人だった。
「どこかでお会いしてますか?」
「いやいや、僕が勝手に知っているだけさ。君は赤聖国の中では有名人だよ」
僕が赤聖国で有名人?
なぜそうなっているのか、僕はまだ分かっていなかった。
「何かの任務でこちらに?」
「あ、いえ。初めて国外任務をした時にここに来た事があって」
「ああ、認定試験の任務ですか。松田くんならこの部屋には入って居ないでしょうね」
男は東と名乗り、この場所と初任務について教えてくれた。
赤聖国のスパイとして働く意思を示した者は、必ず最初の任務でこの透国に訪れる。
そして僕が受けた任務と同じ事をして、この部屋に入った者は不合格。
1カ月の強化授業をここで受けなければいけない。
合格者はそのまま他国の任務に配属される。
「もう少しで授業が始まるんです。お時間があれば受けていきませんか?」
今日1日ぐらいなら時間はある。
その不合格者達と授業を受ける事にした。
確かに赤聖国で受けてた授業よりはハードだったが、他国の任務をこなして来た僕からすれば手応えのない授業だった。
終了後、ヘトヘトになりながらも生徒達が僕に駆け寄ってきた。
「松田さんですよね! うわぁ、本物だー」
「僕ってそんなに有名人なの?」
「そりゃあもう。任務完遂率100%なんて凄い所の騒ぎじゃないですよ」
そんなに褒められると照れる。
目を輝かせている生徒達はほとんどが中学を卒業したばかりの16歳だった。
僕はいつの間にか20歳を過ぎ、立派な大人になっていた。
激励だけして僕は井戸の中の教室を去った。
透国での謎も解決した。
今回の任務をさっさと終わらせよう。
僕は少しばかり晴れやかな気持ちになっていた。
部屋に戻ってハッキングで得た情報を整理し、とある場所へ向かった。
待ち合わせしたのは陽国のスパイであるヤマネ。
「松田さん、頼まれてた物です」
そういって僕に小さな紙袋をくれた。
僕は変わりに封筒を渡し、その場で別れた。
紙袋の中には拳銃が一挺。
僕が渡した封筒の中にはとある資料が入っていた。
ヤマネが現在の任務で必要としている透国の情報だ。
僕はその足で透国の不法地帯へ向かった。
もちろん拳銃を使うつもりは無いが、不法地帯では何があるか分からない。
護身用というわけだ。
今回の任務は透国の不法地帯を消滅させること。
治安維持の清掃作業のようなものだ。
不法地帯に一歩踏み込めば、先ほどまでの穏やかな田舎風景とは全くの別世界。
こんな場所があったのかと驚くほどに。
子供が楽しそうに走り回っているのを横目に、どんどん奥へと進んでいった。
途中、目つきの悪い大人たちに睨まれたが襲ってくる様子は無い。
ボスを探すのは一苦労しそうだと思い、1人の男性に声をかけた。
「すみません。ここの責任者ってどこにいますか?」
「ああ? なんだてめぇ。政府の人間か?」
「まあそんなとこです」
「こんなガキが政府の人間だとよ!」
周りに居た大人たちが一斉に笑った。
「で、責任者は?」
「いねえよ、そんな奴。いちいちまとめる奴が居ると思うか? 僕ちゃん」
完全に舐められている。
しかし、ここで怒っても何も解決しないので我慢して、誰に交渉すべきか考えた。
「政府のガキが何しに来た」
少し歳をとった、いかにも権力を持っていそうな男性が後ろから出てきた。
――――この人でいいや。
「ここを立ち退いて頂きたいなと思いまして、交渉に参りました」
「ここを出て行けと?」
「はい」
「そりゃ無理な相談だ。俺達は追い出されてここに逃げてきたんだ。ここを出たら居場所が無い」
「まあ、そうですよね」
当然の答えが帰ってきた。
しかし僕もただで立ち退けとは一言も言っていない。
「なので、一つのビルを用意させていただきました。定員は1000人。ここには900人ほど居ると聞いてます」
「ほう。ビルに移動しろと言う訳か。しかし俺達は仕事なんてしていないから家賃など払う金はねえぞ」
「もちろん存じ上げています。そこで交渉と参りませんか?」
「何だ? 言ってみろ」
「ビルに移住し、住所を与える代わりに透国の兵士となっていただきたいのです」
「兵士だと?」
「言葉が悪いですが、こんな場所で住めるぐらい忍耐力のあるあなた方にはピッタリの職業だと思いますが」
男は少しの間考えて、1週間後にまた来いと言ってどこかへ帰っていった。
僕も今日のところは引き上げた。
1週間の間に不法地帯中の人々に意見を聞くのだろう。
賛成か反対か。
待っている1週間の間に僕は不法地帯で見た男の素性を調べていた




