第27話
峡国…日本語圏の国。赤聖国と隣接した国で、表向きは友好関係を築いている。人口は約6000万人と小さな国だが、殆どの国民がハッキング技術を身につけているハッカー王国。
号国を離れてから僕はいくつかの国で任務をこなしてきた。
そして次の国は「峡国」
この国にはハッカーが多く存在するが、基本的には一般市民だ。
しかし一部は国が雇っている天才ハッカーが、他国のサーバーにハッキングして情報を盗み出しているという。
サイバーテロによる各国の被害は大きかった。
そして、サイバーテロで最も狙われやすいのが赤聖国だった。
スパイだらけの国に潜入するのは極めて困難だが、ネットは別だ。
どこも似たような対策しか出来ない為、情報を奪うには最も適している。
今回は峡国のハッカーを探し出して拘束するという任務である。
峡国は赤聖国に隣接しており、お互いに行き来する国民が多い。
表向きは友好関係を築いている。
しかし、裏ではこうして情報の奪い合いを行っているのだ。
僕は峡国へ潜入した後、すぐ行動に出た。
多少はハッキング技術を持っている。
ひとまずお手並み拝見とさせてもらうか。
インターネットカフェから政府機関のサーバーにハッキングした。
どんどん奥に入っていくと流石に相手のハッカーに気付かれた。
捕まるか捕まらないかの攻防をしていると、僕が使用しているパソコンブースに3人の大男が入ってきた。
しかし僕はそこまで間抜けではない。
別のパソコンからネットカフェのパソコンを経由してハッキングしている為、そのブースはもぬけの殻だ。
そう簡単に捕まらない。
監視カメラをハッキングした映像を確認すると男3人の顔ははっきり映っていた。
この人たちがハッカーと関わっているのは間違いない。
僕はすぐハッキングをやめて男たちの情報を調べると、やはり公安の人間だった。
そして国に依頼されるほどの天才ハッカーというからドキドキしていたが、それほどでもなかった。
僕の方がハッキング技術は上だろう。
このままハッカーの情報をハッキングで盗み出すのもいいが、その前に周りから固めていくことにした。
男たちは周りを気にしながら車へと乗り込んだ。
車はすぐ発車し、公安の別棟に入っていった。
こんなところに公安局があったとは。
公安員が控えているであろう建物の場所を突き止めた。
先程と同じネット経由でこの建物のサーバーにハッキングすると、流石にすぐ見つかり追いつかれた。
僕が先にハッキングしたサーバーとは桁違いな程の天才ハッカーが存在するのが分かった。
僕のターゲットはここに居る。そう確信した。
天才ハッカー、勝負だ!
僕はもう一度サーバーのハッキングを始めた。
1つ目のセキュリティーを越え、すぐに相手が追いかけてきた。
逃げながらウィルスを仕掛けて時間を稼ぎ、2つ目のセキュリティーを越える。
相手もすぐに追ってくる。
3つ目、4つ目とセキュリティーを越えて5つ目のセキュリティーを解除しようと向かっている途中にターゲットとなる人物の情報を見つけた。
見逃すところだった。
個人情報とは普通、最深部に保存されているものだ。
しかし、その常識を逆手にとって途中に保存されていた。
通り過ぎて最深部に到達したものの、情報が無いとなれば袋のネズミになる。
良く考えられている。
僕はすぐにターゲットの情報をコピーし、ひとまず最深部に向けて逃げ続けた。
途中のデーターに気付いていない振りをする為だ。
合計8つのセキュリティーを抜けて最深部に到達すると、やはりもぬけの殻だった。
追いつかれる前にウィルスを置いて退散した。
コピーした情報を確認すると、天才ハッカーは赤聖国民だった。
なるほど。ハッカー王国と言われた峡国も、結局は赤聖国に頼っていたということか。
赤聖国にこの情報を送り、増援を頼んだ。
国からの指示はこの後にハッカーの拘束だったが、ハッカーが赤聖国民だったということからハッカーに直接、赤聖国へのハッキングを禁じると指示し、契約違反をした峡国に対してスパイ派遣の中止処置を取った。
峡国のハッキング技術は結局、赤聖国の力だったと世界中に知れ渡り、再び赤聖国への警戒と信頼が高まった。
逆に峡国は他国から数多くのサイバーテロを受けて、情報流出が止まらない状況に陥っていた。
僕はその後の峡国には全く興味が無い。
次の任務も完遂するだけだ。
一度赤聖国に戻り、久しぶりに家に帰った。
「おかえりなさい」
「ただいま。元気だった?」
「ええ、私達は全く変わってないわよ。純は随分変わったみたいね」
「純……か。久しぶりにその名前で呼ばれたよ」
本当の名前を呼ばれたのはいつぶりだろうか。
号国で優太さんに会った時以来だろうか。
僕もあの日から随分変わった。
仲間の死はこれほどまでに人を変えるのかと思った。
「純。スパイなんてしてると人が変わるのは当然のこと。ただ、己を持つことが大事なの」
「己を持つ……」
「国の言いなりになって任務完遂にこだわってたら、あなたいつか己を見失うわよ」
「でも僕はスパイだ。任務を完遂しなければ誰かの命が危険に晒されるかもしれない」
「そうね」
お母さんは黙り込んでしまった。
僕も気付いている。
このままだと国の兵器と化してしまうんじゃないかと。
お母さんはそれを経験しているから、今の僕が兵器になっていくように見えるんだろう。
でも僕もこれ以外の方法が見つからないで居た。
優太さんを亡くしてからいくつ任務を完遂してきただろう。
赤聖国内では任務完遂率100%を誇る僕の名が広まりつつあった。




