第23話
号国…インド語圏の国。赤聖国に対抗出来るのではないかと言われる唯一のスパイが存在する国。
――――号国。
「あちぃ~」
僕は号国に着いてからタクシーで拠点先に向かっていた。
「お客さん、これで暑いって言ってたらこれからどうやって過ごすおつもりですか?」
「何? これ以上暑くなるの?」
「今日はまだ40度ですから。一番暑い日で55度ぐらいまで上がります」
「55度!? どうやって暮らしてるんだよ、この国の人は」
「よく言われますが、実際その日が来たら何とかなるものですよ」
「そんなものなんですかね……」
この国は1年中真夏日のような気候だそうだ。
最高気温が55度になる2月。
それは1ヵ月後に迫っていた。
僕はこの国でどれぐらい任務を続けるのか分からないが、出来れば早く退散したいものだ。
タクシーの運転手に運賃を払って降りた場所は立派なレンガの建物の前だった。
「お疲れ様です。お待ちしておりました、松田様」
「よろしく」
「こちらへどうぞ」と丁寧に案内をするメイドに着いて中に入った。
建物の中は涼しい。日差しがないだけでこんなにも体感温度が変わるのかと驚いた。
沢山部屋が並ぶ中、一つの扉の前に立ち止まった。
「失礼します」とメイドは扉の向こうに声をかけて返事を待った。
しかし中からは返事が返ってこない。
メイドもそれ以上何も言わない。ただ、扉を見つめてじっと待っている。
1分ほど経っただろうか。メイドはまだ待っている。
僕もとりあえず待っている。すると扉が開いた。
「どうぞ」と執事らしき男が僕だけ中に誘導した。
メイドは「失礼します」とお辞儀して去っていった。
あの間は一体なんだったんだ。
警戒しながら中に入ると男が2人、女性が1人座っていた。
「待っていたよ。君が噂の松田くんだね」
「噂? 何のことでしょうか」
「ははは、本人の耳にはまだ届いてないようだね。まあ座りなさい」
男の名は東條。これから僕の父親になる男だ。
隣には見覚えのある男が座っていた。
「久しぶり。僕のこと覚えてるかい?」
「もちろんです。お久しぶりです、優太さん」
「あはは、懐かしい名前だ。今は村井光輝なんだ。でも、今回の任務では兄貴だがな」
「光輝さん。何だか言い慣れないですね、あはは」
久しぶりに昔馴染みの人と会えて嬉しかった。
しかし懐かしんでいる場合でもない。
今回は東條さんと光輝さん、そして母親役の野々村さんと4人で家族として暮らして任務を遂行していく。
執事の男は山崎と名乗った。
女中や従僕が数人、僕たち家族の世話をする人たちが屋敷に8人いた。
この国では、父親の東條さんが印刷会社の社長で、兄の光輝さんが跡継ぎ、僕も同じ会社で働いているという設定だ。
会社に向かい、普通に仕事を始める。
父は長年の苦労の積み重ねで会社を大きくしていた。
兄も去年から働いているらしい。
そして僕は今年入社の新人だ。
身内だからといって甘やかされる事もなく、ただ必死に仕事を覚えた。
営業回りで追い払われたり、売り込みを快諾してくれたり、様々なお客さんと触れ合いながら、情報を探す糸口を探っていた。
ある日、父が仕事終わりに人と会う約束をしてきた。
父が会うのではなく僕が会うために。
父の言う場所へ向かうと、男が1人待っていた。
男は透国のスパイでシンコウと名乗った。
今回の任務には必要不可欠な存在になるらしい。
今日の所は挨拶がてら食事をしただけだった。
次の日、朝食をとる僕たち家族に情報が舞い込んできた。
父に耳打ちをする山崎。
そして父が頷き口を開いた。
「お前たち。国からの追加任務だ。号国のスパイが赤聖国に潜入したという情報が入った。我々の情報が漏れるという事は無いと思うが、号国もスパイに警戒しているのは事実。潜入したスパイの素性を暴けとの事だ」
「そんなこと、俺たちに出来ますかね」
「光輝、出来るかどうかの議論は必要ない。やらなければいけないんだ。そうだろ? 翔」
「そうですね。何なら公安にでも忍び込みますか?」
「あはは、公安に直接乗り込むというのか。しかし侯国と違ってこの国はスパイの精度が高い。やめておけ」
「あはは、冗談です」
僕たちはこの国のに潜入している様々な国のスパイと接触した。
しかし、それは身の危険を晒す行為でもあった。
僕たちの屋敷に押し込むように号国の公安局が乗り込んできた。
「ちょっとやめて下さい!」
廊下で響く山崎の声に家族全員が気付いた。
しかし逃げる間もなく部屋に大勢の人が入ってきて銃を向けた。
僕たちは抵抗する事もなく全員連行された。




