第22話
那国のスパイの一件を終え、僕たちはすぐに次のスパイ情報の捜査に入っていた。
まだ初期段階の為、局内で情報整理中だった。
相方は隣の席で同じようにパソコンを打ちながら情報整理をしている。
他にも沢山の人が無言でパソコンに向かってキーボードを叩いている。
キーボードを打つ音だけが鳴り響く部屋。
その音をかき消すように警報器が鳴り響いた。
ジリリリリ!!
「容疑者が逃亡!容疑者が逃亡!館内完全封鎖!」
秀国のスパイ、やっと動いたか。
有能な人物だと良いのだが。
僕は侯国の公安の人間として館内を探し始めた。
この時ばかりは2人1組制度は解除され、相方の監視も外れる。
絶好のチャンス。
階段を上り廊下を曲がると、そこには逃亡中の秀国の男がいた。
相手は僕が仲間という事を知らない。
いつ侯国の人間が来るかも分からない為「仲間だから安心しろ!」なんて呑気な事は言っていられない。
敵と思って男は襲いかかってくる。
受け流して回避するが、別にここでこの男に勝つ必要はない。
男が僕を投げ飛ばす為に胸ぐらを掴んで来た。
ちょうど侯国の人間も追い付いて後ろの階段を上がって来ている音がしていた。
「俺を公安の奴らに向かって投げろ。後は派手に飛んで足止めしておいてやる」
男は驚いた顔をしていたが迷っている時間も無い。
僕を全力で投げ飛ばし、走り去って行った。
僕は階段を上がって来た4、5人を巻き込むように着地し、団子になって階段を落ちていった。
「す、すみません」
「痛てててて」
「怪我はありませんか?」
「全身打撲だよ。どこまで怪力なんだ、あの男は」
「僕も初めてあんなに飛びましたよ。あははは」
「笑い事じゃないよ君。せっかく見つけたのに逃げられたじゃないか」
「すみません」
結局、秀国の男はそのまま逃げきった。
公安局内はより一層の警備強化を行ったが、それ以上に逃走の手助けをした奴が居るのではないかと、スパイ探しが始まっていた。
あの時、男に接触したのは僕も含めて3人。
もちろん最も疑われるのがこの3人だ。
今までの仕事や行動を徹底的に調べ上げられ、局内でアクセスした場所も調査範囲だった。
もちろん僕は公安の内部情報を盗む為に様々な場所にアクセスしていた。
しかし、それはどの公安の人間も同じだ。
公安として国の内部情報まで調べるのは当然の行動である。
だから、公安にスパイが忍び込んでいると情報が筒抜けで危険極まりないというわけだ。
公安は血眼で探し始めた。
その頃秀国では――。
逃亡に成功した男は、僕が奴のポケットに忍ばせておいた情報の暗号に気づき、しっかり秀国に持ち帰っていた。
侯国の軍事力の源を記したものだ。
僕でも手に入れるのには苦労した。
相方の目を盗んで国の内部情報に進入するまではよかったが、侯国の軍事暗号の解読には手を焼いた。
秀国のスパイが逃亡を仕掛ける直前に解読に成功したのだ。
館内に警報が鳴り響き、全員で捜索をしている間に秀国用に暗号化してその後、男に遭遇した。
男に遭遇したのは偶然じゃない。
みんな忘れて居る頃だと思うから言うが、僕たち赤聖国民にとって最も重要なアイテム。あの眼鏡だ。
眼鏡にはターゲットの現在地を知らせる機能がある。
今回はターゲットではなく仲間の現在地を侯国に来る前に登録しておいたのだ。
ここでひとつ、眼鏡の説明をする。
眼鏡自体は世界共通アイテムだ。
眼鏡をかけている人なんて赤聖国民以外にも何千万人と居る。
眼鏡をかけているから赤聖国民だ、という見極めは不可能である。
更に、眼鏡のデザインも多種多様。
最初に配布されるのは1人一つだが、スパイとして任務を行う人にはたくさんの眼鏡が支給される。
基本的に主の眼鏡もサブ眼鏡も他人とデザインが被らないように考慮されている。
もちろんサブ眼鏡も端末が内蔵されている。
では、使っていない眼鏡を盗まれると自分の情報が漏れるのか?
そういう誰もが思い付くような事に対する対策をしていない訳がない。
眼鏡はかけた人の脳信号を読み取って誰が使用しているのか感知する。
人の眼鏡を奪っても、眼鏡をかけてスイッチを入れれば自分の情報が表示される。
持ち主は誰なのか分からない。
また、赤聖国民以外の人がかけても何も表示されない。ただの眼鏡にしか見えない。
しかし、最初に配られた眼鏡だけは別だ。
主の眼鏡は他の人がかけてスイッチを入れても、持ち主の情報を表示する。
更に、規定の箱に収納していないサブ眼鏡の現在地も表示される。
つまり、主の眼鏡を誰かに奪われ、サブ眼鏡をかけて任務をしていると、主の眼鏡を奪った人に自分の情報を全て知られ、更には現在どこで任務をしているのかもバレる。
だから赤聖国民は基本的に主の眼鏡をかけている。
眼鏡の話はこの辺にして、秀国のスパイ任務も終えた。
後はいかに現状打破出来るかだ。
僕が手助けをしていたとバレればタダでは済まない。
しかし、タイミング良く秀国が侯国に仕掛けてきた。
サイバーテロだ。
軍事力に頼る侯国は、秀国のハッカーに手も足も出なかった。
公安局内も局内のスパイ探しをする余裕がないぐらい、これ以上の情報漏れを阻止する為に必死だった。
力で勝てぬなら頭で勝つ。
秀国の圧勝だった。
僕は公安を自主退職し、そのまま次の任務地へと向かった。




