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赤聖国で生まれた僕は  作者: 真灯出愼
第3章―選択―
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第16話

透国…ドイツ語圏の国。全地域が田舎のような町並みでのんびりとした国民性。他国からの観光客も多く、経済的に安定している国。

 小1として最後の授業の日、僕達はある選択をした。


―――このまま学校と平行して塾に通うか。


―――任務を優先して学校にも通うか。


それは、もう少し塾の生徒として学ぶか、実践で経験を積むかという選択だった。


 達樹くんは前者の学びを取り、僕は後者の任務を取った。

この選択が今後の人生を大きく左右することとなった。


 僕は年に3回、学校に登校する程度だった。

任務のほとんどは国内だったが、小学生の頃にしか出来ない任務だった。

それは、他の学校に潜入し、エリートになりそうな人材を見つけて、国に報告するというものだった。


 5年間、それを続けてすべての小学校を回りきった。

この5年間でかなり多くの人と出逢った。

後にスパイとして一緒に任務する可能性がある人達だ。

それは逆にスパイとしての致命傷にもなる可能性もある。

顔を知られれば、別任務で潜入する時にバレる可能性があるからだ。


 赤聖国民は必ずしも味方であるという保証はない。

もしかすると敵国に赤聖国民が潜入している場合もある。

僕の顔を覚えていればスパイだと直ぐバレるだろう。

そういう危険も承知の上での任務だった。

しかし僕はそこまで間抜けじゃない。

あまり深くかかわっていないし、すぐ転校してしまえば大人になった顔なんて覚えている訳がない。

教師は僕が任務で潜入していることを知っているからフォローもしてくれる。

抜かりはなかった。


 中学生になった今、僕はほとんど地元には居なかった。

久しぶりの登校で、僕は家に帰っていた。

お母さんもお父さんも何も変わらない日常を過ごし、いつも任務から帰ってきた僕が安心出来る場を作って待っていてくれた。


 全国民がスパイの要素を秘めているが、全員がスパイとして働いているわけではない。

お父さんもその1人だ。

会社勤めをして早20年。IT企業の係長だ。

もちろん笑いポイントの収入もあるが、「会社の収入の方が上だよ」といつの日か笑って答えてくれたことがある。

お母さんは専業主婦をしながらたまに任務を請け負っているそうだ。

お母さんの笑いポイントの収入はお父さんよりも遥かに上で、もしかすると会社の収入を足してもお母さんの方が上回っているんじゃないかと僕は予想している。


 小学校の任務を終えた僕が次に与えられた任務は、あの年末合宿だった。

あのエリートチームに配属されたのだった。

年末まではまだ時間がある。

僕は少しの間、ただの中学生として学校生活を楽しんだ。

達樹くんはすっかり背も伸びてたくましい体格をしていた。


「久しぶり」


 僕たちはこれ以上言葉を交わさなくても十分通じ合っていた。

達樹くんは今でも塾に通っているそうだ。

あの合宿も毎年行っている。

しかし、小1から6年連続で合宿に参加しているなんて随分勉強熱心だ。

変わったところを言えば、達樹くんは口数の少ない人になっていた。


 年末合宿まで3ヶ月。

僕は5年間普通の小学生としていられなかった分、任務がない今を中学生として生活を謳歌していた。

しかしそんな生活も2週間で幕を閉じた。

急遽任務が舞い込んできたのだ。

それは初の国外任務だった。


透国(トウコク)の西部に住むカムサという人物が人体実験を行っている。情報を入手せよ】


 僕は次の日、透国へと向かった。

飛行機で2時間と近い国だ。

空港から出ると路地に軽トラックが止まっていた。

助手席の窓をコンコンと2回ノックして「明日の天気は晴れかな」と聞いた。

運転手は「晴れるといいね」と言いながらロックを解除した。

僕はそのまま助手席に乗り込み、トラックは出発した。


「カムサは西部のムサノという地域に住んでいます」と言いながら資料を僕の胸の前に出してきた。

僕はそのまま資料を手に取り、情報を頭に叩き込んだ。

4時間ほど永遠と走り続け、ムサノに到着した。

地元の人にカムサについて尋ねると、全員「知らない」と首を振った。


情報にあった住所に向かうと、長年使われていないであろう古井戸がポツンとあった。

建物らしきものは何もない。

井戸の中を覗き込むとハシゴがかかっていた。

周りに人がいない事を確認してから井戸の中に入ってみた。


下まで行くと扉があった。

鍵は掛かっていないみたいだったのでそっと開けて中に入った。

中は奥に続く長い廊下。

人の気配は、全くない。

2分ほど歩き続けてやっと突き当たりに着いた。

腰の高さまでしかない低い扉があった。

壁の向こうにも人の気配は感じられない。

しかしここには鍵が掛かっていた。

途中に扉も無かったし、仕掛けも無かった。

今日の所は引き返して人の出入りを監視する事にした。


引き返そうとした時、入り口の方向から足音が聞こえてきた。

隠れる場所もない1本の廊下。

廊下は薄暗く、10mぐらい先までしか見えない為、足音は聞こえるが姿はまだ見えていない。

息を殺してこの後どうするか考えた。

時間を稼ぐ為に奥に戻ったが、こちらの存在に気づいたのか、足音が走る音に変わった。

どんどん近づいてくる足音に平行して僕の鼓動もどんどん早くなっていった。


「あれ? 確かに人の気配がしたんだけどな。隠れる場所なんて無いのにどこに消えた?」


男は少しの間入り口の方向をジッと見つめていたが、諦めて小さな扉の奥に入っていった。

僕は天井にへばり付いていた。

薄暗くて分からなかったが、かなり高い天井で3mはあった。

薄暗いこの廊下では天井は見えなかった。

音が出ないようにそっと降りて扉に耳を当てた。

何か物音は鳴っているが何をしているかは分からない。


 ひとまず入り口に引き返した。

廊下から井戸へ出る扉を開け、ハシゴを登って外に出ると既に暗くなっていた。

井戸の横にあった木に小型のカメラを設置し、国が用意してくれた部屋に戻った。

次に男が出て行った時、もう一度あの井戸に潜入する。

そしてあの扉の鍵を開けて中に入ってやる。


 そう思ってずっと見張っていたが、男は中々出てこない。

2日、3日、そして1週間が経った。

もしかすると出口が他にもあるのかも知れない。

そこから出入りしていたらいつまで経っても僕はここで足止めを食らう事になる。

確かめる為にもう一度井戸に向かうと、井戸の前に男が立っていた。


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