第15話
3学期が始まった。
学校では友達同士、お年玉をいくらもらったかと聞き合って盛り上がっていた。
もちろん僕も達樹くんもその盛り上がりの中に入っていた。
学校で居る時が唯一子供として居られる時間だった。
僕達は合宿が終わってから再開した塾で、とある選択を迫られていた。
学校が終わっていつものように塾へ向かい、地下へと続く家へ入った。
すると玄関に靴が並んでいた。
どういう事かと思ったが、はじめの時に説明を受けていた。
“玄関に靴がある時は来客中ということ。自分の靴も玄関に並べてリビングに挨拶に来る。それから講師の指示を待つこと”と言われている。
指示通り靴を脱ぎ、靴は玄関に置いたままリビングのドアを開けた。
すると、そこには涼さんが居た。
ここは国の管理下だぞ。
指名手配中のはずじゃ……。
僕は状況が全く読めず、ただ茫然と立っていた。
「おお、純くん。おかえり」
「こ、こんにちは」
絞り出してやっと出た声だ。
こんなところで何をしているのかと問うと、涼さんは「捕まった」と軽く答えた。
よく見ると手と足が拘束されている。
待て待て。
長きに渡って指名手配されてた人をやっと捕まえたのに、こんな軽くていいのか?
僕の混乱はどんどん増していった。
「この拘束、解いてくれないか?」
沈黙を破った言葉があまりにも想定外すぎた僕は開いた口が塞がらなかった。
「何を言ってるんですか? 僕、お母さんに聞きました。涼さん、国の監視下から逃げて指名手配中だったんでしょ? 解けるわけがないじゃないですか」
涼さんは僕の話が終わると「そりゃそうだ」と微笑みながら後ろを向いた。
しかし、お母さんが涼さんに会ったら聞けって言ってたな。
国の陰謀について詳しいって。
それに伝言も預かっている。
でも、もし先生がどこかでこの会話を聞いていたら僕も危険だ。
どうすればいいのか考えていると、涼さんは再び振り返ってニコッと笑った。
僕はどういう意味の笑みなのか分からなかったが、数秒後、かけていた眼鏡にある文字が表示された。
【この部屋は盗聴されている。君を陥れる罠だ】
やはり盗聴されているのか。
しかも僕を陥れる罠だと?
涼さんがここに居るのは、僕が国の陰謀を知っているのかどうか確かめる為の餌だというのか。
待てよ?
この文字、どうやって打ったんだ?
なぜ僕の眼鏡に表示されたんだ?
すると涼さんは再び笑った。
【これは僕が極秘に開発した技術だ。純くん、僕の仲間になれ】
なるほど。
国も知らない情報交換をやり取りする技術を開発したということか。
でも僕の意思が向こうに伝わらなければ会話が成立しない。
しかも盗聴されているとなると迂闊に話も出来ない。
【僕は今から逃げる。また頃合いを見て君を迎えにくるよ。それまでに考えておいて】
逃げるってどういうことだ。
手も足も拘束されているのに。
ただシーンとしたリビングで突っ立っている2人という光景はあまりにも不自然だった。
すると涼さんから仕掛けてきた。
「純くん、お母さんは元気かい?」
「は、はい」
「それは良かった。君のお母さんには悪い事をしたからな。謝っといてくれ」
そう言って近づいてきた。
知らない間に足の拘束を解いていた涼さんは、拘束されたままの腕を僕の頭の上から通し、いきなり首を絞めてきた。
僕は訳が分からず必死に逃げようともがいた。
しかし流石、プロ中のプロだ。
全く逃げる隙もなければ、あっという間に僕は気を失った。
目が覚めるとリビングのソファーで寝ていた。
起き上がると達樹くんが居た。
「目が覚めたかい? 家に入ったら廊下で倒れてたからビックリしたよ」
「達樹くんが運んでくれたの?」
「いや、先生だ」
達樹くんは僕の後ろに視線を向けた。
振り向くと先生が座っていた。
「何があった? あいつとは何か話したのか?」
「ここに来たら登美涼さんが居て、指名手配中の人だからどうしていいか分からず固まっていたら話しかけられて」
起きた事を全て話した。
眼鏡に表示された会話以外は。
先生は僕の話す内容を盗聴した内容と同じか答え合わせしているようだった。
眼鏡の会話は気付かれていない。
今回は、僕が家に来た時に丁度指名手配犯と居合わせ、犯人が逃走する時に被害を受けたという報告で終わった。
涼さんは仲間にならないかと誘ってきて、また迎えに来ると言っていた。
いつなのか。
それは結局分からなかった。




